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【完結】四度も婚約破棄されたのは、幼馴染の王太子が婚約者たちを試していたからでした  作者: 木風


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第一話 俺なら裏切らない

「――エレイン嬢との婚約は、なかったことにさせていただきたい」


 その一言を聞いた瞬間、「ああ、また」と思った。


 四度目だった。


 公爵令嬢として生まれ、十六歳で初めての婚約が調ってから三年。

 その間に、婚約者が変わること四回。


 しかも毎回、婚約が正式に成立する直前か、成立した直後に、決まって相手は別の令嬢へ靡いた。


 一人目は、女性には奥手だと評判だった伯爵令息。

 二人目は、礼儀正しく生真面目で、父親の事業を支える侯爵家の跡取り。

 三人目は、社交界では華やかだったものの、私には誠実に向き合うと約束していた伯爵令息。

 そして四人目となる目の前の男は、賭け事にも酒にも興味がなく、誰より堅実だと言われていた侯爵令息だった。


 その彼も、婚約披露パーティーからわずか二週間後、伯爵令嬢と密会しているところを使用人に見つかった。


 庭園の四阿で、手を取り合っているだけではなかったという。

 言い逃れもできないまま、婚約の解消を申し出てきたのだ。


「……そう。分かりました」


 そう答えるしかなかった。


 怒りよりも、もう疲れていた。

 問い詰めたい言葉も、責めたい気持ちも、最初の二回で使い切ってしまった気がする。


 目の前の侯爵令息は、どこかほっとした顔をした。

 その表情を見た途端、ほんの少しだけ残っていた未練まで消えた。


 社交界には、いつしか妙な噂が立っていた。


 フォスター公爵令嬢と婚約すると、どれほど誠実な男でも浮気心を抑えられなくなる。


 まるで呪いだと。

 私には男を狂わせる何かがあるのだと。


 けれど、誰より誠実に婚約者へ向き合ってきたつもりだった。


 趣味を聞き、家族のことを覚え、相手の領地や事業についても学んだ。

 忙しいと聞けば手紙を控え、会えるときには笑顔で迎えた。


 それでも駄目だった。


 その夜、私は王宮の一角にある、レオンハルト・ヴァイスロイト王太子の執務室を訪れていた。


 幼い頃から兄のように、時には悪友のように付き合ってきた相手だ。


 婚約や恋愛の話をするような相手ではなかったはずなのに、こういうとき、足はいつも彼のところへ向かってしまう。


 一人目の婚約が壊れたときも。

 二人目のときも。

 三人目のときも。


 毎回、真っ先に思い浮かんだのはレオンハルトだった。


「――というわけで、また振られたわ」


 長椅子に座り、背もたれへ身体を預ける。


「ねえ、殿下。私、何かおかしいのかしら。性格が悪いとか、女として魅力がないとか」

「そんなわけないだろう」


 執務机から顔を上げた。


 癖のある銀髪と、王家特有の切れ長の青い瞳。

 幼い頃から整った顔立ちではあったけれど、二十一歳になった今では、国内外の令嬢たちが一目見たいと騒ぐほどの美貌の王太子に成長している。


 昔は木に登って服を破き、侍従たちを困らせていたくせに。


 私の前では今でも、昔と変わらない顔をする。


「でも、四回よ。四回も続くなんて普通じゃないわ」

「普通じゃないのは男の見る目だ」

「その男を選んでいるのは、私とお父様だけど」

「ならば、お前と公爵の見る目も悪い」

「酷い」

「事実だ」


 いつもなら言い返せた。

 けれど今日は、喉が詰まった。


「誠実に向き合ってるつもりなのに、毎回毎回、直前で裏切られて。もう誰を信じたらいいのか分からない」


 こらえていた涙が、頬を伝った。

 人前で泣くことなど滅多にない。

 けれど、レオンハルトの前でだけは、昔から格好をつけられなかった。


 転んで膝を擦りむいたときも。

 母に叱られたときも。

 初めての婚約が壊れた夜も。

 彼だけは、笑わずに隣へ座ってくれた。


 手にしていたペンが机に置かれる。


「――俺と婚約すればいい」

「……は?」


 涙を拭う手が止まった。


「俺と婚約すればいいと言っている」

「どうして、そうなるのよ」

「ちょうど周りから、いい加減に婚約者を決めろとせっつかれていた。お前と俺なら気心も知れているし、悪い話ではないだろう」


 あまりに平然と言うので、すぐには本気にできなかった。


 今更、幼馴染と婚約。

 そんな都合のいい話があるのだろうか。


「冗談を言わないで。殿下は王太子なのよ。私と婚約するメリットなんて――」

「ある」


 即座に返ってきた。


「フォスター公爵家は建国以来の名家だ。国内に、お前と釣り合う家格の令息はもう数えるほどしかいない」

「それは、お父様にも言われそうな話ね」

「それに、お前が誠実だということは、俺が誰よりよく知っている」


 その声音には、冗談も同情もなかった。


「俺なら裏切らない」


 言葉を失った。

 真っすぐ見つめられ、胸の奥が騒いだ。

 逃げるように視線を外す。


「……少し、考えさせて」

「ああ」


 追いすがってはこなかった。

 ただ、帰り際に扉へ手をかけたところで、声をかけられた。


「だが、次はないぞ」

「何が?」

「お前に、五人目の婚約者を探させるつもりはない」


 その言葉の意味を問い返す前に、もう書類へ視線を戻していた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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