第1話
「あ、ヤバい……」
バックレた部下のかわりに徹夜で仕事をしていた俺が席を立つと、強烈なめまいにおそわれた。
世界がななめにかたむいていく。
倒れた先にあったゴミ箱に顔を突っ込みながら、俺は死んだ。
辞世の句は、『あ、ヤバい』だ。字足らずすぎる。
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気づいたら、俺は死後の世界にいた。
羽の生えた天使が目の前にいるから、たぶん死んだんだろう。
天使は身長50メートルくらいのクソデカイおっさんだった。
「転生処理すっからちょっと待ってな。ふむ、死因が……ゴミ箱? なんだこいつ……じゃあスキルも『ゴミ箱』でいっか」
いや、ゴミ箱とかいらないから。
もし転生するならもっとましな、チートとかいう奴をください。
「文句言うなよ。おまけで翻訳もつけてやるから。ゴミ箱と翻訳の抱き合わせ販売な。じゃ、いってらっしゃい」
クソデカ天使は俺の魂を握りしめたかと思うと、どこかへぶん投げた。
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まどろみの中、数日間すごしていたような気がする。
ようやく意識がはっきりしてきて、目を覚ますと、薄暗い部屋の中、ベッドの上で寝転がっていた。
「あぅあ」
ぷにぷにの手足、自分の口から出る声。どう考えても赤ちゃんだ。
まじで転生している。
ガチャリとドアが開いた。
入ってきたのは、黒髪黒眼のおっさんと、青髪青眼の美人さんだった。
「それで、この子のスキルが『ゴミ箱』というのは本当なのか?」
「はい……それは間違いありません。スキル鑑定師が三回も確認しましたから。でも、この子は私とあなたの……!」
「言うな! 許されんのだ。次男とはいえ、王族のスキルがゴミだなどと……聞いたこともないスキルなうえ、外聞が悪すぎる」
スキル? ゴミ箱? 王族? どれからツッコんだらいいんだ。
っていうか、この人達が俺の両親か?
「黒髪黒眼というのも、本来喜ばしい王族の証。だが、今は面倒なだけだ」
「この子はどうなるのです?」
「安心しろ、殺しはしない。だが、王家や貴族家で育てるわけにもいかぬ。……知り合いに物好きの馬鹿がいる。そいつにあずけるとしよう。スラム街に住んではいるが……悪人ではない」
もしかして、俺、いきなり親に殺される可能性あったの?
そして捨てられることはもう確定した感じ?
「あぅあ」
「まぁまぁまぁ。なんてかわいいのでしょう。それなのに……それなのに私たちはなんてことを……」
母親らしき女性が俺を抱き上げる。
ママンは俺を抱きしめながら泣き始めた。
静かな部屋でママンの泣き声だけが聞こえる。
気まずい……。
俺も泣いたほうがいい?
でも、俺まだこの赤ちゃんボディに慣れてないからさ、泣き方もわからないんだけど?
おい、親父、なんとかしてくれ。
「このまま捨てても容姿ですぐに王族だとバレる。少し処理が必要だ」
「……処理? なにをするのです」
ママンが俺を隠すようにしながら、親父から距離を取った。
親父は、その様子を気にすることもなく、ふところから小さな箱を取り出した。
パカリと箱を開けると、そこには金色の玉がふたつ入っていた。
えっ…………金玉?
……金玉ですか!?
こんなシリアスな場面でなにやってんだアンタ!
いくら気まずいからって下ネタでごまかすんじゃないよ!
「それは……まさか!?」
「そう、国宝『金視眼』だ。これを今からこの子に埋め込む。無事適応できれば、眼の色は金色となり、王族の特徴からは外れるだろう」
「魔眼を赤子に使うなど聞いたことがありません! 適応できなければ死ぬのですよ!?」
「その時はしかたあるまい。それも運命だ」
やっぱ俺、死ぬの!? 転生したばっかなんですけど! RTAすぎない!?
てか、その金玉そんなにヤバイ物だったのかよ。ふざけんな!
あっ、ちょっと、近づかないで……。
金玉を握りしめたおっさんが赤ちゃんに近づいていくなんて、絵面がヤバすぎるだろ!
ママンもドン引きで泣いてます! やめたほうがいいんじゃないですか!?
え? そのまま目に押し込むつもり?
やめろって……ほんとに……やめろやめろやめろ!
あっ、なんかぬるってした……意外とスッと入るのね……。
……えっ?
あっ、痛い…………痛い痛い痛い!
「おぎゃああああぁぁぁ!!」
激痛にのたうちまわりながら、俺は意識を失った。
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金玉目玉激痛事件によって気絶した後、ふたたび意識を取り戻した俺は汚い部屋の中で汚いおっさんたちに囲まれていた。
おっさんたちは赤子の俺を、四苦八苦しながら育てあげてくれた。
ここは王都の外れにあるスラム街なので、おっさんたちも正直まともな仕事をしていない。
だが、自分たちの食費を削ってまで俺を育ててくれた。
おっさんたちは特にこれといった定職にはつかず、『ギルド』という場所に通い、そこで短期の仕事を斡旋してもらっていた。
ギルドにはいろんな仕事がある。
魔物狩り、素材収集、傭兵、運び屋、盗み、暗殺、なんでもござれだ。まともじゃない。
昔は職種ごとにいろんなギルドがあったらしいけど、国の方針で統合され、ただ一つの『ギルド』という巨大な職業斡旋組織にしたらしい。
俺も12歳になるとギルドに所属し、ギルダーとして仕事をはじめた。
正直、俺はギルダーになるのが嫌だった。
元日本人として、犯罪まがいのことに加担するのは嫌だったし、荒事に自信がない。
仮に荒事にむいたスキルを持っていればふんぎりがついたかもしれない。
しかし、俺が持っているスキルは『ゴミ箱』『翻訳』だ。
『翻訳』はともかく、『ゴミ箱』はマジでゴミだった。
なにせゴミしか入ってない。
座ると音のなるクッション、金玉の破壊された信楽焼たぬき、ピコピコハンマー……などなど。
こんなんで何ができる?
じゃあ、まともな仕事を探そうかと思っても、そんなものはなかった。
そりゃそうでしょうよ。
だってここスラム街だよ?
俺、スラム街出身だよ?
「我、王族ぞ?」とか言っても誰も信じてくれない。
俺が生まれ育ったこのフラウス王国の王族が黒髪黒眼という特徴を持つのは、スラム街のやつらでも知っている常識らしく、黒髪金眼である俺の容姿を見て王族だと判断する奴は誰もいない。
よかったね親父。アンタの目論見は成功したよ。
あのクソ痛い処理により、俺は見事、金玉に適応したのだ。
その結果、俺の眼は金色になってしまった。幸い白目の部分は白いままだ。そこまで金色になると魔物扱いされるだろう。
ともかく。いろいろと悩みはしたが、最終的には俺もふっきれた。
前世では中途半端に真面目だったせいか、部下や上司の尻ぬぐいばかりだった。
正直者は馬鹿を見る、いい人は利用される。
もうそういうのは嫌だ。
俺は好き勝手生きるぜ!
犯罪上等!
目指せFIRE(ガッポリ稼いで早期引退)!
ってな具合で、ギルドでメンバー登録をして仕事をやり始めた。
いろんな仕事をこなしつつ気づけば俺も17歳。
おっさんたちの家から独り立ちし、自分のチーム『神のゴミ箱』を立ち上げた。
順調に仲間も増えた。
仲間が増えるほどに借金も増えた。
なぜか?
仲間全員クソスキル持ちのアホしかいないからだ。
表の仕事だけでやっていけなくなった俺は、泣く泣く裏の仕事にも手を出し、気づけば街一番のイカレ野郎と呼ばれる立派なギャングボスになっちまったってわけ。
そんな俺は今日もアジトで借金の返済計画に頭を悩ませていた……。




