メリエリナ
「ちょうどいい。この屋敷の人たちについて少し教えてほしい」
ウィンは客室の居間の長椅子に座ると、メリエリナに向かいに座るように促した。
「まずはポセワイゼス卿だ。彼は何をしに来たんだい?」
「詳しくは存じ上げません。旦那様の遠縁というくらいで……。あまり親しいという感じでもありません」
「ヘイセイス卿はポセワイゼス卿を嫌っていたの?」
「さあ、そこまでは」
「奥方はどんな人?」
「とてもお優しくて、お美しい方です。レンナーレ伯領の名門カルナポエス家のご出身です。執事のゲルネセルムも、私の母もカルナポエス家から奥様に従ってご当家にやってまいりました」
「ほう。カルナポエス家の名は聞いたことがあるな。君の母君は?」
「奥様の侍女をしておりましたが、5年前に病で亡くなりました」
「それはお気の毒に。君はこの屋敷で育って、母君と共に侍女になった、というところか」
「はい」
「誰がポセワイゼス卿を殺したと思う?」
ウィンの質問は唐突だった。
「こ、殺した? いえ、そのようなことがあるはずが……」
「この客室には誰も出入りできなかった。けど毒の容器は見当たらない。変だよね。矛盾している」
「侍女ごときには、分かりかねます」
「そう? 誰も出入りできない部屋で死んだなら、自殺だ。自殺なら、毒の容器があるはずだ。ポセワイゼス卿が、瓶ごと飲み込むびっくり人間でない限り」
「瓶ごと飲み込む人にはお会いしたことがありません」
「私もお目にかかった経験はない。だから存在しないという証拠にはならないけど」
「それで、監察使様は誰かが毒を飲ませて、毒の容器を持ち去ったとお考えなのですか?」
「ポセワイゼス卿が毒を瓶ごと飲み込むよりは可能性が高いような気がする」
「でも扉には内側からかんぬきが掛けられていた」
「あ、それだ。それを確かめるのを忘れていた」
ウィンは燭台を手に取ると、廊下に面した扉に向かった。
かんぬきはそれほど頑丈なものではなく、幅二セル、長さ十五セルほどの木片を扉と壁に渡すことで開閉できなくするという簡素な造りだ。客を閉じ込めるためのものではないので、廊下側には扉の開閉を阻む仕組みはない。
かんぬきは折れていた。
「廊下から体当たりでもしたのかな。ボキッと折れてるね」
簡素な造りとはいっても、このかんぬきを破壊するためには派手に体当たりする必要があるだろう。静かに壊すのは無理だ。
「毒を飲ませて、毒の容器を持ち去るのは不可能ではありませんか? ポセワイゼス卿はやはり自殺なさったのでは?」
「すると毒の容器がないのはやはりおかしい」
ウィンは首を捻った。視界が斜めになっただけだった。




