9くち 7
「それでさ、僕ってあんまりダン兄と関わらなかっただろ。今は家族だし、そこそこに話もするけどさ」
「そういやそうだな」
「ほやろ?ダン兄が日国姓になったのも、僕が日本に帰った頃と重なっていたし。あの人がメルナード姓だけの頃から関わりはあったけど、気づけば兄が一人増えていたって感じだったから」
「そうか、マシューからしたらそうなるのか」
「うん。まあ、色々あってこうなったって言うのは分かるんだけど、どういう経緯でそうなったのか気になってさ。バートは知っているだろ?当事者みたいなものなんだから」
「教えろって?」
「そう」
クリアブックを見つめたまま、バートは「なら教えよう。ダンケのことは家族なら皆が知っていなくちゃならない。これは聞きたいか聞きたくないかの問題じゃない。家族としての責任の問題なんだ」と言って、一枚のカードを見つめた。
"没落貴族-ゾール-"と言うソルジャーカード。
カードテキストにはこう記されている。
「攻撃力1500/防御力2000…効果/敵味方全てのソルジャーに、OL100を代償にサポートカードとして強制装備。ソルジャー兼サポート。双方オフィサーは、自陣のゾール装備ソルジャーの数×300のOLを、毎ターン支払わなければならない。
①ソルジャーとして破壊されたゾールは、それまでに支払われてきたOLをゾールオフィサーに献上する。
②サポートとして破壊されたゾールは、それまでに支払われてきたOLを双方オフィサーに均等に返上する。
特殊効果:アブディケート」
ここで言う「オフィサー」とはこのゲームのプレイヤーのこと。「ソルジャー」は「オフィサー」が使役する部下/兵士のことだ。
マシューが昔使っていたカードなのか、使用した形跡が見られ、しかもクリアポケットの上には付箋が張り付けられていた。
付箋にはこう書かれている。
"「ゾール特殊効果:アブディケート…ソルジャーとして破壊された場合、ゾールはサポートカードとして場に残り続け退陣はしない。OLを削り続ける効果も半分になるが持続する。サポートカードとして破壊した場合にのみ、ソルジャーとしても破壊され、退陣する。サポートカードとして破壊しなければ厄介」"
バートにはカードテキストにもマシューの付箋にも何が書かれているのか理解出来ない。
しかし、それを端から見るマシューには分かる。
没落貴族-ゾール-。
このカードは、ダンケによく似ている。
バートはよれている付箋を指で押し広げながら、また口を開いた。
没落貴族・イングリス一族から弾き出された、ダンケ・イングリスの昔話だった。