9くち 6
家族でショッピングモールに行ったとき、母の手を振り払って迷子になったバートが、見知らぬ薄汚い女に抱き上げられて店を出て行こうとする背中を見た時はゾッとした。その後の、バートを取り返そうと鬼の形相でキャットファイトを始めた母親のこともよく覚えている。
だからと言って、"他人を全て信用するな"なんてことも言えない。
バートの世界を狭めてしまうようなことを、誰もしたくない。
それに、この打算も値踏みも無い人好きのする無防備な好意的態度が、バートがバートである魅力の一つで、だからこそ彼は「ビッグでマルチなエンターテイナー」になれたのではないかとも、最近は思う。
余計に否定的な言葉をかけづらい。でも、だけど…。
「頼むよバート」
「でも、マシューだって知らない人と話くらいするだろ?列に並んでいたり、格好良いスニーカーを履いている人がいたらさ。気があったら友達になるはずだ」
「僕は人間性を判断出来る。その為の時間をたっぷり作って段階を踏む。でも、お前は判断出来ないだろ。初対面の挨拶は"よう兄弟"だ」
「出来ないわけじゃない。何事も多く時間が必要になるだけだ。ただ、時間がかかるのは面倒だから、色々な過程をすっ飛ばして遊ぶんだ」
「すっ飛ばすと危ねぇんだよ!お前は俺より段階を踏まなきゃいけないの!」
「ずぇっ!」
隣に座ってきたバートの頭に拳骨を食らわせた。
バートはたんこぶが出来たかもしれないと頭をさすりながら、デッキ調整中で、テーブルの上に並べられたトレーディングカードを見た。
「この間のウィッチとメイデンのカードを入れるのか?」
話をすり替えてきた。
もう怒鳴られたくないのだろう。
マシューも、せっかく楽しんできたのであろうバートの気持ちにこれ以上ケチをつけたくなかった。なにも無かったのだし、叱りはしたのだから。
「あれはもうとっくに入れてある。今日は、この間買ってきたパックを開けたら面白いカードが入っていたから、それを入れようと思うんだ。ついでに、デッキの中身そのものを見直そうかと思って」
興味があるのか、せっかく綺麗に並べたカードを乱そうと伸びてくるバートの手を叩いて、マシューは端に置いておいた作りかけの新デッキにカードを一枚積んだ。
「ところで、バートが遊んでいる間、僕はダン兄と話したんだ」
「そうか」
また伸ばしてくる手を叩いて、「これを見ていろ」と言わんばかりに、デッキには入れずにコレクションしている重複カードや戦力外カードが詰まったクリアブックを渡した。
受け取ったバートは早速それを開き、透明ポケットに納められたカードを興味津々に見ている。
ダンケの話をしていると言うのに、カードの方への関心が強いようだ。




