くそ野郎め
今日は土曜日、裕太の休日だ。今回は俺を裕太の友人に会わせるという体で外出する。笠井さんと近くの公園で待ち合わせる予定だ。しかし、公園にはまだ笠井さんの姿はなかった。ちょっと待つか。
この土曜日まで笠井さんが集めてくれた情報はたくさんある。
まずは、夏希の周辺の調査をしていて、夏希に接触していた男がいたという情報だ。その男は神崎明、30歳。仕事は夏希が勤めている病院で外科医をしている。笠井さんはさらに調査をしていると、夏希と神崎がホテルに入っていくのを何度も目撃したという情報を聞き取った。つまりは夏希が浮気をしていたということだ。さらに、事件の日の夜の神崎のアリバイは無いらしい。
俺を殺した犯人は神崎でほぼ間違いないだろう。しかし、困ったことに証拠がない。俺のアパートの周りの監視カメラでは、アパート近くをフードを被った男が通ったことしかわからず、背丈的には神崎に似ているが、それが神崎かは断定できないらしい。それに、現場には指紋も残っていないらしいし、凶器は俺が部屋で使っていた包丁。証拠が不十分で、逮捕状を出すのが難しいとのことだ。事件当日に使っていたフードを見つけ出すことができればってとこか。
「お待たせしました。」
笠井さんがやって来た。息を切らしているから走ってきたのかな?それから俺達は夏希の実家へと向かった。夏希に裏切られたと感じた俺はもう復讐のことなんかどうでもよくなっていた。早く終わってくれと、ただそう思うばかりだ。夏希の実家に着き、夏希を呼び出す。低めの身長、細い体つきのよく見慣れた姿の女性が出てきた。夏希だ。よく見ると、表情がぐしゃぐしゃで、少し痩せた感じがする。
「夏希さんですね。はじめまして、私は警察の笠井と言うものです。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
笠井さんは警察手帳を出しながらそう言った。
「あっ・・刑事さんなんですね・・。そうですよね・・すみません、出頭する前にお母さんに一言だけ言ってきてもいいですか?」
!夏希は罪を認めている。笠井さんはどうぞと言い、夏希は家の中に入って行った。しばらくすると、夏希と夏希のお母さんの泣く声が聞こえて来たと思ったら、2人で玄関にやって来た。夏希のお母さんはひたすらごめんなさいと謝るばかり、収拾がつくまで少し待った後、夏希は俺達と一緒に警察署に移動した。警察署の取調室に着くと夏希は口を開いた。
「私は、私の彼氏であった雅樹を殺しました。」
夏希の声は震え、目から涙がこぼれている。
「ゆっくりでいいので、何があったか話してもらえますか。」
「はい。話は半年前に遡るのですが、私の勤めている病院に神崎先生がやって来たのです。神崎先生は私が雅樹という彼氏がいることを知ってもなお、まとわりついて来たんです。私は当然、止めてくださいと突き放していました。ですが、今年の2月のある日、神崎先生に病院の一室に連れ込まれたと思ったらいきなりレイプされたんです。そのとき、神崎先生は私の恥ずかしい姿を写真に撮り、脅迫してきたんです。それからは地獄でした。神崎先生に何度もホテルに連れ込まれたりしましたし、それを誰にも話すことはできませんでしたので。そしてつい先月、彼氏であった雅樹からプロポーズを受けたんです。私はとても嬉しかったですが、神崎先生のことをなんとかしなきゃと思ったんです。それで神崎先生に結婚するからもう許してほしいと言ったんです。すると神崎先生は、「わかった。でも、一度その雅樹くんと会って話がしたい。」と言い、さらに雅樹を怒らせるかもしれないから、精神安定剤を気づかれないように飲ましてくれと言って薬を渡してきました。私はそれが睡眠薬とは知らず、雅樹に飲ませてしまいました。それから、雅樹は神崎先生に殺されて、神崎先生は「君も雅樹くんを殺したんだ」と言ってさらに脅迫してきました。そして今に至ります。」
神崎め!お前さえいなければ!殺す!絶対殺してやる!