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シェード 2

 「凡庸な娘ではないか」

 差し出された酒を手に取り、男は唇を歪めた。

「方々がお気になさるような娘には到底思えん」

 まぁ、歌はそれなりに聴けたが。

 呟くと男は、手にした杯を傾け、満足そうに喉を鳴らした。

「田舎ではあるが、酒は旨い」

 いや、田舎だからか。と、嗤うと、周囲も同じように嗤いをうかべる。






「見てくれがいいだけに、醜悪よね」

 壁いっぱいに映された巨大スクリーン。いや、まさか彼らがこんな芸当ができるとは思っていなかった。


まぁなんつーか聞いた以上にすごいわ。王宮内の客室なんだから、元々それなりに煌びやかなんだけど、それが三割増しにきらきらしてる。

「乙女ゲームの世界ならイケメン逆ハー?」

「…少し…いや、大分違う、何かが大きく違う」

 何か聞こえるけど、とりあえずスルー。

「アンタねぇ。…もう、いいわ」


 よくもまあ、揃えたなってカンジ。お付の侍従から、騎士、メイドさんに小姓に至るまで煌びやかな面々が控えていらっしゃる。とはいっても、一番オウツクシイのは、あの部屋の主賓様ではあるが。


 しかし、田舎、ねぇ。シェードは鉱物の生産が主な産業で、次いで農作物。内陸地なんだから、海に面した国に比べれば、立地による発展の仕方が違うから、当たり前じゃん。この『風光明媚』さを良しとしないなんて、どういった審美眼をもっているんだろう、この方。



「ホント『見てくれ』重視」

 馬鹿にした口調でアキが嘲う。いや、お嬢さん、別の意味で似合うから、その笑いやめなさいね。




『いかがいたします?』

  聞こえた声に視線をスクリーンに戻す。

『ロザリアの話では、『白虹』様と『漆黒』様が一時期、娘の傍に付いていらっしゃったのは確かだ。理由は分からぬが、あの娘が、キャサリン殿と懇意だから、だの、カーマインと懇意だからという証言があるからな。その辺りだろう』

 対外的には、そのロザリアさんの婚約者でもあるフランドル公が後援者、って事になっているんだけどね。っていうか、彼らと公が既知の間柄ってこともひょっとして知らなかったのかな?あのお姫様は。


「ロザリアっていうのは、アレか、フランドルの婚約者――国王の姪っ子だったか」

「あの男の血縁者か。所詮は温室育ち、という事だな」

 レイさん、そんな…キツイっす。否定はしませんが。

 我侭っていわれれば否定できないけど、身分で人を測るような人ではなかったね。世間知らずだな、とも思ったけど、王族の箱入りって事を考えれば、ましな方だと。

「例え身内であろうとも言って良い事と悪いことがある…などと思いもしないのだろうな。自分の置かれた立ち居地を知らぬにも程がある。よくもあのフランドルが傍に置く気になったものだ」

「一時噂になったからな…フランドルに一目惚れして、相当押し捲ったらしい」

 ああ、それレーエンさんから聞いたことがある。根負けしたというか、絆された、というかって笑っていたっけ。



 だが、それよりも何よりも。


「人の部屋であんたたちは何をやってる」

「敵情視察?」

 何故に疑問形だ?セレス。

「ウィン殿が『面白いもの』を見せてくれるとおっしゃったからな」

 ウィンには『殿』をつけるのね、レイ。

「尊敬できる方には敬称をつける。当たり前だろう」

 さいですか。

 スクリーン…実際はウィンが姿を消して、向こうの部屋に居て見聞きしたものをアキが受け取って魔法で見せている、という言い方が一番分かりやすい。うん、考えなくてもプライバシーはどこ、とか色々あるけれど、「それくらい弁えている」と、言われてしまえばそれまでなので、口は噤む。

 怖いなんていいませんよ、はい。



 だが、しかし、彼らから出るのは他者を貶めている言葉ばかり、胸糞悪言ったらありゃあしない。

「…駄々漏れ」

「漏らしているもの」

 私の感じている嫌悪感は、彼らも同じらしく、見ている表情は苦い。

「しかし、あれがグランドの王族の一人って言うのもね。大丈夫かしら」

 見てくれ悪くないし、なんていうのか、他者を酔わせる術を持っているのは否定できない。カリスマとは少し違う、…なんだろう。

「誘蛾灯、とか」

 小さく笑ってアキが言う。それも違う気がするけどね。飛び込みたいとは思わないよ、うん。どっちかというと怖いもの見たさのほうが感覚的に近いかな。




『目障りでは有るが、田舎とはいえ、王宮に召されたのであれば、手出しは得策ではない。暫く様子を見る…ところでアレ等はどうしている』

 【アレ】という言葉の中に含まれた侮蔑にレイとセレスが反応する。

『は、餌を与えてはおりますが、余り持たぬかと』

『フン、まあよい、暫くは必要ない始末しておけ』

 その言葉が終らないうちにレイが消える。私だって叶うものなら行ってやりたい。

 魔族を崇拝している『宗教』でありながら、堕ちた彼らは道具としてしか見ない…『堕ちる』理由を知らないわけではないだろうに。




「もういいわ。アキ、ウィンに戻ってって伝えて」

「言わなくても来るわ。流石に、ね」

 部屋の中を包むのは怒り。…正直言えば、国ごと滅ぼしてやりたい感情に襲われる。あんな男を教祖と仰ぎ、王族とひれ伏す国など見たくは無い。

 民に、人に罪はない。普通ならそういうだろう。しかし、グラントという国の気風があの男を作ったのなら、本当に罪は無いのだろうか。


 あくまで、個人の感想です。念のため。だって、基本的に魔族寄りの考えなんだも~ん。






「一部の阿呆の為にお前が怒る必要は無い」

 …言っていることは素敵なんだけどね。人の膝枕で言う台詞じゃ、格好はつかないよ、カーマイン。



「人を裁くのは人、だ。心配は要らない、直に奴は滅びる」

 誰だよ、こんな子にそだてたの。


「ハハオヤ似だと、よく魔族に言われるんだが」





お久しぶりでございます。終盤に差し掛かったところで、詰まってなんとかここまで書き上げました。


すみません…としか、言いようが無い出来です。

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