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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第四章

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雷過触媒

 湖上都ミルフェリアの北区。

 街の外れ、水路の奥にある古びた排水塔。

 そこはすでに使われなくなって久しく、今では水鳥さえ近づかない――『濁環』の隠れ家としては、申し分ない場所だった。


「……ここだな」


 ギデオン・レオンハートは、薄闇に沈む塔を見上げてつぶやいた。

 鎧の表面には淡い水滴が光り、手には周辺地図がある。チェックマークを入れた地図と、目の前にある古い塔を見比べていた。

 隣には、斧槌を担いだフレイア。彼女は鼻をひくつかせて顔をしかめた。


「うっわ……臭い。塔から変なニオイしない?」

「腐敗臭だ。何か実験でもしていたのか……」

「最悪~……帰ったら熱いお風呂入ろっと」


 フレイアは舌を出して嫌そうな顔をしたが、すぐに真剣な顔に戻った。

 湖上の風が、二人の髪を揺らす。水の都の清浄な空気の中で、ここだけが異質だった。

 何かがある。元騎士、傭兵としての勘がそう告げていた。

 互いに、そのことを確認することもなく、ギデオンは言う。


「行こう。フィオナ殿の話では、このあたりが『濁環』の残党が逃げ込んだ最後の地点らしい」

「了解、ギデオン。アタシが前、アンタが援護ね」


 二人は、塔の扉を押し開けた。

 中はひんやりとした空気が漂い、壁面には苔と水垢がべったりとこびりついている。

 足元を流れる水は黒く濁り、底が見えない。

 ギデオンは慎重に歩を進めながら、壁の痕跡を指でなぞった。


「……焼けた跡だな。雷属性か、火属性か……精霊力であることに違いない」

「じゃあ、ディスの仕業で確定ってわけ?」

「まだ断言はできん。だが……可能性が高い」


 ギデオンは腰のポーチから金属筒を取り出し、床の黒い液体をすくった。

 液体は微かに泡立ち、紫の火花を散らした。


「どうやらアタリかもしれん。この黒い液体……水の汚染をした物質と似ている」

「……生きてるってこと?」

「ああ。この黒い液体、どうやら精霊力と関係があるのは確定だ。だが……このような黒い液体に精霊力を注ぎ込むなど、聞いたことがない。この液体……湖上国ミルフェリアの水ではない、別の場所の水と合わせ作られたのかもしれないな」


 フレイアの顔が強ばる。


「そんなもん、湖に撒かれたら……」

「……国ごと汚染される。だからこそ止めねばならん」


 二人は塔の奥へと進んだ。

 最上層へ続く階段ははあるが、上層階の床は全て抜かれ空が見えていた。なので最下層の部屋を調査――そこには、黒い液体で満たされた巨大な瓶が並んでいた。

 その中心には、奇妙な札が大量に張られた祭壇があり、禍々しさしか感じない。

 電光が微かに走り、部屋全体が静かに脈動していた。


 「うわぁ……キモッ。これ、全部汚染物質……?」

 「恐らく。いや、間違いない……見ろ、あれを」


 ギデオンが指さす先、祭壇の上には黒い塊が蠢いていた。

 それは人の頭ほどの大きさで、膜の中に光る核のようなものが見える。

 まるで心臓のように鼓動していた。


「これが、汚染物質の正体……」

「つまり、大当たりね」

「間違いないな。よし、これを回収し、分析を……」

「――させると思うか?」


 低く響いた声。

 その瞬間、どこに潜んでいたのか数人の影が現れ、ギデオンとフレイアを包囲した。

 フードを深く被り、黒いローブを纏う男たち。胸元には、濁った輪を象る紋章があった。

 ギデオンは、それがフィオナから聞いた『濁環』の紋章だと気付く。


「チッ……フレイア、切り抜けるしかないようだ」

「最高の展開ね。ふふん」


 ギデオンは精霊導器の盾、そしてメイスを構える。

 フレイアは斧槌を手にし、襲撃者に向けた。


「侵入者、二名確認。排除せよ」

「汚水に沈め、清き者どもを――!!」


 襲撃者は、一人が鞭を構え、あとの二人は剣を装備していた。

 精霊導器ではない。霊触者は一人、鞭であることから『混沌』に属する霊触者。

 フレイアはニヤリと笑って言う。


「来るわよ、ギデオン!!」

「心得た!!」


 敵の一人が放った雷撃をギデオンが盾で受け止め、火花が散る。

 フレイアは、接近してきた二人の剣士の剣を斧槌で受けとめた。

 そして、フレイアの背後にさらに数人の剣士が現れた。


「わお、潜んでた!!」

「隠密技能に特化しているようだ!!」


 ギデオンは割り込み、剣を受け止める。

 そして、怪力で剣士三人を一気に押し返し、メイスを使い連続で殴りつけた。

 フレイアも、槌で剣士の顔面を叩き砕く。剣士たちは吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。


「ギデオン、まだいる!!」


 だが、『濁環』の数は多い。五人、六人……十人近くが、塔の暗がりから次々に現れる。


「数が多いな……フレイア、後方を頼む」

「お任せ!!


 ギデオンは一気に前へ出た。盾を構え、黒衣の男たちを吹き飛ばす。

 フレイアは後方で斧槌を振り回し、襲撃者たちを薙ぎ払い続ける。

 そしてついに、ギデオンは敵の霊触者を盾で吹き飛ばした。そして、フレイアが斧槌を投げ、霊触者の胸に突き刺し、壁に縫い付ける。


「終わりだ」

「やば、みんな倒しちゃったじゃん。生きてるのいる?」


 フレイアが確認する。だが……生きている者は全員、自害していた。

 ギデオンは舌打ち。そして祭壇に目を向けた。

 そこでは――黒い塊が、より激しく蠢いていた。何かに反応しているのか、これまでにないくらい激しく脈動している。

 

「き、キモイ……ギデオン、それ持って帰るならアンタ持ってよね」

「わかった。とりあえず、布に包んで──」


 次の瞬間、紫電が通り過ぎた。

 一瞬の出来事だった。ギデオンの目の前にあった黒い物体が、消えていた。

 そして、階段の前にいた。


「危ない危ない……この『雷過触媒』は、まだ必要ですので」


 ふわり、と降り立った影。

 ギデオンと同じ金色の髪を揺らし、白衣を纏った少女……ステラ。またの名をシスカ・レオンハート。

 淡い紫電をまとい、黒い物体を抱えていた。

 ギデオンは目を見開いて言う。


「シスカ……!!」

「ですから、私はステラです。あなたの妹だった記憶はもうありませんよ」

「アンタ!! それ、どうするつもり!!」

「回収です。まったく……『濁環』も使えませんね。まさか、雷過触媒を聖遺物みたいに崇めるなんて。思った以上に早くバレちゃいました」

「……アンタ、目的なに? 水を汚染してどうするつもり?」

「研究素体が目的です。でも、思った以上に『協調』は優秀ですね。トラップに全く引っ掛からない。と……お話は終わりです。では」


 ステラは紫電を帯びると、一瞬で消えた。

 追っても無意味。フレイア、ギデオンはすぐに悟った。

 ギデオンは肩を落とす。


 「……逃げられた、か」

 「くっそー!! あの女、何考えてんのよ!!」

 「……『雷過触媒』と言っていた。それに、素体……守護の国で行った実験を、この国でもやるということなのか?」


 二人は、しばし沈黙した。

 塔の外から、かすかな水音が聞こえ、湖の波が揺れ、空に光が射していた。


「ここにいても仕方がない。ユウトたちに伝えねばならん」

「そうね……あの子、ステラが動いたってことは、ディスも近くにいるってことよね」

「……ああ」


 ギデオン、フレイアは塔を出た。

 もう間違いない。この湖上国ミルフェリアに、雷過導師がいる。

 ギデオン、フレイアは厳しい戦いが始まることを予感するのだった。

 

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