55 イングラシル共和国 part 01(改訂)
ここから2話は前振りになります。
展開は少ないので飛ばしていただいても大丈夫です。
イングラシル共和国
--------------------------------------------------
イングラシル共和国に足を踏み入れると、そこは魔物がうじゃうじゃと這い出す不気味な土地だった。
アリス:「ルクレール王国には魔物なんていなかったのに、ここにはなんでこんなにいるの?」
ミクリ:「ルクレール王国は、暗黒旅団が絶えず排除していたからね」
フノン:「でも、自然発生にしては多過ぎますね」
ディネ:「ルクレールの魔物がこっちに逃げてきたんじゃないの?」
アリス:「たしかに。ありえるね」
あまりにも弱い魔物ばかりが寄ってくるので、アリスは便利なアンデッド・アシンを召喚した。アシンを先行させて魔物を蹴散らし、自分たちはケルベロスに揺られながらのんびりと進むことにした。
ミクリ:「最近、楽して旅しすぎている気がするけど、いいのかな?」
アリス:「いいでしょ。効率的だし」
フノン:「アンデッドが護衛っていうのは、ちょっとだけ不便に思うけど」
アリス:「大丈夫でしょ! アンデッドだし、ご飯はいらない。眠らない。疲れない。最高じゃん!」
フノン:「……感覚が麻痺してる。やっぱりいろいろ不便だ」
イングラシル共和国の山道は、北東に向かって延びていた。
徐々に雪化粧した山々が見えてきたが、丸一日進んでも道中に村ひとつ現れない。
(どういうことだろう?)
アリスたちは口にこそ出さないが、不審に思っていた。
ディネ:「誰か近づいてくるわよ」
ノーム:「どうやら騎士のようですね」
フノン:「国境警備隊でしょう」
ミクリ:「まずい、アンデッドを隠さないと!」
アリス:「アシン! ケルベロス! リ、リバース!」
アリスが唱えると、アンデッドたちは影に溶けるように消えていった。
そこへ一人の女性騎士がやってきた。
西方国境警備隊 ナディア
--------------------------------------------------
ナディア:「私は西方国境警備隊のナディアです」
アリス:「私たちは、冒険者のアリスとミクリ、フノン、メリッサです。何かありましたか?」
ナディア:「冒険者でしたか。それなら魔物退治も仕方ありませんね。ですが、なるべく魔物は倒さないでいただきたいのです」
アリス:「どういうことでしょうか?」
ナディア:「実はこの国は人口が少なく、国境警備に人手を割くことができません。そのため、魔物を『天然の障壁』として利用し、外敵から国を守っているのです。今、西南の方の魔物が減ってしまい、困っています」
アリス:「でも、魔物を退治しないと我々が襲われてしまいます」
ナディア:「ええ。ですので、こちらをお渡しします」
ナディアは小さな鈴をアリスに差し出した。
アリス:「これはなんですか?」
ナディア:「魔物避けの鈴です。これを持っていれば、魔物は近寄ってきません」
アリス:「なるほど。魔物避けの鈴ですか、便利そうですね」
ナディア:「その鈴は我が国で開発したものです。今は貸し出しますが、この国を出る時には必ず返却していただきます。敵国に渡ると魔物による警備が意味をなさなくなりますので」
アリス:「わかりました。イングラシルを出る時にお返ししますね」
ナディア:「それでは、私はこれで。手薄になった西南の魔物を再配置しに行かねばなりませんので」
アリス:「お疲れ様です。私たちもこのまま進みますね」
アリスたちは、受け取った鈴をつけて道を進んだ。
驚いたことに、本当に魔物と遭遇することがなくなった。
ミクリ:「あの国境警備隊の人、強そうだったよね」
フノン:「国境を任されているくらいだから、それなりに強いとは思うけど……」
ミクリ:「でも、こんな何にもなさそうな国の警備にしては、ちょっと厳重すぎる気がしない?」
フノン:「確かにそうだけど。魔獣が入ってきても困るでしょうし」
ミクリ:「そうだけど……。アリス、警備が厳重すぎると思わない?」
アリス:「この鈴、すごいよ! この鈴が欲しい!」
ミクリ:「あれ? 無視?」
ミクリ:「ダメですよ、アリス。返せって言われたでしょ!」
アリス:「そうだっけ?」
フノン:「そうですよ」
アリス:「そうだね。やっぱり返さないとダメだよね」
ミクリ:「……もういいよ!」
アリス:「でもこの鈴、どういう仕組みになってるのかな?」
フノン:「魔道具の一種だと思うけど」
ノーム:「確かに魔道具ですね。魔法陣が付与されています」
アリス:「魔法陣か。ルナ召喚! サード・アイ! 鈴の魔法陣を解析せよ!」
アリスの呼び出しに応じ、ルナが姿を現す。解析の光が鈴を包み込んだ。
ルナ:「魔法解析、完了しました」
アリス:「ルナ、これと同じやつ使える?」
ルナ:「もちろんです」
アリス:「よし、じゃあこの鈴自体はいらないね。ルナ、戻っていいよ」
ルナが消えると、アリスは再び静かになった山道を見渡した。
アリス:「さてと。……本当に人がいないね」
ミクリ:「いないねぇー」
アリス:「村も現れないね」
ミクリ:「現れないねぇー」
アリス:「歩くの疲れたね」
ミクリ:「疲れたねぇー」
フノン:「……何言ってるの? あなたたち」
アリス:「暇だからね」
ミクリ:「暇だよねぇー」
ディネ:「あ! 七キロ先に人里の気配があるわよ」
ノーム:「五十、六十人規模の小さな村ですね」
アリス:「よっしゃ! みなさん、あと七キロですよ!」
アリスたちはようやく村に到着した。しかし、そこにいたのは活気のない村人たちだった。
村人A:「おや……珍しい。旅の人かね?」
アリス:「こんにちは! 私たちは冒険者です。この村で一晩泊めていただける宿はありませんか?」
村人A:「この村には、旅人なんてめったに来ないからなぁ……」
村人B:「隣の村まで行けば、泊まれるところがあるじゃろうよ」
アリス:「わかりました。隣の村にはどう行けばいいですか?」
村人B:「そこの道を五十キロほど行けば、隣の村に着くよ」
アリス:「はあ? 五十キロ……。わかりました。ありがとうございます」
アリスたちは教えられた道を歩き始めた。
アリス:「五十キロだって。簡単に言ってくれるよね」
フノン:「本当に旅人が来ない環境なんですね」
ミクリ:「あの国境警備を見たら、入りたいと思わないよ。物好き以外は」
アリス:「物好きですよ。私たちは」
ミクリ:「で、どうするの? 五十キロ、歩くの?」
アリス:「わかってますって。ケルベロス召喚!」
再びケルベロスにまたがると、アリスたちはあっという間に隣の村へ到着した。
そこは先ほどの村より規模が大きく、活気もあった。
アリス:「すみません、私たちは旅の冒険者なのですが、この村で泊まれる宿はありますか?」
村人C:「おお! ようこそイングラシルへ。珍しい客だ。宿ならそこの道を右に行って少ししたところにナターシャの婆さんの店がある。そこで聞いてみな。空いてるはずだ」
アリス:「ありがとうございます!」
アリスたちはお婆さんの店に向かい、無事に宿泊の許可をもらうことができた。
ナターシャのお婆さんは、夕食の席でイングラシル共和国について色々と教えてくれた。
**【イングラシル共和国:情勢メモ】**
イングラシル共和国は、独特な地理条件を持つ閉鎖的な国家である。
美しい盆地に位置し、四方を険しい山々に囲まれた天然の要塞。
山には魔物が徘徊し、外敵の侵入を拒んでいる。
国民性は極めて閉鎖的で、人口も少ない。
外部との交流はほとんどなく、行商人や旅行者も稀であるため、よそ者には冷淡な態度を取るのが一般的だという。
---
お婆さんの話はそこまでだったが、アリスは「念話」を通じて、バーストエンドミラージュ(マリアの諜報部隊)からの詳細な報告を受け取っていた。
アリス:(……なるほどね。表向きは発展していないように見せて、影では魔道具の兵器を製造・密輸している。それがこの国の主要な収入源ってわけか)
国境が魔物で守られているため、内部の秘密が漏れることはほとんどなく、長年安定した(独占的な)治安と経済を保っているようだった。
国民の半数以上が秘密裏に魔道具製造に携わっているため、面識のない者との交流は固く禁じられている。宿がある村が限定されているのも、そのためだろう。
アリス:「秘密の魔道具製造と密輸、か」
フノン:「どんな魔道具を作っているのか、気になりますね」
ミクリ:「マリアの報告には、具体的な兵器の種類までは書いてなかったの?」
アリス:「書いてなかった」
フノン:「知りたいですね……」
ミクリ:「調べに行っちゃう?」
アリス:「そうだね。そうしようか」
アリスたちは翌朝、工場があるという首都へ向けて出発することにした。




