28 新魔王誕生編 エピソード15 part1(改訂)
シェラール王女様
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シエステーゼ王国へ向かう馬車の中で、アリスは窓の外を眺めながら小さく息を吐いた。
魔王討伐の興奮がまだ冷めやらぬ中、彼女は心の中で新たな決意を固めていた。
翌朝、早々に馬車を出発させた一行は、リンデン王国軍とカンタレア王国軍の陣営に立ち寄った。
魔王とその軍勢を撃ち破ったこと、残存兵を今まさに殲滅中であることを簡潔に伝え、
アリスが北の魔王になったことは、まだ誰にも明かさなかった。
シエステーゼ王国に帰還すると、まず父王に正式な報告を行った。
魔王討伐の詳細を終えた後、二人がきりになったところで、
アリスは静かに告げた。
アリス:「父上……実は、私、北の魔王になりました」
国王は目を大きく見開き、しばらく言葉を失った。
やがて深いため息をつき、娘の肩に手を置いた。
シエステーゼ国王:「……シャル。よくぞ生きて帰った。
詳しくは後で聞くが……今は国が第一だ」
こうして魔王討伐は一応の終わりを迎えた。
アリスはすぐに提案した。
アリス:「リンデン国王、シグナス国王、カンタレア国王による4国王会談を召集してください。
議題は、今後問題となる北の魔王の領地と、3大魔王会議の行方についてです。
特に3大魔王会議は、人間にとっても重要な問題です」
早々に会談が決定し、場所はリンデン王国宮殿の大会議室に決まった。
出席者は以下の通りだった。
- リンデン国王フレデリック15世+宰相マイヨール
- カンタレア国王カエサリス13世+軍師グスタファン
- シグナス国王フェヨール3世+ノアール王女
- シエステーゼ国王ファルモス14世+シェラール王女
まずアリスが闇の魔王討伐の詳細を報告し、
続けて東の魔王アヴォスヘイムとの会談内容をすべて伝えた。
リンデン国王が即座に声を荒げた。
リンデン国王:「シェラール王女を北の魔王とするなど、そんなことはありえん。
議論する以前だ。話しにならん」
アリスは静かに、しかしはっきりと言った。
アリス:「私もやりたくないです。
それでは、3大魔王を敵にして全面戦争ということでよろしいですね!
私は魔王1人で精魂尽きましたので、後2人の魔王はみなさんよろしくお願いします。
勝てる自信がお有りのようですので。
私は実際に魔王と戦って、後3人は無理だと判断しましたけど!」
リンデン国王:「……んーーーん」
シグナス国王が穏やかに口を挟んだ。
シグナス国王:「確かに、最初に話を聞いた時にはとんでもないと思った。
だが、魔王3人にとっても今回の事態は受け入れられるものではないはずだ。
魔王たちにとってもパワーバランスが崩れては死活問題となる。
せっかく東の魔王が争うより平和な解決策を望んでいるのであれば、
こちらとて妥協せざるを得ないのではないだろうか?」
カンタレア国王も重く頷いた。
カンタレア国王:「私が今回の魔王討伐を言い出したわけだが、
倒さないと人間が滅びる運命であったから、倒すことしか考えていなかった。
いざ倒してみて、初めて、残った3人の魔王のことを考え始めた。
3人の魔王と敵対することは、考えただけで恐ろしい。
闇の魔王は1人だったから倒そうと思ったが、魔王全員を相手にすることは無謀としか思えん」
シエステーゼ国王が静かにまとめた。
シエステーゼ国王:「今は、魔王全員と敵対するか? 敵対しないか? のどちらかの選択である。
であれば、敵対しない方を取りたい。
シャルが魔王になれば、北の魔王と東の魔王が人間の側に付くことになる。バランスが良い。
しかし、敵対すれば、人間も疲弊して、魔王たちも疲弊する。あまり良い結果は生まないであろう!
そう考えれば、東の魔王の提案も事態を収束するためとして理解できる。
我国としては敵対したくない。
ただ、例えシャルが魔王になることをこちらが受け入れても、
魔王会議で南の魔王が反対したら、北の魔王が不在のまま、魔王同士の戦いが始まる。
人間はその煽りを喰らうかもしれん。どう思う? リンデン国王?」
リンデン国王はしばらく考え、宰相に視線を移した。
リンデン国王:「そうだな。言いたいことはわかる。確かに敵対するのはよくない。
何か敵対しないで解決する方法さえあれば良いのだが……
宰相! 何か良い方法はないか? 敵対せず! シェラール王女が魔王になることもない良い方法が?」
宰相マイヨール:「魔王たちも納得する方法となると難しいかもしれませんね。
もしシェラール王女が、東の魔王から情報を聞いていなければ、こういった議論もできていなかったと思います。
他に交渉できる材料をこちらは持っていませんので、
せっかく東の魔王が提案していただいているのでしたら、乗る以外ないかと思います」
リンデン国王:「……そうか。宰相がそういうのであれば他に方法は無いのかもしれないな。
あまり気は進まんが、東の魔王の提案で行くしか、事を収める方法はあるまい」
シエステーゼ国王が頷いた。
シエステーゼ国王:「私とてシャルを魔王になどしたくない。
だがそうすることが国々の一番の安定になるなら仕方あるまいと思う。
それでは、リンデン、カンタレア、シグナス、シエステーゼの国王が一致で、
東の魔王の提案に乗るということで魔王会議に望むことにする。
現時点では、東の魔王の提案が通ることは確実ではない。
もしかすると却下されるかもしれない。その場合には、魔王の出方をみて対応するということにしたい。
魔王会議には、4王国を代表して、シャルに行ってもらうつもりである。
この度はわざわざ集まっていただき感謝している。
それでは皆さん。国の安定のためお互いに努力しましょう」
こうして4国王による会議は終了した。
数日後、アリスは魔王会議に向かうことになった。
魔王会議の会場は南の魔王城。
北の魔王候補として、アリスとディアブロの参加が許された。
精霊たちは魔王には見えるため、
指輪などに籠って待つか、浮遊したままシエステーゼ王国に残ることになった。
ディネとサラとエントとセレネは「せっかくだからお茶でもしましょう」と、
その場に残ることにした。
アリスとディアブロはアルテミスのワープで南の魔王城へ飛んだ。
城に着くと、ディアブロが少し懐かしそうに言った。
暗黒神ディアブロ
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アリス:「南の魔王城に来たことあるの?」
ディアブロ:「はい。一度ございます」
アリス:「そっか。南の魔王ってそんなに横柄なの?」
ディアブロ:「はい。前の北の魔王の次に横柄でございました」
アリス:「要するに、ナンバーツーの横柄さね。
それは問題だね。実力ないのに、権威をかざすタイプってことね。
言うことはハッタリだらけと思っていいよね」
南の魔王城は北の魔王城より少し小さかったが、
中は豪華な装飾品や壁画、天井にも荘厳な装飾で立派だった。
まず控室に通され、かなり待たされた後、
ようやく会議室に案内された。
アリスはディアブロと共に静かに席に着き、
これから始まる3大魔王との対面に、胸を高鳴らせていた。
頭の中で、残った精霊たちの声が軽く響いた。
ウィプス:「アリスちゃん、頑張ってね! 僕らも応援してるよ!」
シルフ:「きっと上手くいくよー!」
ジェイド:「……危ないことはしないで……」
ノーム:「落ち着いて話せ。焦るな」
アリスは心の中で小さく笑った。
(みんな、ありがとう。
北の魔王アリスとして……ちゃんとやってくるよ!)
南の魔王城の重厚な扉がゆっくりと開き、
新たな波乱の幕が上がろうとしていた。
(続きは次話で)




