18 風の谷編 エピソード11 part1(改訂)
冒険者 アリス
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ギルドの扉をくぐった瞬間、いつもの活気ある喧騒がアリスたちを迎えた。
依頼掲示板の前で次の仕事を探していると、受付の女性が小走りに近づいてきた。
「アリスさん、ミクリさん!
ギルド長がお二人をお呼びです」
アリスは目を丸くした。
「えっ、私たち?」
奥の応接室に通されると、ギルド長が厳しい表情で待っていた。
「よく来てくれた。
みなさんの活躍は、ギルド本部からしっかり聞いている。
そこで、是非ともお願いしたい依頼があるんだが……」
アリスが身を乗り出す。
「どんな依頼ですか?」
ギルド長は地図を広げながら説明を始めた。
「最近、国内外で『風が吹かなくなった』という報告が相次いでいる。
空気が澱み、作物も育ちにくくなっているらしい。
原因を追っていくと、どうやら『風の谷』で何か起きているようだ」
ディネの声が、アリスの頭の中で響いた。
ディネ:「……風の精霊シルフの気配が、ひどく弱まっているわね」
アリスは小さく頷きながら答えた。
「そういえば、最近風を感じにくくなっていた気がします」
「今まで手の空いた冒険者に調査を頼んだのだが、ウィンドドラゴンが関係しているらしく、誰もそれ以上進めなくなってしまった。
そこで、実績のある者に依頼を出すことにした。
……ファイアドラゴンを倒した君たちに、白羽の矢が立ったというわけだ」
アリスは即座に頷いた。
「わかりました。お引き受けします!」
ギルド長がほっと胸を撫で下ろす。
「助かるよ。報酬は金貨50枚。成功すればさらに上乗せしよう」
アリスは少し考えてから付け加えた。
「実は、今回新しく魔術師をパーティに加えたいのですが、問題ありませんか?」
「もちろん、パーティメンバーは君に任せる。
推薦状が必要なら手配するが?」
「大丈夫です。当てがありますので」
ギルドを出たアリスとミクリは、旅の準備のため買い出しに向かった。
店へ向かう途中、薄暗い路地裏に入った瞬間——。
背後に、冷たい殺気が走った。
アリスが短剣に手をかけたその刹那、ディネの鋭い声が響く。
ディネ:「右斜め後ろ!」
不審者が素早く切り込んでくる。
アリスは体を回転させ、短剣で相手の刃を受け止めた。
「何者だ!」
サラ:「もう一人、左後ろの上から来るよ!」
ミクリが素早く反応し、その攻撃を弾き返す。
「アリスを狙っている!」
アリスは歯を食いしばった。
「私を……シェラール王女と知っての襲撃ね……!」
二人が同時に切り込んでくる。
ディネ:「今度は斜め上、右横!」
アリスは大剣を振り上げ、魔力を一気に込めた。
「アイスセーバー!」
冷気を纏った剣閃が弧を描き、三人目の影をも切り裂いた。
ミクリが地面に伏せた直後、冷気の刃が不審者たちをまとめて凍てつかせた。
悲鳴と共に三人のアサシンが倒れる。
アリスは息を整えながら剣を収めた。
「こいつら、アサシン……。
雇い主は魔王軍か……それとも王都の誰か……」
ミクリが周囲を警戒しながら言った。
「いずれにせよ、今後も狙われる可能性が高いわね」
アリス:「ありがとう、ディネ、サラ!」
ディネ:「ふん。当然でしょう。
でもアリスったら、まだまだ反応が遅いわよ。もっと自分を大事にしなさいよね」
アリス:「うるさいな! 今のは結構素早く対応したでしょ!」
サラ:「へへっ、でも俺の指示がなかったら危なかったぜ?」
アリス:「お前らまで調子に乗るな!」
ミクリが頭を抱えた。
「この会話……本当に頭が追いつかない……」
アリス:「大丈夫、すぐに慣れるって! ほら、ミクリもいつかツッコミ側に回る日が来るよ!」
ミクリ:「絶対に嫌だ」
二人が振り返ると、不審者の遺体はすでに跡形もなく消えていた。
アリスは小さく舌打ちした。
「面倒なことになってきた……」
翌朝。
ハイエルフの魔術師フノンが、軽やかな足取りで合流した。
「アリスさん、ミクリさん。
今日からよろしくお願いしますね。風の谷、非常に興味深いです」
アリスは笑顔で手を差し出した。
「こちらこそよろしく、フノンさん!」
三人は馬車に揺られながら、南西の風の谷へと進み始めた。
道中、フノンが静かに語り始めた。
ハイエルフの魔術師の冒険者フノン
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「私は魔法王国ルキアの出身で、かつて宮廷魔法師団に所属していました。
第362回魔術大会の優勝者だったのですが……どうしても『世界を変える未知の魔法』を探したくて、地位を捨てて冒険者になりました」
ウィプスが明るく声を上げた。
ウィプス:「すごーい! お姉さん、頭いいんだね!」
ジェイド:「……大会優勝者か。なるほど、ただの魔術師ではないようだな」
フノンは小さく微笑みながら続けた。
「古代遺跡をいくつも巡りましたが、邪魔が入ることばかりで……。
本当の意味で信頼できる仲間が必要だと、痛感していたんです。
だからこそ、あなた方のパーティに出会えた時は、本当に嬉しかった」
エントが優しい声で言った。
エント:「ふふ、素敵な出会いね。よろしくね、フノンさん」
亜人の村の手前で、馬車が突然止められた。
「そこの馬車! 止まれ!」
五人の聖騎士が剣に手をかけて立っていた。
正面の聖騎士が厳しい声で問いかける。
「尋常ならざる魔力を感じる。お前たちは何者だ?」
アリスは落ち着いて答えた。
「私たちは金級冒険者です。
ギルドの依頼で、風の谷の調査に向かう途中です」
聖騎士は少し表情を緩めた。
「そうか……すまない。最近この辺りで、亜人狩りを行う盗賊団が暗躍していてな。
旅人に扮して夜襲をかける手口らしい」
アリスは眉を寄せた。
「亜人狩り……許せないな。
何か力になれることがあれば言ってください」
「気遣いはありがたいが、大丈夫だ。見かけたら報告してくれ」
馬車が再び動き出すと、フノンが小さく呟いた。
「南部の辺境……まだまだ問題が山積みなのですね」
アリスは窓の外を見つめながら、心の中で静かに拳を握った。
(ウィンドドラゴン……
そして魔王軍の影……
ますます、ただでは済まなさそうね)
ディネが呆れたようにため息をついた。
ディネ:「ため息をつきたいのはこっちの方よ、アリス。
あなた、本当にトラブル体質なんだから……」
アリス:「うるさいなディネ! でも……ちょっと楽しみかも!」
(続きは次話で)




