第三章 芦沢病院 令和の赤ひげ先生
年齢不詳で今は還暦でも元気だ、昔はおばあちゃんだが、今はちょっと違う、でもおねさんではないだからおばちゃんだ!おばちゃんは人生経験も豊富、未来にも希望をもっている人生の甘い酸っぱいそしてはかなさもしっているおばちゃんたちがあなたの人生そんなに悪いものじゃないよとほっこりする探偵シリーズです
朝から幸子はバタバタしていた。
昨日は久しぶりにコノハや瑞穂、咲代と飲み会で、すっかり朝寝坊した。
「しかし瑞穂は相変わらずお酒強いわ・・」
「それにつけても、咲代はよくお店しっているわ安くて美味しいかった、お財布に優しい店最高」
「モグモグコノハもよく食べたし」
まー私たち4人集まると、飲む食べる笑うがセットだからねと苦笑いした
ラインにはお疲れ様ですスタンプがペタペタ幸子スタンプを押し、携帯をしまった。
事務所を出ようとしたとき
近所のおばちゃんがやってきた、
「あら、さっちゃんお出かけ?」
「ちょっとし仕事で芦沢病院にいってくる」
「へー珍しい さっちゃんの口から、仕事なんて」をわらった
「ごめんね、事務所開けておくから好きに使ってね。帰るときは鍵はかけてね、後で鍵とりにいく」というと急いででかけた
芦沢病院は地域になくてはならない、民間の病院だ。先代の委医院長に幸子は
小さい時お世話になった。今を息子が病院を継いでいて、「令和の赤ひげ先生」と慕われている。最近は地域医療の大切さを伝えるため全国を飛び回って
いて、赤ひげ先生の弟子(息子、娘)が地域医療を支えている
はっきりいって地方の民間病院は赤字だ、開業医は儲かるなんて、昔の話である。なので、令和の赤ひげ先生は、講演料で赤字を補填しているといってもっ良い。
幸子は珍しく病院にいる、令和の赤ひげ先生から呼び出されたのだ、
令和の赤ひげ先生は一人子の幸子にとっては「兄貴」みたいなものだ幸子はいつも「赤ひげにーちゃん」と呼んでいる。
今日は、その赤ひげにーちゃんに呼ばれて、病院に来たのだ。
病院に着くと、幸子はまっすぐ院長室へ向かった、ノックをして中に入ると、赤ひげにーちゃんがコーヒーを淹れていた。
「そろそろ来る頃だと思って。コーヒーを淹れて待ってたんだ。そこに座っててくれ」
「?幸子二日酔いか?」
「ドキっ!ちちがうわよ」
「酒くさいぞ」
「二日酔いじゃないけど、昨日瑞穂が日本にいるから久しぶりにみんなで会うことになって・・ちょっとのみすぎかな」と苦笑いした。
「まったくしょうがないな 幸子も還暦なんだ、もう少し己の酒量を考えろ」
「はーい」
「まったく!」といいつつ芦沢は幸子が大好きなコーヒーをカップになみなみついだ。
「うーん、いい香り。今朝はコーヒー飲んでいないから嬉しい」
そう言って、幸子は椅子に腰を下ろした。
「ところで、廊下で松永さんのご家族と会ったけど、今日あたり旅立つ?」
「そうだな。たぶん今晩までもたないかもだ・・」
「そっか……。松永さんご家族が間に合ってよかったわ」
「そうそう。みんな、幸子に感謝してたぞ。いつも見守ってくれて、LINEで知らせてくれたから、様子がわかって、覚悟ができたって」
「私はたいしたことしてないわ。そばで、家族のように見守っただけよ。
と窓辺をみつめた。にーちゃん、今日はこのまま病院にいてもいい? 他のおばあちゃんたちにも会って、様子を見ておきたいの」
「ご自由に。まあ、三階はみんな待合室で井戸端会議をしているから、病室に行くより、そっちのほうがいいぞ。賑やかだしな」
「ふふ、それじゃあ後で顔を出してみようかしら」
なみなみと注がれたコーヒーを飲み干すと、芦沢は満足そうに、
「うん! 医者にしておくのは、もったいないの~」
と、ふざけた。幸子は笑いながらカップを置いた。
「ところで、今日はどうしたの?」
芦沢はデスクの上に置かれていた一枚のチラシを手に取り、幸子に見せた。
「実はな、これなんだ」
幸子はチラシを受け取った。
「介護付き有料老人ホーム?」
チラシを眺めながら、幸子が顔を上げる。
「にーちゃん、ついに老人ホームに入るの?」
「ばか。私はまだまだ」芦沢は笑った。
「実はな、私の病院に通っている小川さんが、息子夫婦にこの施設を薦められてな。どうなんだろうって相談されたんだ。でも、最近この手の老人ホームが増えているだろう? 情報が追いつかなくてな」
「それで?」
「ほら、幸子の友達の熱海のお嬢ちゃんが、なにか知っていないか聞いてもらえないかと思ってな」
「お嬢ちゃんて・・瑞穂はもう還暦よ」とひとりごと
幸子は渡された資料に目を落とした。一見したところ、怪しいところはない。
「『かしのきの里』――いい名前よね。でも、入居契約金は高いわね。一口三千万円~って……」
「そうなんだよ。小川さんの息子夫婦は共働きで、お子さんも地元の国立大学に自宅から通っているから、これまで貯金をあまり使わなかったらしい。それで、親の老後のために、この老人ホームに投資してみようと思ったそうなんだ」
「投資?」
「そう。投資した家族に高齢者がいたら、一般の入居者とは違った入居費用で入れるらしい。月々の利用料も半額だそうだ」
「へえ……」幸子は、もう一度チラシに目を落とした。
「利用料、月四十万円! 馬鹿馬鹿しいくらい高額ね。でも、小川さんたちは二十万円か……。そう考えると、お得に感じちゃうわね」
「そうなんだよ。そこがうまいところなんだろうな」
幸子はチラシの隅に目を走らせた。
「運営会社……サーナルリゾート開発か」
「私も気になって調べたんだ。サーナルリゾート開発は、あのサーナルリゾートグループの事業会社だから、そこは安心したんだが……」
芦沢は少し考えるように眉を寄せた。
「それにしても、なにか引っかかるんだ」
「まあ、会社が有名だからって、信用していいとは限らないしね。用心に越したことはないわ」
そう言うと、幸子はカバンからスマートフォンを取り出した。
チラシを写真に撮り、瑞穂にLINEを送る。
『瑞穂、お疲れ! 昨日はよく飲んだね。お店のクラフトビール、空っぽになったんじゃない?(笑)ところで、至急調べてほしいの。このチラシ、アップしたから、この案件の情報よろしく』
スマートフォンを置くと、幸子は再びチラシを眺めた。
「伊勢志摩か……。いいところじゃない。たしか、十年前にサミットが開催されたよね」
「そうだったな」
「それからじゃない? 地酒だ、お茶だ、地域の特産品を世界に発信しようとか、アンテナショップを東京に出して、地元のものを広めようとか……そういうのが急に盛んになったのって」
「確かに、そうかもしれんな」
「まあ、伊勢志摩はいいところだし、終の棲家としても悪くないと思うけどね……」
そのとき、幸子のスマートフォンが鳴った。
瑞穂からの電話だった。
「幸子、お疲れ! 昨日は久しぶりによく飲んだね。やっぱり日本のクラフトビールは最高!」と笑いつつ
「ところで、ついに幸子、老人ホームに入るの?」と聞く
幸子は思わず吹き出した。
「やめてよ。縁起でもない。みんなと飲めなくなるなんて、監獄よ! 死んでもお断り!」
「はは、だね。」と瑞穂はいうと、急に真剣な声で
「幸子これあぶない物件よ」と囁いた
「そうなの?」瑞穂の声のトーンで危機感を強めた幸子が尋ねると
「今のところ詐欺ではないと思われるけど、旦那に聞いたら、表には出ていない裏事情の問題が山積みで、プロジェクト自体、頓挫する可能性が高い。手を出すべきではないって」
さらに続けて、
「でね、今、旦那が日本にいるから、明日会える? 複雑だから電話じゃ無理。今言えるのは「手を出すな」だけ。ちなみこの情報どこから?」
「芦沢病院。ここに通っている患者さんから、院長が相談されたらしい」
と幸子が答えると
「じゃあ院長に伝えて。患者さんの目につく場所に、このチラシを貼り出して、注意してもらったほうがいいわ」
「そうねさすが瑞穂ありがとう!」
「明日のことはまたLINEで。とにかく、関わらないことだけよろしく」と通話を切った。
幸子はスマートフォンを置き瑞穂からの話をかいつまんで説明した。
話を聞いた芦沢は、すぐに看護師長を呼び、病院内で注意喚起をすることを伝え、チラシを渡した。
さらに小川さんにも電話を入れ、事情を説明する。
息子夫婦の電話番号を聞き、電話をかけたが、あいにく留守だった。
そこで留守番電話にメッセージを残した。
しばらくすると、芦沢のスマートフォンが鳴った。小川さんの息子からだった講義が終わり、孫がアルバイトに行くため自宅に戻ったところ、留守番電話を聞いたという。
芦沢は事情を説明した。
「もう少し考えたいので時間が欲しい、と伝えてください。あくまでも、こちらが何か知っているような素振りは見せないでください」
そして念を押すように、
「相手がしつこく言ってきても、とにかく『少し考える時間が欲しい』とだけ伝えてください」と付け加えた。
電話を切ると、芦沢はほっとしたように息を吐いた。
そして、冗談めかして笑った。
「全く、お金があるとろくなことない。だからといって、ないのも寂しいがね」そう言いながらも、芦沢の顔から笑みが消えていた。
自分の病院で、すでにこの話に手を出している人がいないだろうか。
それが心配になったのだ。
その後しばらく、病院はその話でざわついていた。
幸子が三階へ上がると、案の定、インターネットより早い情報網を持つ軍団が集まっていた。
「みんな、お元気そうで」幸子が声をかける。
「元気じゃなきゃ、病院にいないぜ」とみんな笑う。
「そうだよ。具合が悪かったら、家で寝てるしかないものね」
「たしかにそうね」幸子も笑った。
けれど、ここにいる人たちが、それぞれ自分ではどうすることもできない病を抱えていることを、幸子は知っている。だからこそ、ここにいれば安心だと、みんな笑っていられるのだ。
「ところで、さっちゃん。あの老人ホームは、そんなに悪いやつらが建てたのかい?」と聞かれると
「そうね。正確には、これから建てるところ。でも、『とてもいい場所だから、将来のために投資しませんか?』って宣伝しているみたい。ただ、まだまだ先のことで、どうなるかわからないから、この手の話には注意してね、ってことよ」
「へえ。金持ちっていうのは、今あるお金だけじゃ足りないのかね。一口三千万円ってさ。三千万円なんて大金があるなら、それだけで食べていけるのにね」
「金持ちの考えていることは、よくわからん」みんなが好き勝手なことを言っている。そんな中、靴屋のたっちゃんが口を開いた。
「ところで、松永のばあちゃん、そろそろか?」
「うん。そう。旅立ちの準備をしているかな」
「さっちゃん、これ」一枚の紙を渡された。
「寄せ書き?」幸子が尋ねる。
「そうさ。松永のばあちゃんも仲間だったからな。みんなでメッセージを書いて、感謝を旅立ちのはなむけにと思って」
みんな、仲間が旅立つのを、病院から見送るしかないことを理解していた。
だからこそ、とにかく自分たちにできることを精一杯する。それが、本当の仲間なのだと思っている。幸子には、その気持ちが痛いほどわかった。
中には、何を書いてあるのかわからない文字もある。けれど、そこに込められた気持ちは、ちゃんと伝わってくる。
「了解! 松永のばあちゃんに渡すね」そう言って、幸子は窓辺へ目を移した。いつの間にか、空がオレンジ色に染まっている。春の日の、穏やかな夕暮れだった。
「じゃあ、そろそろお暇するわ。みんなも、そろそろ部屋に戻らないとね」
赤ひげにーちゃんは忙しいようで、挨拶はできなかった。
幸子は、にーちゃんの息子に帰ることを伝え、
「よろしくね」
と言って、病院を後にした。
太陽はすでに沈み、外は少し肌寒くなっていた。病院の近くの小さな公園に差しかかったとき、柔らかな風が頬を撫でた。
そのとき――「ありがとう」そんな声が聞こえた気がした。
幸子は足を止めた。
その瞬間、スマートフォンが震えた。
取り出してLINEを見る。
『松永のおばちゃん、旅立った』
赤ひげにーちゃんからのメッセージだった。
「一番星……みーつけた!」そう呟くと、涙が一滴、頬を伝った。
松永のおばあちゃんは、もう最後の停車場に立っている。
行き先は、どこなのだろう。
――白鳥座かな。
生前、松永のおばあちゃんは白鳥座が好きだと言っていた。
「夜空をを自由に飛んでいるみたいで、いいじゃない」そう話していた。
小さい時松永のおばあちゃんの星の話を聞くのがすきだった。今でこそおばあちゃんというが昔は「おねーちゃん」と呼んでいた。
あの戦争でお世話になった先生が亡くなってしまったことが、ずっとつらかったのだとも話していた。
「きっと、今度は白鳥に乗って、先生に会いにいけるね」
幸子は、そう呟いた。
松永のおばあちゃんが、夜空を自由に飛んでいく姿を思い浮かべる。
そして、カバンからエンディングノートを取り出し、そっと見つめた。
最後のページを開く。幸子は、そこに寄せ書きをそっと挟んだ。
そして、静かに手を合わせた。
人は、人生の途中で何度も「停車場」に立つ。そこで、どのレールを選ぶのか。
右へ行くのか、左へ行くのか。立ち止まるのか、それとも、次の列車に乗るのか。
選んだレールの先で、出会う人が変わり、人生も変わっていく。けれど、不思議なことに、一度は別々の道を歩いた人たちが、思いもよらない場所で再びつながることがある。
偶然なのか、運命なのか。それとも、最初から決められていたことなのか。
世の中には、理屈だけでは説明できない出来事が、いくつもある。『おばちゃん探偵団』は、単なる犯人捜しのミステリーではありません。




