第9話 森が牙を向く
第一偵察隊は、森の奥へと慎重に進んでいた。
盗賊が足跡を追い、弓師が周囲を警戒し、剣士が後方を守る。
「昨日の群れは、ここを通ってる」
「気配は薄い。奥へ引いたか」
緊張はあるが、まだ余裕があった。
――その余裕は、一瞬で消えた。
ヒュッ――。
矢が一本、木々の影から飛び出し、
剣士の肩を掠めた。
「ぐっ……! 敵だ、構えろ!」
弓師が即座に矢が来た方向へ反撃する。
ドスッ。
放たれた矢が、木々の間から飛び出したボアの顔に突き刺さった。
「ボア……?!」
ボアが悲鳴を上げて転倒し、
その背に乗っていたゴブリンが地面に投げ出される。
「なんでボアとゴブリンが?!」
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
別方向から、
**複数のボアにまたがったゴブリンたち** が現れた。
一匹ではない。
二匹、三匹……
それぞれが別のボアに騎乗し、弓を構えている。
「……なんだこれ……!」
ボアたちが走り出す。
左右に散開し、森の中を縫うように疾走する。
ゴブリンたちは揺れる背の上で体を沈め、
走りながら矢を放った。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!
「はめられた……!」
「避けろ!」
弓師が再び狙うが、
一本は外れ、一本はボアの分厚い皮に浅く刺さるだけ。
「くそっ……!」
弓師がもう一度狙おうとした瞬間、
別方向から飛んだ矢が弓師の胸を貫いた。
「っ……!」
弓師が倒れる。
盗賊は近接戦が不可能と悟り、手投げナイフを構える。
「障害物が多すぎる……!」
シュッ。
ナイフは放たれたが――
当たらない。
ボアは一定の距離を保ちながら走り続け、
ゴブリンはその背で安定した姿勢を保ち、
正確に矢を放ち続ける。
「くそ……詰められねえ……!」
剣士が突撃しようとした瞬間、
別方向からの矢が足を射抜き、膝をついた。
「ぐっ……!」
停滞した剣士は、次の瞬間には集中砲火を浴びて倒れた。
盗賊は歯を食いしばる。
(……やられた。ボアとゴブリンが組むなんて)
ただの奇襲ではない。
**ボアの機動力 × ゴブリンの射撃**。
森という障害物だらけの地形でこそ成立する“連携攻撃”。
「ダメだ……逃げるしか――」
一歩踏み出した、その二歩目。
ゴブリンの放った矢が盗賊の胸に突き刺さった。
第一偵察隊は、
盗賊・弓師・剣士――
全員がその場で倒れた。
***
第二偵察隊のハルは、
歩きながらふと足を止めた。
(嫌な予感がする……)
森は静かだった。
だがその静けさは、
**何かが終わった後の静けさ** に思えた。
そして――
その予感はすぐに現実となる。
木々の奥から、
血の匂いが風に乗って流れてきた。




