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記憶を読む治療士、魔獣の家族を視てしまう --人間と魔獣の境界で揺れる青年の物語  作者: 50
揺らぎ始める世界の正義

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第5話 能力の発動

主人公登場回です


名前:ハル

性別:男性(青年)

種族:人間

職業:治療士(ヒール・バフを扱う後衛職)


特殊能力:

 触れた相手の「過去の記憶」を読める。

 ただし、相手が強く思っている“直近の記憶”のみ読み取れる。


村の中央広場では、冒険者たちが慌ただしく武器を構えていた。

夜風に混じって、土と獣の匂いが濃く漂ってくる。


「魔獣が来るぞ! 全員、構えろ!」


怒号が飛び交う中、ハルは深く息を吸った。

手に握るのは治癒士が使う武器メイス。

殺すためではなく、守るための武器。


(……本当に、襲ってくるのか?)


森の奥から響く地鳴りに、胸がざわつく。


次の瞬間、闇を裂いてボアたちが飛び出した。


「来たぞ!!」


冒険者たちが一斉に武器を振るう。

火花が散り、土が跳ね、悲鳴と咆哮が入り混じる。


ハルもメイスを構え、迫ってきた一頭と対峙した。


「うっ……!」


突進を受け止め、横へ回り込み、

メイスの柄で脇腹を叩く。

ボアはよろめき、地面に倒れ込んだ。


ハルは息を荒げながら近づく。


「……まだ、生きてるな」


とどめを刺すべきか迷う。

だが、メイスは“殺すための武器”ではない。


その瞬間――

視界が白く弾けた。


(……え?)


頭の奥に、知らない景色が流れ込んでくる。


草原。

夕日。

母ボアの背に飛び乗る子どもたち。

優しく見守る父ボア。

穏やかな家族の時間。


そして――

耳を切り取られた亡骸。

血に染まった巣穴。

泣き叫ぶ兄ボアの声。


(……これは……誰の……?)


ハルは膝をつき、頭を押さえた。

胸が締めつけられ、息が苦しい。


倒れているボアの瞳が、かすかに揺れた。

敵意ではない。

ただ、悲しみだけが宿っていた。


「……お前……家族を……」


言葉が震える。


そのとき、背後から仲間の声が飛んだ。


「ハル! 何してる! 早くとどめを刺せ!」


ハルは振り返る。

仲間の冒険者が駆け寄ってくる。


「……いや、こいつは……」


言いかけた瞬間、森の奥から重い咆哮が響いた。


「ブオォォォォ!!」


兄ボアだ。

怒りと悲しみを抱えたまま、村へ迫ってきていた。


ハルは思わず身構える。

だが兄ボアは、倒れたボアを見て動きを止めた。


(……家族……?)


兄ボアの瞳が揺れる。

悲しみと怒りが混ざった、深い色。


その背後から、群れの長が現れた。


「ブオォ……!」


短い咆哮。

それは“撤退”の合図だった。


兄ボアは一瞬だけハルを見た。

敵意ではない。

しかし、許しでもない。


ただ――

「覚えていろ」という、静かな怒り。


兄ボアは倒れた仲間の体を鼻先で押し、

群れの長に従って森の奥へと消えていった。


ハルはその場に立ち尽くす。


仲間が肩を叩いた。


「おい、ハル。大丈夫か? 顔色悪いぞ」


「……ああ。ちょっと、目が回っただけだ」


ハルは倒れたボアを見つめる。

その瞳に宿っていた“悲しみ”が、頭から離れない。


(……魔獣って、本当にただの脅威なのか?)


その疑問が、ハルの胸に静かに芽生えた。


まだ誰にも言えない。

まだ自分でも整理できない。


だが――

この夜を境に、ハルの世界は確かに揺らぎ始めていた。


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