第三十三話 会見②
「遅かったじゃないですか! もう十分前ですよ!」
「ミサコさんが来ないと始まりませんからね!」
カツヤとダイスケは、ヤキモキしながら駆け込んできたミサコを出迎えた。
ロビー正面の壁に取りつけられている地球儀型の時計の針が、午後六時になりかけていた。
「どうにか間に合ったわ! 渋滞がひどくて」
ミサコはそう言うと、息を整えるように深呼吸をした。
「またガツンとやってくださいよ!」
「そうそう、スカッとするやつをお願いします!」
「もちろんよ」
それから、爽やかに笑顔を作ると、二人にウインクした。
シックなスーツをスラッと着こなすミサコは、人前に出る仕事には必要な華やかさがあったが、同時に、ひたむきな信念をも持っていた。
真実を伝えること。
それがミサコの信条だった。
それは、自分が公正、公平、中立的な公共放送のレポーターであることが大きな理由の一つでもあった。
だが、それ以上にミサコを突き動かしていたのは、現状への“息苦しさ”だった。 そこに風穴を開けたいのだった。
だからカツヤとダイスケは、そんな秘めた気迫に魅入られたかのようにミサコからのウインクを少年のように喜んだ。
そのウキウキ気分のまま、カツヤは聞いた。
「そうそう、長官をやっつける“予言の証拠”については、どうなりましたか? 確か、ビデオカメラで彗星を撮影するって言っていましたけど?」
「バッチリよ、すでに昨日と今日、彗星が通過していくところが映っていたわ。残りの五日間も毎日撮影し続けるから、誰が見ても疑いようのない確たる証拠になることは間違いないわ」
カツヤに負けじと、ダイスケもルンルンなノリで言った。
「さすがミサコさん! それさえあえば長官どころじゃない、新江戸政府とだってやり合えますね!」
「そのつもりよ、私は本気で世の中をまっとうなものに変えようと思っているの。真実で正義を勝ち取ることで」
「ミサコさん、カッコイイっす! どこまでもついて行きます!」
「右に同じくです!」
「ありがと」
ミサコがまたウインクをすると、二人は有頂天になった。
と、そんな三人の横を、ロビーに入ってきた三玲が通り過ぎていった。
それを見たカツヤとダイスケは、急に現実に引き戻されたかのように楽しい雰囲気が一気に飛んでいってしまった気分になった。
「あの主任さん、相変わらず掴みどころがないって言うか、どうも近寄りがたい感じね………」
「まったくその通りです! 本当にイヤなタイプなんです! 余計な任務を増やして俺をコキ使っているんですから! きっと、あっち側の人間なんですよ!」
カツヤがここぞとばかりに窮状を訴える。
「カツヤの言う通りです! 実は俺もそう思っているんですよ! あの人は準京都人じゃない! こんなに健気な俺を馬車馬のように働かせている長官と同郷人なんですよ!」
ダイスケも負けじと日頃の鬱憤を吐き出す。
「準京都人じゃないっていうのは、あり得るかも知れないわね。態度や雰囲気を見ても、そう感じられるから。だとすると“都落ち”かしら?」
都落ちとは一種の隠語で、本京都人が何らかの事情によって準京都人になることを意味していた。
「そう考えれば、点と点がつながってくるような気もするわね………本京都に恨みを持っている人が隕石を調査する機関に潜り込んで何をしようとしているのかが………」
ミサコは半ば独り言のようにそう口にしてから壁時計を見た。
すでに午後五時五十五分だった。
「もう時間がないわ、急いで!」
後ろを振り返ったミサコは、トモキを急かした。
「分かっていますよ………!」
カメラや重たい機材を抱えたトモキは、額に汗を浮かべていた。
ミサコはこれに間に合わせるために他の仕事を手早く済ませてきたのだったが、それでもギリギリだった。
「センパイ、少しは手伝ってくださいよ………!」
「これから戦場に向かう私に手伝わせるつもり?」
そんな、大ゲサな………!
トモキはそう思ったものの、やはり、言葉には出さなかった。
それが反論対策だからだった。
「まったく、世話が焼けるわね!」
が、さすがこれ以上遅くなるのはマズイと思ったミサコは、トモキに駆け寄った。
「俺たちも手伝います!」
それを見たカツヤとダイスケもミサコに続き、それぞれに機材を抱え上げた。
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