第二十九話 ごめんね………③
今しかない………!
ノボルは、その生き物がまだ去って行った二人の方を向いているうちに逃げようと思った。
が、足音を立てずに数歩動いた矢先、凶暴で獰猛そうな目がノボルを見た。
それは“虫”ではなく“獣”。
人間とほとんど変わらないほどの大ネズミが後ろ足で立っていた。
気づかれた………!?
その大ネズミが牙をむき出しにしながら、ゆっくりと近づいてくる。
それに対して、ノボルは護身用の道具を持っていない。
鼓動が早鐘を打つように高鳴り、額や手の平に冷や汗が吹き出す。
どっ、どうする………!?
と、ノボルが極度の緊張で体を硬直させていた時、どこからともなく小さな鳴き声が聞こえた。
それは赤ちゃんネズミの声だったようで、全部で三匹現れるや、大ネズミの足にすり寄り始めた。
ノボルは依然として息が詰まるほどにハラハラしていたのだが、突然、降って湧いたように起きた状況の中に変化を感じ取っていた。
大ネズミはノボルに牙を向けたままだったが、唸りのトーンが弱まったように思えたのだ。
しかも、しきりに足をよじ登ろうとしてくる赤ちゃんネズミたちに気を取られる素振りを何度も見せた。
ノボルは必死で自分を落ち着かせつつも、猛獣に成り代わってしまった大ネズミを注視した。
かなりやせ細っていて、骨格がはっきり見て取れる。
さらには、痛々しいほどに刻まれた大小様々な傷の数々。
そして、おっぱい。
えっ、メス………!?
ノボルは、大ネズミの異容とは相容れないアンバランスな事実に面食らったが、その反面、事態を紐解く手がかりが見つかったような気がした。
ということは、大ネズミは、お母さん………!?
で、赤ちゃんネズミたちは、お腹を空かせている。
お母さんと同様にやせてしまい、鳴き声も力なくか弱いところから察するに、もう何日も何も食べていないのかも知れない。
でも、それ以上に、きっとお母さんも空腹に違いない。
肝心のおっぱいは張りもなく、しぼんでしまっているのだから。
あれでは、出るものも出ないような気がする。
与えてあげられるものがないにもかかわらず、すがってくる子供たちを放っておけないお母さんネズミの心境とは、どのようなものなのだろうか………。
ノボルはそんなことを思いつつゆっくりとリュックを肩から外し、チャックを開けた。
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