日常2-2
「うむ、美味いな。これはミミ君が作ったのかな?」
カルという奴の言葉に、「えへへ」とミミが笑う。彼の前には、豚肉を野菜と炒めた皿がある。チンジャオロースーっぽいが、それよりはもう少しピリ辛な感じだ。
「ヒイロさんがここに来たときに教えてもらったんです。ルカちゃんも手伝ったんですよ」
「はいっ!カルさん……どうですか?」
「うん……なかなかだね」とカルは少し冷めた様子で言う。ルカはそれを見て少ししょんぼりした様子だ。
「そうですか……」
「ルカちゃん、あまり気にしないでいいわよ。これ、ただの照れ隠しだから」
ジャニスの言葉にカルの顔色がさっと変わる。
「なっ……!!?」
「カル様、もう少し素直に褒められてもよろしいのでは?彼女を一人前にするために厳しくしているのは分かりますけど。もうそろそろ彼女も成人ですし」
「……まあ、そうだね。どうにも昔の癖が抜けない」
やれやれとジャニスが首を振る。多少心を読めるというらしいが、どこまで読めるのだろう。俺も迂闊なことを思ったりできねえな。
そんな彼女はというと、既に2皿のサンドイッチを空にしていた。豚と野菜の炒め物も一皿平らげている。
その食べっぷりや驚くべきものだ。令嬢らしく品良くフォークを口に運んでいるのに、物凄いスピードで料理が腹に消えていく。これで本当によく太らないものだな。
その思考を読み取ったのか、ジャニスがじろりとこちらを見た。
「私は魔法を使うから大量に食事しないと身体がもたないの。デブになるわけなんかないじゃない」
ハンスが「フフフ」と笑う。
「さあどうだか。代謝が落ちてからどうなっても知りませんよ」
「あんですって!?」
嫌みを言うハンスに彼女の怒りが移ったようだ。ジャニスが摑みかかってもこいつは相変わらず慇懃無礼に微笑んでいる。こいつがこれ以外の表情をしていることなんて、ほぼ見たことがない。
「事実でしょう。まあ、肉が付く場所によってはそれもまた一興ですが」
「あ、あんたねぇ……!!」
ジャニスの顔が真っ赤になる。そういや、こいつは確かにかなりエロい身体なんだよな。あの胸を昨晩好き放題にしていたと思うと、俺も少しイラっとした。
彼女の視線がこっちに向く。やべえ、悟られたかっ。
カルがはあと溜め息をつく。
「2人とも痴話喧嘩はいい加減にしないか。ボクが言えた口じゃないが、君たちこそもう少し素直になるべきだと思うがねえ」
「……失礼しました。どうにもからかうと面白いものでして」
「ハンス、君の悪い癖だね。全くそれだから……っと、ここで言う話題ではないかな。
そろそろ、本題に入ろうか。ジャニス君以外はほぼ食べ終わったようだしね」
「本題、ですか」
ハーブティーを口にし、ハンスが真顔になった。空気がピリッとしたものに変わる。
「ちょっといいですか?カル様が来られるのは分かります。ただ、ルカ様まで一緒というのはどういうことなのでしょう。イーリス神のご神託があったとか、そういうことだと先ほどお聞きしましたが」
「ん。そういう理解でいい。そして、ボクたちが会いたかったのは、ずばり君だ」
カルの視線が俺に向く。……俺??
「は、はあっ!??」
「とりあえず、元気なようでほっとしたよ。こちらも、安心して『指令』を下せる」
「し、指令??」
俺が何か言おうとする前に、ジャニスがサンドイッチを頰張りながらバンッと机を叩いた。
「ほういうほほなんへふかっ!!?」
「口に物を入れながら喋らないでくれ、君らしくもない」
「んん……んぐっ。失礼、しました。で、どういうことなんですか??彼に指令って」
「うん。その前に、何故彼を『保護』措置にしたかの説明をしなきゃいけない。君たちも疑問に思っているだろう?」
「え、ええ。まあ……」
「保護」措置……こうやって、小さなクマのような生き物になった理由か?俺は思わず口を開いた。
「ちらっと聞いた限りじゃ、俺が盗賊団を殲滅したからだって……」
「それは理由の一つでしかない。というか、あれだけじゃ普通『保護』処分にはならない。そもそも君は、あいつらが数十人も殺しているウオル盗賊団だなんて知らなかっただろう?君が善行を為したのはたまたまだ。そのぐらいは『魂晶』を見れば分かってる」
「じゃあ、何で……」
カルがずずっとハーブティーを啜った。
「正直なところ、教会でも意見は割れたんだよ。決め手になったのは2つ。そこのルカの神託、そしてそれを受けた君の魂の精査さ」
「……神託?」
「そう。ルカはイーリス神の御心が聞こえる。まだ未熟だから、はっきりとは聞けないけどね」
コクン、とその金髪の少女が頷いた。
「はい。イーリス神様は『タカマツ・ユウジはこの世界に必要です。私の元に送らないでおきなさい』って」
「神様?」
「はいっ。法と秩序の神、イーリス様です。慈悲と混沌の神、アザト様とのお二人で、世界を護っておられます」
「それって、あいつとは違うのか。俺が『死んだ』時に出会った奴」
「うーん……それって誰か分かってないんですよね。私たちは『自称神様』って呼んでますけど」
「何だそりゃ。まあいいや、とにかくあんたはその神様の1人と話せるんだな」
「はい。転生者の方々をどうするかは、イーリス様の御心が第一なんです」
カルが小さく首を縦に振った。
「そう。そしてそこには必ず合理的な理由がある。その細かい理由をイーリス様は伝えては下さらないがね。そして、君の魂を『診た』ことで、それが分かった」
「魂を『診た』?」
「ああ。その人物の『前世』に加え、恩寵の中身、そしてその人物が持つ魔力的才能。それらを『読み手』であるボクは把握することができる。転生者の多くは魔法の才能など持たないが、君はその例外だった」
ハンスが怪訝そうな表情になる。
「解せませんね。魔法を使える可能性があるからと言って、彼を『保護する』理由にはならないでしょうに。いかにイーリス神の御神託があろうとも」
「そこが鍵なのだよ、ハンス。彼の魔法の才能は特殊なものだった。それは『祓い手』にとって必要不可欠な魔法だ」
「まさかっ!!?『吸魂魔法』……!!?」
目を見開くハンスに、カルが静かに告げる。
「そのまさかだよ。ボクも57年生きてきて初めての事例だ。何なら、過去の記録にもない」
カルを除くその場の全員が呆気に取られている。どういうことなんだよ!?
そして、カルは俺の目を見てはっきりと言ったのだ。
「タカマツ・ユウジ……いや、ユウ君。ボクは君に、『祓い手』になってもらいたいと思っている」




