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血塗られたクリスマス  作者: イノベーターc
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3



時刻は丁度20時を回ったところ

アンドリュー家では、マックスが一人テレビゲームをしていた


「くっそ、ゼルのカードがなかなか手に入らない! この婆さん強いな……」


彼は今年9月に米国内のゲーム売上記録を塗り替えた超大作「ファイナルファンタジーVIII」をプレイしていた

どうやらゲーム内のカードイベントで欲しいカードが入手できず、困っているようだ

と丁度その時


ピンポーン


ドアのチャイムが鳴った


(変だな……まだピッツァは注文してないぞ。)


疑問に思いつつ、近所の人かなと思いドアを開ける

するとそこには、貧乏そうな格好をした見慣れないおじさんが立っていた


「? 何か御用ですか?」


マックスは尋ねた


「へっへっへっへっ……邪魔するぜぃ。」


そう言って男は家の中に入ってきた


「な……なんだよアンタ、早く出て行ってくれよ!」


そう言ったマックスを無視しながらリビングへと進んでいく謎の男


「お~、立派な家だなぁ。」


勝手に家を詮索する不審者を見て、身の危険を感じたマックスは大声で叫ぶ


「おっさん、警察呼ぶぞ!」


一瞬の間の後、マックスは青ざめる

なんと男は刃物を取り出したのだった


「おい、ボウズ……死にたくなかったら、静かにしな。」

「っ……!!」


ギラギラと刃先が光るナイフに驚き、マックスは声が出ない


「お前の他に誰かいるか?」


男はマックスに尋ねた

マックスは首を横に振る


「なるほど、そいつぁいいや。」


男は低い声でそう言うと、にやりと笑った

マックスは恐怖で足が竦んだ


「腹がへったな、何か食いモンあるか?」

「い……いえ……特には。」

「っち、シケてんなー」


そう言いながら男は冷蔵庫を勝手に開けて中を探り始める

マックスはこの男に気付かれないよう警察を呼ぶ方法はないか考えようと試みる

しかし緊張と恐怖で頭が回らない


「これでいいや。」


そう言って男は冷蔵庫からリンゴを取り出して、シャリっと噛り付いた


(パパ……、お願い。早く帰ってきて。)


マックスは自分の足が恐怖で震えているのを感じた

身動きができないまま、男がリンゴを食べるのを黙って眺めていると、こちらの視線に気づいたのか男は言った


「お前にはあげないぜ。」


どう答えていいか分からず、黙ったまま下を向くマックス

男が尋ねる


「お前、名前は?」


マックスは震えた声で言う


「マ……マックスです。」

「そうか、マックスか。 ……俺の名前はチャック。」


チャックは座れよと椅子を指さし、合図する

マックスは黙ったまま言われた通り椅子に座る


「なぁ、マックス。 俺は今日、イラついている。 分かるか?」


マックスは首を縦に振って頷く

自分に危害が及ばないよう相手に同意する事を本能が判断したのだ


「世の中は不公平だ。そうは思わないか?」


マックスは再度頷いた


「そうだろ? 俺は壁が薄くてボロっちい部屋で毎日寒さに耐えながら暮らしているんだ。なのになぜお前ら富裕層はこんな綺麗な家で贅沢に暮らしているんだ?」


マックスの背中が汗で濡れる


「なぜクソ親の元に生まれたってだけで、俺の人生までクソまみれにならなきゃいけないんだ?」


マックスはチャックの怒りに満ちた目を見て震えた


「もう懲り懲りだよ、マックス……」


そう言ってチャックはナイフの柄の部分を指でなぞった


「幸せそうな馬鹿どもが蔓延(はびこ)るクリスマスシーズンにはウンザリなんだよ、マックス……」


ペッ、とチャックは唾を吐いた

マックスは内心不快感を覚えたが、表情には出さないよう努める

男はコートのポケットから煙草を取り出すと、ライターで火をつけ始めた


「幸せそうな奴らをぶっ殺したいんだよ、マックス……」


そう言って煙草を深く吸って、気持ち良さそうに吐いた

あまりの恐怖に耐えられなくなり、マックスの目からは涙が零れた

マックスの顔は歪み、小さな嗚咽が漏れる


「……っうっ…………っぐ……」


そんなマックスの哀れな表情を見た時、チャックは自分でも驚くほど胸が痛んだ


「っち、」


誰かを傷つける事はこれまで沢山あったが、それは大抵自分と近しい年齢の奴らだった

いま目の前にいる少年は自分より遥かに幼く、か弱い存在だった

そんな少年が恐怖で肩を震わせながら泣いているのを見て、チャックは胸が締め付けられるような気持になった

彼にとってここまで深く、そして強い罪悪感を覚えたのは生まれて初めてのことだった


「大丈夫だ……」


気が付けば自然とそんな言葉を発していた


「お前を殺さねぇよ。」


チャックはそう言うと、自分の優しさを誤魔化す様に煙草を燻らした

それでも静かに泣いているマックスを見て、チャックは頭を掻きむしった


「ふぅー……止めだ、止めだ。殺人者ごっこは止めだ。」


そう言ってチャックはダイニングテーブルに置いてあるピッツァのチラシを手に取る


「ピッツァでも食おうや、マックス。」


そう言ってニヤリと笑った

マックスが頷くと、チャックは手際よくピッツァを注文した

ピッツァが来るまでの間、マックスの機嫌を良くするために一緒にテレビゲームをした


「しかしすげぇな、最近のゲームはこんなに進化しているのかよ。」


チャックは感心して呟く


「うん、でも来年あたりにもっと高画質/高性能のプレステ2が出るかもって噂だよ。」


この頃にはすっかりマックスも泣き止んでいた


「ほぉー……」


チャックは魂消(たまげ)たとでもいうような素振りを大袈裟にしてみせた

それを見てマックスは笑った

マックスの父ジョンはテレビゲームに興味の無い人だった為、マックスにとって大人とゲームをするのは初めてだった

それなりに楽しかった

チャック自身も思いのほか楽しんでいた


「楽しいな。ホントこれも全てお前の親父が身分証を落としたおかげだ。 感謝するぜ。」


そう笑って言うチャックに対して、マックスは不思議そうな顔をする


「なに? 身分証?」

「おう、ここに来る前にお前の親父さんが落としたんだよ。 それを渡そうと追いかけて、レストランの前まで行ったんだけど……入れなくてな。 多分ありゃあ、お前のお袋さんじゃねぇか? 女の人と一緒にレストランの中へ入っていったぞ。」

「え?」


マックスの顔が強張る


「おじさん、それどういう事?」

「どういう事って……」


マックスの予想外のリアクションにチャックはたじろいだ


「僕のママは今年の5月に亡くなったから、ママじゃないよ。 それにパパは今日、お仕事が忙しいから家に帰れないって連絡あったんだけど……」

「ん? なんだ、そりゃ?」


チャックは訳が分からないとでも言いたそうな顔でマックスを見返す

マックスは表情を曇らせて言った


「……もしかして、パパは僕に嘘をついているのかな?」


チャックは軽々しく否定も出来ないため、押し黙ってしまう

マックスは俯いたままだった

またこの子に泣かれちゃ堪らんとチャックは彼の父をフォローする


「なに、俺が見たのはお前の親父さんと女性がレストランに入って行くとこだけだ。それも仕事に関係してるのかもしれねぇし、未だ嘘と断言はできねぇよ。」


それを聞くと少しだけマックスの表情に明るさが戻った


「うん、そうかもしれないね。」


チャックは少し考えた後、真剣な表情でマックスに行った


「でもな、マックス……もし本当にお前の親父さんが嘘をついてて、その女性が親父さんの新しい恋人だったら……お前はどうする?」


マックスは目を見開いて驚き、そして口を噤んだ。

チャックは溜息をついて言った


「いいか、マックス……現実は残酷だ。 もしそれがお前にとって最悪の結果になったとしても、腐っちゃいけねぇ。」

「僕のパパは良い人だ。決して僕を裏切るような事をしないと信じている。……けど、もしそうだった時、僕は……」


最後の方は消え入りそうな声だった


「よく聞け、マックス……」


そう言ってチャックは自身の過去を語りだした

いかに不遇な環境で育ったか

親からも見捨てられ、友達もいなかった事がどれだけ辛かったか

マックスは自分とはあまりにもかけ離れた境遇で育ったチャックの話に啞然とした


「という訳で、俺の人生はこれまでツイてなかった。……でもな、本当に残念なのはもうダメだと諦めちまうことさ。 俺はこんな見たくれで、しょうもない仕事しかできねぇ。いつも誰かの悪口ばっかり言ってる。 今日この家に来た本当の理由なんて、金目の物を盗みたかったからさ。 俺は大馬鹿者だよ。 だけど、こんな俺でもこれだけは言える。 諦めなければいつかチャンスがやってくる。 幸せのチャンスがな。 だからどんな不幸な事が起きても腐っちゃいけねぇ。」


そう言うと、チャックはマックスの頭に手を優しく置いて撫でた


「うん……何があっても、諦めないようにするよ。」


マックスが言うと、チャックは笑顔で頷いた

すると突然、玄関のドアから勢いよく複数の男たちが入ってきた

彼等は全員、黒の恰好で銃を構えている


「フリーズッ!!! 警察だ、動くなっ!!」


怖い表情で突入してきたのは三名の警察官だった

突然の事態にマックスとチャックは状況が呑み込めない


「三丁目のトムから通報があった! 不審な人物がアンドリュー家の電話でピッツァの注文をしたと! 窓の外から伺ったところ、見知らぬ男がいたので突入に踏み切った!」

「君はその男から離れてっ!」


警察官はそう言うと、急いでマックスに駆け寄りチャックから引き離す

そしてゲーム機の前に取り残されたチャックに向かって銃を突きつけた

チャックは黙って手を上げたまま固まっている

銃を前に、彼の目は恐怖で見開かれていた

マックスはそんなチャックを見て叫ぶ


「違うんだっ、おじさんは悪い人じゃない!」

「いいから、君は下がってなさい。」


そう言われ、警官の内の一人に無理やり家の外へと連れ出されるマックス


「離してっ! おじさんを撃たないでっ!!」


残った二人の警官は言う


「なんだあのガキは? 通報と状況が違うじゃねぇーか?」

「でもこの男はこの家の者ではない。それに見ろ、こいつナイフを所持してるぞ!」


警察官たちに警戒の色が強まる


「お願いだ、俺は何もしていない。」


チャックは懇願した

その様子を見た警官が鼻で笑って言った


「お前ら黒人はいつだってそう言うのさ。 アバヨ」


パアンッ


静かな住宅街に大きな銃声が鳴り響く

家の外でその音を聞いたマックスは心臓が飛び出しそうになる程驚いた


「おいっ!! お前ら何したんだよっ!? おじさんに何したんだっ!!」


マックスは警察官を振りほどき、家の中へ駆け出した

部屋に入ると電源がついたままのテレビゲームの前で、チャックが倒れていた

居合わせた警官がマックスを静止しようと近づいたのを避けて、チャックへと駆け寄った


「おじさんっ!!」


マックスは泣き叫んだ


「……マッ……クス」


チャックは消え入りそうな声で、言った


「嫌だよっ、おじさん! 死なないでっ!」


マックスは必死に叫んだ

強い思いで語り掛ければ、チャックが助かるかもしれないという一心だった


「……くさ…っちゃ……いけ…ね……え…ぜ……」


最期にそう言って、チャックは笑った


「うわああああああぁあああっっっ!!!!!!!!!!!!!」


それからマックスはわんわん泣いた

声が嗄れるまで泣いた

肌寒い冬の日だった



1999年 12月22日 21時25分 チャック・マグナム、強盗未遂により射殺

翌日の地元メディアでこの事件は大々的に取り上げられた

内容はこうだった

チャック・マグナム 33歳 は、拾った身分証を元に裕福な白人の邸宅へ忍び込み、強盗を目論む

事件当時、彼はナイフを所持しており非常に危険と判断された為、通報を受けた警官により射殺される


現地の人々の声:

(Aさん)貧富の差を無くさない限り、黒人による白人への犯罪は減りません。我々はもっと黒人の抱える問題に向き合わなければならないだろう。

(Bさん)クリスマスという素敵な日を前にこのような凶悪な事件が起きて本当に残念です。

(Cさん)また黒人による犯罪ですよね? もういい加減うんざりしてますよ。いつも犯罪を起こすのは彼等黒人たちなのですから。





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