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4-1 この世界の謎


 ほどなくして家庭教師は見つかり、ミーアの基礎学習は始まる。

 おおまかに分類すれば、勉強、一般教養、礼儀作法となるだろうか。


 勉強については、いわゆる国語や算数、数学などを、教会でやっていたものより広く学ぶことになった。

 ミーアの感覚では、中学生の初期くらいまでの範囲である。

 もとが高校生のミーアにとっては、むしろできないほうが恥ではあるが、そんなことなど知らない担当教師には、初日から絶賛されるはめになった。


 それ以外には、一般教養と少しかぶる内容で、いわゆる歴史や地理について、王国の起こりからというごく短い範囲ではあるが、学ぶことになる。

 星の誕生や人類史、あるいは生物史については、おそらく世界全体として、そこまでの研究が進んでいないのだろう。

 現在の王国には危機が迫っていないものの、戦争という政治手段が当たり前のように視野にあるのだから、学術的な研究が遅れるのは仕方のないことだ。


 代わりに、政治経済については少し触れるところとなり、やはり民主主義とは大きく離れた、実際の王政、貴族社会については学ぶことが多い。

 加えて、近隣の動植物についての知識も教えられ、それらについては以前にも感じたとおり、地球とほぼ変わらなかった。

 植物の知識から派生し、漢方等の薬学についてはそれなりに進んでいる印象だが、化学成分の発見、抽出などにはいたっていない。

 とはいえ医術については、解剖学にともなう人体の知識や手術方法、それに用いる器具の開発など、高度なレベルに達していた。

 それらはおそらく、戦争があったからこそ――でもあるのだろう。


 建築や設計技術、芸術といった範囲においても、同様の発展が見られる。

 広く科学として捉えれば、村で使っていた高効率の木炭など、はっきり言ってしまうと、『生活する上で非常に都合のいい技術』が浸透していた。

 思えば男爵の運営する商会の海運、貿易についても、それだけの造船、操船技術があるということになる。

 羅針盤や海図が存在し、かと思えば銃火器などはない。

 製紙技術はかなり進んでいるのか、紙質は非常にすぐれていた。

 それでいて印刷技術などは、存在しないわけではないがまだ未熟なのか、使われる範囲はかぎられている。


 以前に感じたとおり、非常にちぐはぐとした文化、文明――ということだ。


 もちろん、それがわかったところで、地球との関連などわかるはずもない。

 技術開発者の名前が、まったく聞き覚えのない人物だった時点で、それらに関して深く掘り下げるのはやめておいた。

 そんなことより、いわゆる一般常識を把握したり、貴族令嬢としての礼儀や振舞い、マナーについて学ぶほうが急務である。

 なにしろダンスなどという、いままで触れたことのない習い事まであるのだ。

 こればかりは、少し運動神経がよいくらいでは、どうにもならない――。


 ――と、思っていたのだが。

 ミーアの肉体は、自分が思っている以上に、運動性能が高かった。


「さすがでございます、ミーアお嬢さま! 足運びといい姿勢といい、非常にお美しくていらっしゃいますよ!」

 そのように家庭教師が絶賛するほど、ミーアはダンスの動きと知識をたやすく習得し、実践できてしまった。

 歩法や礼儀作法、カーテシーについても、ダンスと同じくらい気恥ずかしくはあったが、前世で覚え込んだ正しい姿勢が基礎となり、困ることはない。

 これについては、鍛えに鍛えた体幹の賜物だろう。

 食器の扱いについても、使うものが前世と同じものなのだから、正しい動きさえ教えてもらえば、覚えるのに不都合はなかった。


 ただ――ミーアの作法は全体的に、70点から80点と評されている。


 令嬢としてのたおやかさではなく、どちらかといえば令息らしい颯爽とした振舞いが、美しいながらもどこか違う、という印象を与えていたらしい。

 これを聞いたときは苦笑してしまったが、武道で身についた動きが原因なら、もはや開きなおるほかないだろう。

 自分の動きのすべてに、剣で得たものが表れているというなら、むしろ誇らしい気持ちさえあった。


 また、ミーアとて不得意がないわけではない。

 たとえば令嬢のたしなみだという刺繍、これとは非常に相性が悪かった。

 針仕事自体は苦手ではなく、前世ではボタン付けに繕い、縫製などもよくやっていたように思う。

 ただ、刺繍というのは針仕事ではなく、いわゆるアートの一種だ。

 芸術的な才能がないのか、刺繍の図面を考えることはもちろん、それを針と糸で再現することも、ミーアには未知ともいえるほどの技術であった。


「はぁ……まったく、刺繍がうまい人は尊敬できるな」

「そう思われるのでしたら木剣でなく、針を握ってください!」

 刺繍の課題から素振りに逃避するミーアに、サラは決まってそう訴えていた。


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