神隠し92
皇家が座す王城の最上階。
その一角にある寛ぎ処へと来た訳だが、厳めしい顔をした老執事のエスコートにてホールを通り室内へと。
そこへは小川が造られ、泉に水鳥が遊ぶ。
うん、意味分からん。
なんで室内へ水場でなく水辺を設けるんだ?
自然が好きなのは、理解しても良いよ。
けどさ、この寛ぎ処に入る玄関前に立派な庭を造ってんじゃんね。
なのに、態々室内へ水辺を造る必要なくね?
首を傾げつつ室内を進むと、ソファへ腰掛けてお茶を飲んでる方々の姿がね。
あの方々が皇家の方々なのだろうか?
近付く俺に気付いたのか、皆様が立ち上がり出迎えてくれる。
皇王様の姿はない。
皇王様を除く皇家の方々なのだろうか?
柔和な顔をした老夫婦、妖艶な美女、優しげな顔の青年と可愛い美少女の5人だ。
俺が思ったように、5人が皇家の方々だったようだな。
「皇家方々にございます。
ご無礼なきよう」っと、エスコートした老執事がな。
すると、柔和な顔をしていた老紳士が厳しい顔になってな。
「控えよっ!
そなたが案内したは御天なるぞっ!
そなたの言いようは無礼、さがるが良い」
静かな声と言いようだが、視線は厳しい。
それは他の方々も同様でな、威厳あり老執事の顔が蒼白に。
いや、哀れ過ぎるだろ、これ。
「いえいえ、お気になさらずに。
招かれ人とか呼ばれ、何故か敬われておりますが、元の世では平民庶民ですから。
皇家の方々を敬うのは当然です」
そう、庇ったつもりなのだが…
「くっ、失礼いたしまする」っと一礼して下がる老執事。
なんだか申し訳なく思えてしまう。
けど…彼には悪いが、彼が去ってから場の雰囲気が軽くなったのは否めない。
そんな空気を読んだように、皇家の老紳士がな。
「うちの者が済まなんだ。
奴は真面目過ぎるキライがあるゆえ、どうも融通が利かぬところがのぅ。
さて、昨日は息子と会ったようじゃが、「友になってくれた」っと、喜んでおってな。
実に、ありがたいことじゃて。
おお、そうじゃ、言う忘れておったがの。
儂が息子である皇王の父、上皇のトカユじゃ。
こちらに居るは、儂が妃である上皇妃ホシラでな、あちらが息子には勿体ない嫁の皇妃タナと、2人の子である皇太子タケと皇女ミリュラじゃな。
よしなにのぅ」
唐突な謝罪から、流れるように紹介がな。
いや、スルッとなされたので、場の空気もサラッと流されてしまったな。
この爺さん…できる!
その後なんだが、なんだか和気藹々とした雑談へとな。
「本当に、馬が牽かない馬車…車ですか?
そんな物が?」
「ええ、こちらには無い代物が沢山ありますよ」
そう皇太子へとな。
彼は地球の文化に興味津々のようでな、色々と質問を。
「お兄様、ズルいですわ。
私もお話ししたいですの」
皇女様が拗ねたように…
「これこれ、葵天の暮らし向きについて、爺も話したいのじゃがのぅ」
上皇様は困ったように告げるが…明らかにニヤ下がった孫に弱い祖父の顔でな。
孫には弱そうだな…
そんな感じで雑談交流を終えると、上皇様がね。
「そうじゃった。
葵天専用の鳥車をヴァルハラ館へ向かわせておるそうじゃ。
帰りに寄ってみると良いじゃろうて」
上皇様より、そのようにな。
そうかぁ…なら、俺用とかの鳥車へ寄ってみるかね。




