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私のことが嫌いらしい英雄に恩返しを!(とはいえ毎日死にかけるのやめてもらっていいですか!?)  作者: 桃月 とと


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23話 王女の主張

 地下墓地の最下層。目の前の重厚な扉から突き刺すような禍々し瘴気が放たれている。ランプの灯りに照らされて、錆びた大きな錠前が見えた。


「行こう」


 つい先ほど、思いっきり開き直って以降はいつも通りを取り戻したエイデン。臆することなく目の前を見据えている。相変わらず頼もしい。


(私のセリフを取られちゃった)


 魔王決戦前もそう、ただ真っ直ぐに前を見ている。


「もちろんです!」


 待ってろよ王女! 今度こそ永遠の眠りにつかせてやる!!


(もしもそれがダメだったら……)


 ギィ……と、鈍く耳に残る音と共に、扉が開いた。

 凍えそうなほどの冷たい風が私達の頬を撫でる。


——ああ嬉しい もう一度この男を殺せるとは


 扉の向こうはドーム状になっていた。思ったより広い。

 その中央に、ポツンと墓標が建ててある。


(いる)


 確かに今、あの王女の声が聞こえた。

 自分の手がブルブルと震えていた。怖いと感じたからではない。


(前みたいに行くと思うなよ!!)


 怒りで震えたのだ。今すぐにあの王女を消し飛ばしてやりたい。


(そうだ。何も魔王の遺品なんかでご機嫌取りする必要なんてない!!)


 私には別プランがあった。あの王女に対抗するための。

 あの王女の魂を未来永劫閉じ込めるのだ。魔王なんかに合わせてやるもんか!

 ……なんてことで頭が埋まり始めていたのだが、


(ん?)


 ふとエイデンの方を見るも、私と違い表情ひとつ変えていない。


(あれぇ!?)


 呪われた本人がこれ!? それどころか、


「ティアルネ王女!」

「!!?」


 大声で呪った本人に声をかけ始めた。


「ちょっと!」

「ん? なんだ?」

「ん? じゃあないですよ! 何呑気に呼びかけてるんですか! 対話なんて無理ですよ!! あの王女瘴気発生させすぎて呪いとして実体化しかけてます! 魔の物になりかけてるんです!!」

 

 ある意味での復活だ。元通りではないが、さらに禍々しい力を得て再び肉体を得る。ほとんど、伝説レベルの現象だが、この王女なら十分に考えられる。


「だから話しかけている。魔の物になれば厄介だ。今のうちに怒りを発散させた方がいい。溜め込むのは良くない」

「え? ちょ? え?」


 は? なに? なんて??


「大丈夫だ。怒ってはいるが、それだけだ」

「ええええ!? 何言ってるんですか!?」


 混乱する私の方を見て、エイデンは首を傾げる。なぜわからないんだと言いたげに。


(あれ? これ、私がおかしいの!?)


 そんなことないでしょ⁉︎


「百五十年前は王女との肝心な話し合いをおろそかにした結果、エイダン……俺は死んだのだろう?」

「うっ……」


 それを言われるとぐうの音もでないが……。


——訳のわからないことを! こうるさい男だ! さっさと死ぬがいい!


 ほら、あっちも意味がわかんないからってヒートアップしてきたぞ。

 何もなかった地面からワッとアンデットが湧き上がったのだ。ランプの光をものともせずに私達に襲いかかってくる。

 でもねぇ、


「そんなこったろうと思ってたわ!!」


 これは想定内。なんならこんな状況なのに安心してしまった。思っていた通りのことが起こって。味方の方が予定外の動きをするんだもん。


——!!?


 散々練り込んでいた私の魔術が炸裂する。閃光が周囲を駆け抜け、アンデッドが一瞬でバラバラに砕けっちった。もちろん再生もせず、そのままチリとなる。


「二度とあんたにエイダンを殺させないんだから!」


 ざまあみろ!!


「レクシア……」


 元英雄様、嬉しそうな顔しちゃって。そりゃこのために私も生まれ変わったからね。


「ありがとう。これでゆっくり話せる」

「!!?」


 えええ!? 違う違う! そうじゃない!!

 だがエイデンは止まらない。


「王女。話をしよう。百五十年前、君は何に怒っていたんだ?」


 ん? これはどういうこと? 百五十年前?


「思い出したんですか!?」

「いや、全てではないよ。ただ呪われた瞬間の感覚を思い出して……あれは魔王を殺された恨みだけではないと感じたというか……」


 どういうこと? というより、なんでそんな冷静にしてるの!?


(ていうか、また大事なことを言わないんだから!)


 私が苛立ち始めると、


——本当に腹立たしい男!!


 ほら! 王女もイラついてるじゃん!

 だが、どうも様子がおかしい。


――ああもう! 百五十年経っても不愉快なやつ!! スカした顔しちゃって!!


「えええ!?」


 急に空気のトゲトゲしさが減ったのだ。王女の声の禍々しさも。


「貴女はまだ俺のことを恨んでいるのか? 記憶はないが魂はエイダン本人だ。遅くなったが貴女の話が聞きたい」


――何を……何を今さら!


 灰色の煙が一箇所に集まり始めた。恐れていた実体化……ではなく、


(あっ)


 半透明の王女だ。煙が王女の姿になった。ふよふよと自分の墓標の上に浮かんでいる。当時の姿のまま。

 本人も自身の姿に一瞬戸惑いを見せたが、すぐにこちらに向き直り、睨みつけてくる。


——我が愛しの魔王様を殺したオマエを恨むのは当たり前であろう!


 やられたからやり返した。ただそれだけ。私もそう思っていたのに、エイデンのあの顔。


(納得してない?)


 私も王女もその反応に眉を潜めていた。


「もちろんそれはそうだろう。だがそれなら、エイダン(俺)だけではない。レクシー、ネイヴァン、それにオグマもその対象のはずだ。だが王女はあの時、俺だけを見ていた」


——はっ! オマエ如きが自惚れるな!


 確かにエイデンの言うとおり、私は別として、ネイヴァンもオグマも長生きしている。呪いの「の」の字もない。魔王に止めを刺したのはエイダンだが、それに至る道筋は私達が作った。


(そうだ……英雄パーティ全員を呪い殺すこともできたはず)


 それほど恐ろしく強力な呪いだった。だから同じ黒魔術を使った私は転生できたが(まあそのための黒魔術でもあったけど)、ティアルネ王女は今も自身の魂が怒りの中で縛られている。


「話してもわかり合えないことかもしれない。だが、王女も何か大事なことを言っていないのでは? だから貴女も現状に満足していないのでは?」


 なんだか王都で流行っているという妙な詐欺のような言葉を吐き出したこの王弟。

 王女の方は怒りでプルプルと震えている。またアンデッドを召喚されてもいいように身構えるが、


――あーあーあーあーそりゃあもういくらでもあるに決まっているでしょう! 勇者風情が私を妻に娶るというのになにあの迷惑そうな表情! 涙を流して喜んでしかるべきだと言うのに! 王女としての私の誇りを汚した罪! 万死に値する!


 怒っているどころか激怒している。だが、あの時のような……エイデンを呪い殺したような気迫はもう感じない。

 というか、


「そっち!?」


 プライドの問題!?


「そうか……私の愛が貴女に向かなかったことが許せなかったと……」


 エイデンは深刻そうに頷いていた。


——……このっ! このっ! 大馬鹿者めっっ!! なぜそうなるっ!!


 エイデンは相変わらず堂々とした態度のまま。


「王女相手に失礼な態度をとったことは詫びよう。しかし偽りの心を手に入れる方が貴女の誇りが傷つくのでは?」


——はあ? はぁぁぁぁ!?


 大きく口を開いて、王女は不快感を露わにしていた。

 王女らしくない、実に人間味に溢れる顔だ……これ、本当にあのティアルネ王女?


(魂だし……ある意味内面がさらけ出されてるってこと……?)


 目の前の出来事についていけなくなった私は、現実逃避ついでに妙に冷静な考察をしてしまう。


——オマエのことなど私にとってその辺の虫以下だったことに気づかなかったのかしら!? 私には愛しの魔王様がいたのよ!? たとえ王が私を褒美に差し出したとしても、オマエは怖れ敬い辞退する立場だって言ってるのッ!


 つまり遠慮して断らなかったのが悪いと言うことか。

 私達は断る方が問題が出ると思っていたが、実際は逆だったと……。


(なんか生き生きしてきたわね!?)


 百五十年前に死んでるっていうのに!

 王女はエイデンが言ったとおり、思いっきり発散していた。これまでに溜まりに溜まっていたものを吐き出しているように見える。


——あの方が世界に対しておこなったことを考えれば結果を覚悟はしていた。だけど! その結果をもたらしたオマエがあの方が愛した私に対してあれだけ無礼な態度を取ることを許せなかったのよ!!


 一瞬の間をおいて王女の声が更に大きくなり、地下中に響き渡った。


――っていうか、まるで罰でも受けるような顔しやがってッ!!

 

 真面目な顔をして聞いていたエイデンが、うぐ……と肩を寄せた。


――あの最期の時も、まさにそんな顔をして私の前に立っていたわよねッ! すでにこっちの人生はボロボロだったっていうのに追い打ちもいいところ! こうなったらオマエの人生、あと二、三回はボロボロにしないと気が済まなかったのよ!!


 一回は上手くいったけどな! と、王女はフフンと顎を上げ、憎たらしい表情になる。


「それはあまりにも勝手すぎるわ!! 世界を救った英雄を呪い殺していい理由になるもんですか!」


 これには私も我慢ならない。

 こちらのせいばかりにするが、そもそも王女の愛した魔王のせいでこうなったんじゃないか、と言おうとした所、


――はぁ? なにしゃしゃり出てきてるわけ? 選ばれた女の余裕?


「選ばれた女……?」


 なんの話?


――あはっ! あははっ! なにそれっ! 呪いが発動しているっていうのに、今世も? ははっ!


 笑い始めた王女を見て、私は戸惑っていた。なんで急に笑い始めたんだ? もはや爆笑に近い。だがエイデンは、


「……ッ!」

「エイデン様!」


 また激し頭痛がし出したのか、頭を抱えている。


(どうしようこんな時に!)


 前世の記憶が刺激されたのだろうか。


――フン。本当に意気地のない男。


 王女はエイデンを見下すように呟いた。

 だが突如、ポロリと……王女が涙を流したのだ。その時私は、


(魂って涙が流れるんだ……)


 なんて、またも場違いな考えが頭に浮かんでいた。もう理解が追い付いていなかったからかもしれない。


——あの時……あの時……私との婚約が決まった夜、私を避けることなく側に来てくれさえすれば、魔王様のことを話せたのに!! お前自身の気持ちに向き合うのを恐れて後回しにしたんだろう!!


 ハッと顔を上げたエイデンが、ショックを受けたかのように動かなくなった。


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