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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第三十三話 信じる者、試される者 - 罪と悪の境界 -

冒険者ギルドから徒歩で三分。


大通りからは少し外れるが、

見つけやすく静かな場所に商家の廃屋がある。


今そこには看板が掛けられており、

ほとんどを領主家の家紋が占めており、下に小さく「領主代行陳情所」と書かれていた。


「バルドゥスさま、お待ちしておりました」


うやうやしく頭を下げたのはセイバス。


軽く応え案内されるまま事務室に入ると、

バルドゥスの目に十名を超える人影が映る。


「よく十日足らずでこの人数を集めたな」


さすがの手腕に言葉が漏れる。


「恐れ入ります」


小さく頭を下げ、

軽く二度手を叩く。


「総責任者のバルドゥスさまだ」

「一人ずつご挨拶を」


言われ移動を始める。


そんな中、後方で四人の男女がかたまり立ち尽くす。


「いや、挨拶はいい。セイバスの指示に従い、困ったことがあればいつでも俺に相談してくれ」


威厳を保ちつつ、柔らかい表情で伝える。

そして視線を移し、


「――そこの四人……訳ありか?」


バルドゥスの言葉に、

空気が凍る。


「……彼ら四名は犯罪奴隷にございます」


落ち着いた様子で静かに答えるセイバス。


「犯罪奴隷?」


言ってもう一度四人を見る。


「――で、それがあの緊張した様子と何か関係があるのか?」


わざとすました態度で問う。


「――犯罪奴隷だぞ!?」


その態度が信じられず、


「犯罪奴隷がこんな公共性の高いものを主導する立場で、何も言わないのか!?」


驚き声を上げたのは、犯罪奴隷の一人。


「……おまえ、名前は?」


バルドゥスが問う。


「……カンザスだ」


警戒しながら答え、返事を待つ。


「カンザス。犯罪奴隷は――全て悪人か?」


バルドゥスの真っすぐな問いに、


「……犯罪者なんだ。悪人なんだろうよ」


カンザスは顔を伏して答える。


「――違うな」


バルドゥスの答えに、その顔を上げる。


「食い物を盗めば罪人だ」

「だが、それを腹が減って死にそうな奴に施すことは“悪”か?」


一拍。


「俺はそうは思わねえ」


沈黙。


「悪人とは組まねえが、お前らは違う。任せるのに何の不安もねえよ」


言い切ったバルドゥスに、

再度カンザスが問う。


「……ふざけるなよ」


かすれた声だった。


「そんな簡単に……」

「信じられるわけねえだろ……」


自分の物差しが、信じることを許さない。


「なぜ今日会ったばかりの俺たちが、悪人でないと言い切れる?」


問うその目が、答えを求めていた。


「お前らを連れてきたのがセイバスだからだ」


「――それだけ……?」


驚くカンザスに、セイバスが続ける。


「ちなみに私は、承認なしで税収を扱う権限までお預かりしています」


「――なっ!?」


これにはカンザスだけでなく、

その場にいた全員が驚きの表情を見せた。


「昔からの……知り合いなのか?」


カンザスの隣にいた男がセイバスに静かに問う。


「いいえ、領主さまのお供で数回顔を合わせたのみです」


冷静にセイバスが答える。


「……なぜ、そこまで信じられる……?」


カンザスの問いに、全員が息をのむ。


「信じない理由がねえ」


言ってセイバスを見る。


「確かに、セイバスとは数日会話を交わした程度だ」

「だが、言葉の端々に感じられる人柄、過去への憂い、未来への渇望――」


その目が映し出す男を正しく評価し、


「少なくとも、責任から逃げる奴じゃねえ」


一拍。


「それに、俺の直感がこいつを信じられると言っている」


言って、今度はカンザスを見る。


「信じる男の信じるお前らだ」


その目が、揺れる男の目を引き付ける。


「ならば俺は――信じる」

「そして責任は、俺が取る」


言い切った。


その答えに、セイバスが小さく息を漏らすように笑った。


「……まあお前らはもっとしっかりした理由が欲しいんだろうが」


一拍置き、


「これでも俺は、上に立つ人間だ。人を見る目はある方だと自負している」


言って全員の顔を見回す。


「もう一つ理由をつけるなら、こいつはあの無能領主の元で長年執事を務めた男だぞ」


皮肉めいた笑みを浮かべつつ、


「こいつがいかに忍耐強く、自分の仕事に誇りを持っているかがわかる」


誰も何も言わない。


再度全員を見渡す。


「それが答えじゃ――不服か?」


バルドゥスの問いに、顔を見合わせ――


「……信じて、いいのか……?」


カンザスが代表して、その願いを口にする。


「ああ。その目でしっかりと確認しろ」


その自信に満ちた姿に、

カンザスがゆっくりと片膝をつく。


倣うように、

全員が片膝をつき顔を伏せた。


「大げさだな、お前ら」


言って小さく笑う。


「セイバス」


「――なんでございましょう」


セイバスの返事と同時に、カンザスの方に顔を向ける。


「あの四人の犯罪奴隷、どうせくだらねえいちゃもんで奴隷にされたんだろ?」


「……はい」


「大きな音に驚いた馬が馬車を大きく揺らし、奴隷に落とされた馬車頭」


「客人に出した料理がのどに詰まりかけ、奴隷にされた料理長」


「他の二人も、似たようなものです……」


悔恨を滲ませ、答えるセイバス。


「……そんな事だろうと思ったぜ」


静かに拳を握り、


「セイバス!」

「こいつらが働いていたら稼いでいたはずの金、しっかり補償しとけ」


「――ありがとうございます」


セイバスは深く頭を下げた。


「もう一度言うが、困ったことがあればいつでもギルドへ来い」


「セイバスのサポート、頼んだぞ」


頭を下げたままの一同に声をかけ、

バルドゥスはギルドへと戻っていった。


「――あれが、我らの新しい主です」


静まり返った場に、セイバスが命を宿す。


「あの方は、我らの意見を聞き入れてくださる方です。この街のためにも、最善を尽くし応えましょう」


「「「おう!」」」


燻っていた者たちがいま、一つにまとまった。




その日の夕方。

セイバスが書類を手渡しにギルドを訪れた。


「なんだ、奴らのリストわざわざ作ってきたのか?」


びっしりと書かれた書類を見て、

苦笑いするバルドゥス。


名前だけでなく、職業や雇用条件などびっしりと書かれていた。


「……これは、カンザス。奴が馬車頭か」


バルドゥスのつぶやきに、


「はい。いま、最も必要な男です」


セイバスが答える。


「たしかにな。宿が足りねえのは冒険者なら野宿もできるが、物流の改善は急務だ」


いまは在庫分でなんとか回っているが、

そろそろ綻びが出始めてもおかしくない。


「人手は足りてるのか?」


「物流に関しては、カンザスが仲間に声をかけてくれていますので問題ないと思われます」


「どちらかと言えば、元料理長セザンヌが出店予定の従業員ですね」


「食事処か……」


思案していると――


「失礼します」


部屋に入ってきたのはエリナ。


「来客中に申し訳ありません」


小さく頭を下げ、


「少し気になった部分がありましたので、報告書を作ってまいりました」


言って机の隅に置く。


「後ほど、ご確認をお願いいたします」


そのまま退室しようとしたエリナを、

バルドゥスが引き留める。


「エリナ、お前の意見を聞かせてくれ」


「はい、なんでしょうか?」


返事をし、説明を受けるエリナ。


「――そうですね」


「食事処でしたら専門的な知識がなくても学んでいけるでしょうから、可能であれば、夫を無くした冒険者の妻や孤児などから採用いただければありがたく思います」


エリナの意見に、


「なるほど……店のことよりもまずは社会のことを考えますか」


セイバスのつぶやきに、


「すみません!」

「わたしも同じ境遇でしたので他人事とは思えなくて……」


謝るエリナに、


「いえ、素晴らしい提案です。ありがとうございます」


一拍置き、


「失礼ですが……“同じ境遇でした”とは?」


過去形の言い回しが気になった。


セイバスの問いにバルドゥスが答える。


「こいつはレオンの妻だ」


「レオン!?」

「ではあの時の!?」


言われて顔を赤らめる。


「……忘れてください」


舞台の上のシーンを思い出し、沈黙する。


「しかし、なぜ【S.O.M.P.O. ジャン】の方がこちらで働いていらっしゃるのですか?」


再度の質問に、

再びバルドゥスが答える。


「こいつはうちのケイティ―と交換留学中だ」


「交換留学?」


聞きなれない言葉を聞き返すと、

エリナが簡潔に説明を行った。


「ほぉ――!」


「それは素晴らしい試みです!」

「一体どなたの発案ですか!?」


珍しく興奮気味のセイバスに


「クロードだ」


バルドゥスが答えた。


「――そうですか……」

「やはり、あの方は見ている世界が違うようです」


つぶやき、

数秒の沈黙ののち顔を上げる。


「わかりました。雇用はそのように進めてまいります」


セイバスの言葉に


「ありがとうございます!」

「【S.O.M.P.O. ジャン】としても、協力は惜しみません」


「孤児の雇用に関しては、孤児院の院長とうちのリーリスに繋がりがありますので、領主代行陳情所に訪問するよう声掛けをいたします」


「冒険者の妻に関しては、これからわたしがリストアップいたします」


「頼んだぞ」


エリナの言葉にバルドゥスが答え、

エリナは退室した。


「……あれが英雄レオンの妻ですか」


その後ろ姿を見送り、


「優秀な方ですな」


感心するセイバス。


「ああ、あの嬢ちゃんは他のやつらと目の付け所が違う」


言って、

エリナの持ってきた報告書を読む。


「……ふっ」


小さく笑い、


「見ろ、セイバス」


その報告書をセイバスに手渡す。


「おれはあの嬢ちゃんに、気になった異変があれば報告してくれと頼み、ここで資料を見てもらっている」


一拍置き、


「その答えの一つが、それだぞ」


言って、再び笑みを浮かべる。


「これは……」


そこに書かれていたのは、異変のないことに関する報告だった。


【ガーラン】周辺の魔物の遭遇率、種類等に大きな異変が無い。

それについて、自身の違和感を言葉に変えて報告していた。


「普通のやつは、異変を見つけて報告してくる」

「だが、あの嬢ちゃんは異変が無いことを異変と見抜き報告してきやがった」


「――おもしれえだろ?」


ニッと笑うバルドゥス


「……確かに」


セイバスは静かに同調し、続ける。


「これだけ冒険者が流入しているのに【ガーラン】周辺で魔物が増えていないことには違和感があります」


言われてみればわかる。

だが、そこに気づくものが何人いるだろうか?


「……これから、こちらでもあのお嬢さんに意見を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、好きにしろ」




帳面の裏表紙に刻まれた名が、繋がりを求め歩きだす。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、信じられぬ者と、信じる者。


その交わりは、この街の在り方を静かに――


だが確実に、その歪みごと変え始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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※毎週水曜日21:00更新予定です。

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