3一、 孤独な野良犬と、一人の少年
第3章:友の灯火、憤怒の業火
牢獄から命からがら逃げ出した若者は、もはや「若君」の面影など微塵もない、薄汚れた野良犬のような姿で北の街道を彷徨っていた。金も、女も、虚飾の知性もすべて剥がれ落ちた彼に残されたのは、錆びついた一本の刀だけだった。
「あんた、死ぬにはまだ早いよ。顔がまだ、何かに抗ってる」
そう声をかけてきたのは、カイトという名の、年の近い青年だった。彼はかつての大戦で家族を失い、傭兵崩れの用心棒をしながら、いつか自分の道場を持つという夢を追っていた。
カイトは主人公に、生きるための「泥臭い知恵」を教えた。
それは書物にある高尚な理論ではなく、火の起こし方、雨風を凌ぐ場所の見つけ方、そして「明日まで命を繋ぐ」という執念だった。
「いいか、本当の強さってのは、誰かを叩き伏せる力じゃない。何度叩き伏せられても、泥を食ってでも立ち上がる力のことだ」
主人公は、カイトの真っ直ぐな瞳に、自分がかつて「品性」だと思っていたものが、いかに薄っぺらな虚栄だったかを痛感した。カイトには学こそないが、その一挙手一投足には、自分の足で人生を切り拓いてきた者だけが持つ、本物の「品格」が宿っていた。
二人は共に旅を続け、時には一本の干し肉を分け合い、時には冷たい月明かりの下で剣を交えて語り合った。主人公の心に、凍土に咲く花のような、穏やかな希望が芽生え始めていた。
「俺の夢が叶ったら、あんたを一番の門下生にしてやるよ。……いや、親友として、一緒に剣を教えよう」
その約束が、主人公にとっての新たな「確からしさ」になりつつあった。




