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グレイ  作者: 家端独
第二章
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第三十話 結局これが現実


 アルヴィが騎士と共に盗賊クラン『風狼』の討伐に出るまであと数日。元々は少数精鋭で仕掛ける予定だったのだが、想像以上に大規模であるという偵察の情報から衆兵をもって壊滅させるという運びになった。


 オルグスに弱兵はいない。これは周知の事実である。しかしそれをもってしても『風狼』が生きながらえているのは、単に隠れるのが上手いというだけではない。

 アルヴィもそれを理解しているからか、武器の手入れに励んでいる。

 俺はその横目にアジトから持ってきた物資の確認をしていた。


 魔力を含んだ鋼鉄で鍛えられた槍に拳サイズの魔石を十数個、シャーロットちゃんのお弁当など。

 『門』の中は時間の経過がないので食品が腐ることはないのが嬉しい。

 最後にラトガトへ戻るときにクロウから渡された折りたたまれた紙。


 なんだろうと開いてみると、それは見覚えのある魔法陣だった。

 しかし俺が描いたものよりも小さい。いや、これはスマートなんだ。

 それは聖樹結界(グレイト・ツリー)の魔法陣。

 実際に使ってみるまで正確なことは判らないが、必要魔力量が大幅に減っている。半分くらいだろうか?

 テレシアさんが俺が寝ている間に改良してくれたのだろう。本当にあの人は天才だ。

 弟子として誇らしいよ。


ーーー


 

 一段落ついた頃、俺はいつも通り食べ物を持参して広場に向かった。

 いつもと同じ長椅子に腰掛けて持ってきた食品を隣に下ろす。


 ここ数日、あの子供たちの姿を見ていない。

 今までにも二日現れなかったこともあったため、そこまで心配はしていないが。


 今日は食べ慣れた屋台飯ではなくてちゃんとした店で作られたランチだ。

 普段は生意気なガキ共も目を輝かしてくるに違いない、とヤツらが来るのを待つ。


 しかし待ち人来ず。

 定刻なんてものは無いが大体いつ来るかは決まっていたのだが彼らは未だ姿を見せない。

 食欲旺盛で怪我した時でさえ体を引きづってでも来るようなあいつらがまだ来ていない。 

 

 騒ぐ心を落ち着かせもう少しだけ待ってみることにした。

 彼らが来なくなって今日で四日目か。


 思い返してみると彼らが現れるときは決まって5人だった。家族の手伝いをしていると言っていたし、何か理由があって遅れているんだろう。ご飯をみんなで賑やかに食うのが好きな奴らだ。そのうち俺の心配など余所に騒がしくやってくるに違いない。


 そんな希望的観測は無情にも打ち砕かれる。

 空が徐々に朱に染まりだしていた。時間は測っていないが体感2時間くらい待った。だというのに子供たちは一向に現れない。

 心の中で何かが掻き立てている。

 子供たちの身を案じている自分がいて、それを確認して楽になりたい自分がいて。


 空が赤みを帯びていくのに反比例して広場の人たちは姿を消していく。

 俺は見られないようにして『門』の中に飯をしまい、彼らが使う路地へと足を進めた。


 迷路のように入り組んだ路地を縫うように走っていくと、先程までと比べていくらか開けた場所に出た。


 ボロ小屋が所狭しと並び、辺り一帯には鼻腔にまとわりつく腐臭汚臭が漂っている。その構造のせいで空気の循環・換気が上手く機能していないのだろう。

 衛生環境も最悪でそこら中に死体が転がっている。

 

 トーマは思わず顔をしかめてしまう。


 燻る焦燥を抑えつけて子供たちの痕跡を探るが、しかしこれも上手くいかない。

 傾いた陽が影をつくり、その影が貧民街(スラム)を覆い去ってしまっていたのだ。加えてトーマは彼らの家を知らない。砂漠の中から砂金を探す行為に等しい。


「くっ、どこに‥‥‥」


 焦りが一層勢いを増す。


「おい、あんたさっきから何してる?」


 背後から掛けられる謎の声。

 振り返ってみるとそこには男が一人壁を背に座り込んでいた。


 険しい表情で走り回る俺を見かねて声を掛けたのだろうか。


「人を探してるんだ!そ、そうだアンタ知らないか、いつも5人でつるんでる子供たちで‥‥‥そう、内一人は腰に風呂敷巻いてるんだが」


 なるべく簡潔に分かりやすい特徴を伝えると男は「あ~」と声を漏らす。


「何か知ってるのか!?」


「そいつらならもういないな」


「は?じゃあどこに────」


「さぁ?二日か三日前の夜のことだ。俺もあんまり覚えちゃいないが。

 貴族か商人か。どちらにせよ、その子らなら連れていかれたよ。あの感じじゃ良くて奴隷、悪けりゃ玩具(おもちゃ)だな」

 

 トーマの脳は男の言葉を理解できなかった。理解することを拒んだのだ。

 しかし、それはいつまでも続けられない。もしかしたら今向かえば助けることが出来るかもしれないからだ。

 そう考えれば一気に思考がまとまってくる。

 トーマは男に尋ねる。


「子供たちを連れて行った奴らの特徴は?そいつらはどこへ向かって行った?」


「落ち着けよ。さっきも言ったが俺が見たのは夜だ、特徴なんか知らねぇ。

 だが、どこへ行ったかなら予想はつく」


「どこだ!?」


「街の中心へ向かって行ったからな。おそらく1区か2区だろうな」


 貴族街か。かなり広いな。こんな時間に人探しなんて怪しまれて騒ぎになるかもしれない。

 ちっ、そんなこと言ってる場合じゃない。


「情報、感謝する」


 懐から金貨を一枚投げ渡すとトーマは男に背を向けた。


「そうだ、最後に一つ訊いていいか?」


「あん?」


「なんで止めなかった‥‥‥」


「ここじゃそんなこと珍しくもない。いちいち首を突っ込んでられるか。こっちの首が飛びかねん」


 うまいこと言ったつもりなのだろう。さっきまでと比べて声が楽しそうに弾んでいた。

 こっちの気も知らずに、と思うが男から得られるものは得たので返答も相槌も何もせずトーマは貴族街へ急いだ。

 

ーーー


「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」


 陽の光が完全に消え去ってしまった中、夜道を照らすのは月光ではなく魔道具だった。しかしそれも充分ではない。陽の下で確認できた細部は今は見られない。人々の少し上から弱々しい光が降り注がれるのみ。

 そんな状況で探し当てるのなんて至難の業。

 ていうかそもそも、この綺麗に舗装された道には痕跡どころか物一つ落ちていない。


「くそっ‥‥‥」


 手掛かりはなく、情報も不足している中での最善策は端から端までくまなく探すことだけだった。



 そして気付けば見知った通りに出ていた。

 一抹の不安も抱きながら足を進めていると、地面に何か落ちているのに気が付いた。

 それに近づいて拾い上げると───。


「───ッ!?」


 それは子供たちの一人、ココが腰に巻いていた布だ。

 初めて会ったとき、俺が彼に渡したものだった。


 無残にも踏み荒らされ、無数の靴跡が刻まれていた。

 

 トーマは足跡が向かう方向を睨みつけるが、


「な‥‥‥んで‥‥‥」


 目線の先にあったのはパラディース邸だった。 


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