■9、彼女の正体
巨人の国に行ってからどれくらいの時間が経っていたのかわからない。
向こうは昼間だったし、世界の反対側だった?
そもそもこっちの世界も惑星は球体?
そんなことを考えても無駄だ。
とにかく戻ろう。
「レンもクーデリアも俺を呼びにきて、部屋にいないことで少し慌ててるかもしれないな。急いで戻るか。」
行きは侵入者を警戒していたのでゆっくりだったが、帰りは軽快だった。通路を走り、螺旋階段を駆け上る。イレーネスの塔に戻る。おそらく現在、真夜中か深夜…下手すれば夜明け前といったところか。
空はまだ暗く。通常なら寝静まっている時間帯であろう。しかし…
「あれ?なんか騒がしいな…。ひょっとして俺が捜索されているとか?」
急いで無事なことを伝えないと…とにかく誰かに会うために走った。
玄関ホールでメイドのフィルが使用人に指示を出していた。
「フィルさん、すみません。この騒ぎは一体何ですか?」
「…!?あおい様!!いったい今まで何処に?…いえ、まずは他のみなさんにお伝えしましょう。」
フィルが、他のメイドに伝言を伝えた。
「あおい様、今からこの塔の4階に集まって頂きます。詳しい話はその時に。」
「ああ、わかった。」
フィルに案内されながら塔の4階のミーティングルームへ入った。
「あおい、貴様一体今まで何をしていた。風呂を出た後、呼びに行ったら部屋はもぬけの殻だ。どれだけ心配したか…。」
「ごめん…。そのへんはしっかり説明するよ。…って…ん?クーデリア、レンはまだ来てないのか?あいつにもちゃんと説明したいし来てからにしたいんだけど。」
「…………。」
クーデリアは顔を逸らしたまま何も言わない。
「あおい様、あなたが無事戻られたことは、大変喜ばしい事です。ですが、喜んでばかりもいられません。」
「…ん?」
「順を追って説明します…。私たちが湯浴みを済ませた後、次にお風呂に入って頂こうとレン様があおい様を呼びに行ったのです。しかし、あおい様はすでに部屋にはおられず、どこを探しても見つかりませんでした…。
あおい様がいないと発覚して、すぐに屋敷の者総出で屋敷内の全ての箇所を捜索しました。私も、遠見の魔法にて屋敷内はもちろん、この土地一体のあらゆる場所を探しました…。しかし…あおい様は、いっこうに見つけられないまま…。そして…そのままいつの間にか、レン様までもいなくなってしまっていたのです。」
「えっ?いなくなったって…。……なんで?」
「おそらく、としか言えませんが、あおい様を探す為でしょう。」
「そうだ…。貴様がいなくなってレンがどれだけ取り乱していたか…。それを知っていながらレンを見失っていた私も不甲斐ない。すまない…。だが、貴様は何も告げずにノコノコと何処をほつき歩いていたのだ。」
「俺は、自分の部屋で風呂を待っている時にある声を聞いたんだ。そして、その声を探した。侵入者の可能性もあったから警戒もした。そしてその声に導かれてこの塔の地下に向かったんだ。」
「声だと?」
「ああ、最初は、その声を聞いて不審者がいると勘違いして声のする方を追いかけてた。けれども、その声は、俺をある場所に呼んでいる声だと途中から気がついた。そして、神殿のような場所にたどり着き、この魔剣と出会ったんだ。」
あおいは、腰に下げていた魔剣を机に置いた。
「何?魔剣だと?」
「…んっ!?あおい様、まさかそれは、伝説の時間を操る魔剣ではありませんか?」
「ええ、そうです。俺はコイツの声を聞いて導かれ、ある場所に転送されて試練っていうのをやらされてた。」
「魔剣が自ら?…そんな。魔剣の多くは、自らの意思など持ちません。ですので持ち主を決める際、相手の力量だけで自らを行使するに相応しいか決めるそうです。なので人をわざわざ呼ぶ魔剣なんて聞いたことがありません。
…しかもこの魔剣は、最初の持ち主が亡くなってから、ただの一人として主に認められた者がいないと伝わっております。この近くの神殿に祀られているのは有名でしたが…。まさかあおい様、契約なされたのですか?」
「ええ、ティメアが、俺を気に入ってくれたみたいで『血の契約』ってのをしました。」
「え!?血の契約だって…?」
「何かまずかったんですか?」
「まずくはないが…。血の契約っていうのは、普通の契約と違う…。普通に、我々がする契約とはただの力の貸し借りだけで何のリスクもない。1本の剣に対し複数の持ち主という、多重契約だって出来る。その逆も可能だ…。しかし…血の契約は違う…。
その剣は、もうお前だけしか主としないという事を決めたのだろう…。血の契約を行うという事は、お互いの全てを捧げるという事だ…。つまりだ!お前が死ねばその魔剣も同時に死ぬという事だ。その逆もしかり、魔剣が折れた時お前も死ぬ…。まぁその可能性は限りなく低いが…ノーリスクってわけじゃない。」
「…な!」
「それにしても、あおい様はとんでもない魔剣と契約をされましたわね…。魔剣タイムトゥナイトメア、数ある魔剣の中で最強と謳われる力を秘めた魔剣。その力を求めて、当初、名のある剣士や戦士、ありとあらゆる力を求める者がその剣と契約を交わすために、この地を訪れていた時期があったそうです。しかし、どれだけすごい英雄が持っても、何の反応も示さなかったそうです。長い、長い時の流れと共に、やがてここを訪れる者もいなくなり、今では伝説にしか残らないほどの存在になっていた魔剣です。」
「ティメアは、そんなにすごい魔剣だったのか。」
「あおい様、何を他人事のように…。最強の魔剣と契約をした。すなわち、この世界最強の一角にあおい様がなったということですよ。あなたが望むと望まざるにかかわらず。最強を目指す者がやってくるということ、彼らの耳にはすぐに入ります。あおい様の情報は、世界中に、瞬く間に轟くでしょう。」
「こいつと一緒にいるってことは、そういう覚悟がいるってことなんだな…。」
「はい。」
「あおい様の事は理解しました。後は、レン様ですが…、あおい様を探している時に気づいたのですが、ダラティアの方で少し騒ぎがあったようです。ダラティアの街に、騎士団の物であろう、飛空機があるのも確認しております。おそらくレン様は、騎士団に捕縛されてしまったのかと。」
「いや…それはないんじゃないか?レンは、優秀な探知スキルを持ってるんだ、そんな簡単に捕まるわけ無い。それにここからダラティアまで歩いて2日だぜ?数時間でどうやって行くんだよ。」
「…。レン様は普通の状態ではありませんでした。あおい様を必死で探すあまり、自分への敵意に気付けなかったのでしょう…。そこに騎士団が罠を張って。実際、あおい様がいないとわかった時のあの焦り様は異常でしたもの。」
「な…」
「彼女ならおそらく…。ダラティアまでも数時間で行けるかと。」
「なんだよ…それ?」
「……。」
「くそっ!…レンの事わかってたつもりだったのに。あの子はずっと一人だって言ってたじゃねえか。」
自分の馬鹿さ加減が許せなかった。
たった一言様子を見てくると誰かに言付けしておけば、レンが取り乱していなくなる事はなかったのに…。
「おい、クーデリア!ダラティアって!お前の騎士団が絡んでるんだよな?レンを捕まえてどうするつもりだったんだ!!」
「あそこ、ダラティアなら、間違いなく騎士団が絡んでるだろう。ドラゴンの捕縛命令の実行中だからな…。おそらく捕縛した後は、騎士団領ハインガルドへ向かうだろう。」
「な…ドラゴンってなんだよ?レンはドラゴンなんかじゃねえだろ?」
「何を言っている?この世界でたった一つの存在、唯一、癒しの力を持った存在、それが何を意味しているのか…もしや知らんのか?」
「あおい様、あなた様はもう気付いているのではないのですか?レン様が、なぜこれまでずっと逃げてこられたのか…。なぜあなたの傷を癒すことができたのか…。」
「あいつは…人じゃなく、『ドラゴン』だから…か。」
「この世界での唯一の特異点、あの癒しの力はこの世界の誰もが欲しがるものです。瀕死の重傷でも、不治の病でもレン様の力を用いればたちどころに癒せてしまう。」
「それは、どんな強力な兵器よりも誰もが欲するすごい能力なのです。」
「じゃあ…捕まっちまったレンは、レンはこれからどうなるんだよ!!」
「おそらく、研究機関で、その癒しの能力を複製できないかと、いろいろな実験をされるでしょう。下手をすれば解剖すらも…。レン様は、あおい様というこの世界への強い執着がありますから、よほどの大怪我を負わす実験でなければ自分で癒してしまうでしょう。研究者が、そのように結論を出すのは時間の問題かと…。」
「ふざっけるなぁああああ!!あの子が一体この世界に何をしたって言うんだ?俺と出会うまで安心できる場所なんてなかったって言ってたんだぞ…。
服も、靴も、初めて着て…履いて。それだけで、あんなにはしゃいで…。
そんな子をよってたかって…お前らに人の心はあるのか…。
なぁ…教えてくれクーデリア…。」
「すまない…。私はこれまで強い奴と戦えればとしか考えないで、ずっと彼女を追いかけてた。何も考えず…、ただ命令に従っていた…。」
「あおい様、落ち着いて下さい。まだレン様が何かされたと決まった訳ではないです。場所はわかります。私の飛空機で、騎士団領ハインガルドへ向かいましょう。」
「…すまん。少し熱くなりすぎた。」
できるだけ早く騎士団領へと旅立つことを決め、各自出立の準備に入る。
クーデリアは騎士団領と最もつながりが強い為、浮かない顔をしていた。
「クーデリア、先に言っとく、騎士団の奴らと顔を合わせるのが嫌なら一緒に来なくてもいいからな。」
「いや、これは私の問題でもある、逃げるわけには行かない。」
「そうか…。なら先に忠告しておく、もし騎士団がレンに何かをしていたら。俺は騎士団領の奴ら全員を殺してでも報復する。…これは冗談じゃない。」
「…ああ、わかった。私も元騎士団員だが、内部事情にはほとんど関わっていない。誰が敵であってもあおいの味方であることを誓おう。」
「そうか…そう言ってくれて助かるよ。お前は斬りたくなかったから。」
「あおい、まずは情報を集めなければならないだろ?騎士団には父様がいるんだ。話のわかる人だからまず、その人に会ってみてくれ。」
「わかった…。」
「はぁ…。よかった。けして悪いようにはしない。」
あおいは冷静さを欠いているが全く話を聞こうとしないわけではなかった。
一刻も早くレンを助けねばと焦っても、いい結果を望めるとは思えないから。
「お二人共、飛空機の準備が出来しだい、ここを出ます。それまでに必要な物等の準備を終えておいて下さい。騎士団領までは、飛空機でも最低でも3日程かかります。レン様は飛空機で連れて行かれている可能性があります。その場合でも、向こうで1日くらいしか時間は経っていないはずです。焦らずに情報を集めて行きましょう。」
飛空機の発着上は、塔の最上階、つまり屋上にあった。
すでに全ての点検を終えており、後は乗り込むだけとなっていた。
メイドや使用人が総出で準備を完了させてくれたようだ。
あおいの捜索にはじまり、昨日から一睡もせずに頑張っていたので、目の下に少しクマが出来ていた。
「みなさん、本当に申し訳ありませんでした。」
「あおい様、お気になさらずに!我々は、みんな主人であるイネーネス様と一緒の気持ちです。お気をつけて行ってきてください。」
「フィル、後のことは任せました。何かあればいつもの方法で…。」
「かしこまりました。イレーネス様どうか無理だけはなさいませぬよう。」
飛空機に乗り込む。
飛空機は特に翼もなく、バルーンのような物もついていない。
横向きに置いたタマゴというのが一番近い形だといえる。
おそらく魔力で浮力などが発生して浮かんでいるのだろう。
そんなタマゴの下部分に、円形の光の柱が照射されており、その光の柱に入ることで、飛空機内へと転送されるようだ。
「初めて乗りますが、変な感じですね。」
「初めてこの乗り物に乗られる方は大抵そうおっしゃいます。じき慣れますよ。」
飛空機の中は、小型のシアタールームのようになって、前方に外の景色が映し出されていた。座る椅子はソファーのように柔らかくリクライニング付き、元の世界の飛行機より全然乗り心地が良かった。
いろいろ見ているうちに飛空機は発進していた。
飛んでいるはずなのに全然揺れない。
音もない。
「あおい様落ち着かないご様子ですが、このまま目的地まで3日間かかります。リラックスしてお過ごし下さい。」
「はい、慣れると問題ないと思います。」
3日間もあるので時間を無駄にしないために魔剣の力がどの程度使えるものなのか確かめようと考えた。クーデリアとイレーネスに手伝いを依頼した。
飛空機は、外側から見たら2,3人が乗れればいっぱいになりそうな程小型だったが、内部に入ると大きめの別荘位の広さがあった。空間制御の魔法が使われているそうで、更に大きく広げることも、元の小さいサイズのままにしておくこともできるのだそうだ…。
異世界スゲェ…
「じゃあ、まずクーデリア、いつでもいい、俺に攻撃を仕掛け続けてくれ。」
「ああ、わかった。」
真剣ではなく、木剣での対戦だが、本気で対戦するようにお願いした。
当たれば相当なダメージになる。
「やあああああ!」
「はぁ!」
クーデリアからの攻撃のタイミングで息を止め、魔剣の時間停止を使う。
避けてから息を吐く。そういった動作を繰り返し行う。
もちろん、こちらから攻撃は一切しない。
この魔剣の時止めの力がどの程度まで連続使用できるのか知るためだ…。
1時間が経過し、2、3、4…8時間くらいたった頃、
普通に剣を振り回しているだけでも大変な時間だっただろう。
そのころ体に異様なダルさが出てきた。
魔剣の力は通常なら魔力を使うそうだが、あおいにはそれがない。
…代わりに体力でも消費しているのだろうか?でも、これだけ連続使用していられるなら実践でも問題なく使えそうだ。
「クーデリア…。はぁ、はぁ…。体の調子はどうだ。」
「なに…はぁ…はぁ。、これくらい小さい頃より、鍛えてあるから問題ない。その魔剣の力はもの凄いな・・。瞬間移動でもしたかのように急に消える。何回かはよけれるはずがないタイミングだったはずなんだが…。ふぅー。」
「こいつの力は、時間停止…。俺以外の動きを完全に止める。他にも見えない場所の相手の動きが多少分かったり、身体の動きや力もだいぶ上がってるな。ほんとに自分でも凄いと思うよ。」
クーデリアはその場に座り、肩を上下させ息を整えている。
「よし、次はイレーネスに頼みたいことがあるんだ…。」
「はい…何でしょうか?」
「以前に、遠隔操作で黒猫を使ったと思うんだけど、それで2つ程確認がしたい。」
「ええ、使ってましたわ。」
「その力って生き物以外にも使える?それと、複数に対して使える?ってのを聞きたいんだけど。」
「その質問であおい様が何をしようとしているのか理解できましたわ。生き物以外でも可能です。さらに動き自体は短調になってしまってもいいのであれば、私の魔力が持つ限り何体でも同時に動かせますわ。ちなみに人の動きを最低限させようとすれば50体ほどまでなら、時間は、1時間くらいなら続けられると思いますわ。」
「理解が早くて助かる。じゃあ今はちょっとバテバテなんで、数時間仮眠を取ってからお願いしたいんですが…。」
「ええ、わかりましたわ。協力させて頂きます。」
「クーデリアもゆっくり休んでくれ。ありがとな!」
「ああ…」
飛空機には簡易のシャワー、キッチンなども完備されており、このまま数日過ごしても何の不自由もなかった。汗を流し、軽くお腹を満たしてからベッドで横になる。
漆黒の剣を見つめていた…。
「ティメア今回は多分お前に頼りきりになる。ごめんな。」
すると剣がほのかに光って、あおいの頭に声が響く。
「ううん。私はお兄ちゃんのしたいこと全力で助けるよ。全部見てるから…」
剣はその言葉だけを伝えて、その後は、沈黙した。疲れて、半分頭がぼっとしていたから幻覚でも聞こえたのかもしれない。でも、あおいはその言葉がティメアの本当の言葉だと信じた。そして仮眠をとる。
数時間後、体の調子は問題なさそうだ。
イレーネスの所に行く、彼女は私室にいるようだ。
[コンコンッ]ノックをする。しばらく待ったが返事がない…
扉に手をかけてみる。扉が開いた・・。中はお洒落な調度品で飾られ、白をメインとして統一された家具。
「あれ?ここにいるって聞いたんだけど…」
あおいが、部屋から出ようとした時、奥の部屋からイレーネスが姿を見せた。
「うわ!?」
「・・あら!!」
お互い目を大きく見開いて驚きあった。
イレーネスはシャワーでも浴びていたのか、頭をタオルで拭きながら出てきた所だった。
全身裸、あられもないイレーネスの豊満ボディ。
手にはタオルのみ…。これがかのラッキースケベか…
「す…すみません!部屋をノックしたのですが…。」
「お気になさらず、私としたことが鍵をかけておくべきでしたわね。ふふふ。…あまりジロジロみられるのはちょっと気恥ずかしいのですが。」
「あの…すいません出直してきます。」
そう言って一旦部屋をでた。
暫くして、服を着たイレーネスが部屋から出てきた。
「あの、故意ではなかったとは言えすいませんでした。」
「いえ、あおい様は私のこともしっかりと女性として見てくれるのですね。ふふふっ。」
「そりゃこれだけ綺麗な方を意識しない方がおかしいでしょ。」
「殆どの方は私の肩書きに畏怖してまともに顔すら見てくれませんわ。」
「それはもったいない…。」
「ふふふっ!それでは先ほどの話の実験を開始しましょうか。」
「ええ、お願いします。」
2人はイレーネスの部屋から話をしながら訓練スペースまでやってきていた。
「ところで、私はあおい様の考えていることは理解しておりますが、どのように試すのかは指示していただきたいのですが…。」
「えとさっきお聞きするべきだったのですが、人形のようなものは作れますか?」
「ええ、魔法で土人形でしたら。」
「では手始めに操れる数だけゴーレムの生成をお願い出来ますか?」
「ええ、もちろん!それでは行きますよ。」
イレーネスが何かを唱えた後、地面にいたるところに魔法陣の文様が浮かび上がる。そしてその魔法陣から人の形をとった土くれで出来た物体が生成されていく。
その数は50体。
…この数を個別に動かせるというのだからどんな処理能力してるんだか。
「すごいですね。数は聞いていましたが実際に目の前に揃うと圧巻ですね。」
「騎士団領の全員を相手にするなら少し数が不足でしょうが、それでも同時攻撃を50人からされるなどレアケースですわね。」
「はい、ではイレーネスさんいつでも大丈夫なんで、あなたのタイミングで俺を一斉に攻撃してください。」
「では参ります。」
しばらく沈黙の時間が流れた後、ゴーレムたちが一斉に飛びかかってきた。
50体もの人型人形が複雑に動き、襲いかかってくる光景は凄まじく、通常の動きだけでは到底避けることも防ぐこともできない、数の暴力。
時止めを展開する。
あわや土くれで生き埋めになるというところで、50体すべてが空中で静止している。そして隙間を縫うようにゴーレムの隙間を抜けだし、時間を動かす。
多数へ時間停止の実験も、問題ないようだった。
「素晴らしいですわ。」
「では次は…」
そうやって何パターンかゴーレムを使って実験を行っていった。
複数いる場合、1体だけの時間を止めてみたり、イレーネスのように操作している対象がいる場合、操縦者を止めてみたり、攻撃が当たる一瞬を見計らって止める実験などなど…
魔剣を使っての実践に役立つかもしれない状況を試していった。
そこで判明したこと
①魔剣の能力発動は、1日合計して60〜70分ほど時間が止められる。
②1度の時止めの継続時間は、息を止めていられる時間だけ(最長でも2分ほど)
③個別に止める場合はかなり時間を延長できる。
しかし、個別に止める場合、その場所に集中しないといけない為、
別の場所からの攻撃があった場合、逆に不利になるということ。
「よし、これくらいやっておけば問題ないでしょう。魔剣の弱点もだいぶ掴めました。」
「そうですわね。でも、その魔剣の能力を知っていてもなかなか対応出来る類のものではないと思うのですけれどね。」
「知らなければ何をされたのかも分からずあの世行きですしね。まぁ相手には絶対にバレないように動きますよ。」
確認するべきことを終え、あおいは休息をとった。
心の準備が出来た頃、目的地まであとわずかの位置まで来ていた。
眼前には、要塞のような都市が見えていた。