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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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スパイ、上司に報告する

 直属の上司と名乗った女の子は、背中の中ほどあたりまで伸びた金色の髪がさらさらですごく綺麗だった。けど、あれ、洗うの大変そう。……でも上司とな。きっと報告っていうから何かを調べなきゃいけないんだろうけど、それが分からない。うーん、たぶんプレイヤーの状況とかについてなんだろうけど。どうしようか。


「どうしたの?早く。私も暇じゃないの」


「いえ、それが、どれから報告したものかと思いまして……」


 報告するものなんてまったくないのに、僕はとりあえずそう言って逃げてみた。……どう出る?


「ああ、そういうこと。あんたがこの3日間、何を見たか。何をして過ごしてたか、そのまま話せばそれでいいの。必要な情報はこっちで判断するから」


 1日目、転んだりベッドの角に頭をぶつけてその後は寝込む。2日目、ウサギと戦う。3日目、ウサギを倒す。正直それしかやってない。1日目に関しては、部屋からすら出ていないからね。思い返すとほんとになにもしてないわ。……でも、それをそのまま話すとなんだか怒られそうな気がした。かと言って、他に何も……


「……ひょっとして、サボってたの?」


「いえ、決してそんなことないです!」


 これは開き直って現状を伝えるべきか。これから頑張るって言ったら、初回なら許してもらえる気がする。何でもするし。いけるいける。かと言って1日目はさすがにひどいからそれは隠し通す感じでいこうかな。


「1日目は部屋で準備をして、2日目以降はウサギを狩っていました」


「ウサギ……?」


「はい、ウサギです。100匹倒しました」


「……そう。ん?……それで?」


「レベルが4に上がりました。以上です」


「……そう……」


 なんだかいろいろなものを諦めたような顔で上司(?)は天を仰いだ。いかん、真剣に困らせている。いや、分かるよ。ウサギを倒したって言っても関係ないもんね。そのままこめかみに手を当てながら上司は言葉を続けた。最初よりちょっと元気がなくなってきている気がする。ごめんなさい。





「なんだか頭が痛くなってきたけど。あんたはね、ウサギ狩りのためにここにいるわけじゃないの。頭の悪いあんたはもう忘れてるかもしれないけど、勇者が大勢この街に召喚されたっていうじゃない。その状況を調査するためにあんたはここにいるんだけど。それを覚えておくのは、ちょっと難しすぎたかしら?」


 やばい、僕の評価が早くも超下がってる。ん……?でも、プレイヤーの状況ならある程度は……ほら、掲示板の情報とか、最初の運営のアナウンスとか。ああいうのでいいんじゃないかな。


「というか、最初にあんたが言った『どれから報告したものかと思って』って、何なの!?ウサギ狩り以外何もしてないじゃない!!何と何で迷ってたのよ!!馬鹿にも程があるでしょ!!」


 非常にもっともな意見を叫びながら、上司が自分が座っている椅子のひじかけに拳を振り下ろすと、すごい音を立てて直撃部分が消失した。アルテア様ご乱心。いや、僕のせいなんだけど。隣室にはとりあえず後で謝りに行こう。


「あの、ちなみに勇者は499人です」


「……えっ」


「でも、まだ一番強い集団でも森の奥にいるボスを倒せてません。戦力的にはまだそこまでの脅威は感じないです。レベルも10くらいがいいとこじゃないですかね。スキルも各職業の基礎的なものしかまだ修めていないみたいです」


 僕が半日ウサギ狩りでレベル4だからそんなもんだろう。たぶん。


「……それならいいわ、とりあえずはそれで。そのまま引き続き調べておいて。また時間が空いたら聞きに来るから。あとね、今度からはそういう話を最初に聞かせて。そのあとで暇があれば狩りの話も聞いてあげるから」




 すごく疲れた顔をして上司は立ち上がる。上司。そういえばなんて呼べばいいんだろう。とりあえず様付け安定かな。


「……アルテア様?」


「なに、あらたまって。でもあんたに様付けで呼ばれると、今度はどんなミスをしてそれを隠してるのかが心配で仕方ないからやめて」


「……アルテアさん?」


「そう。あと、さっきからその疑問形はなに?……まあいいわ、じゃあそろそろ帰るから」


 あんたは弱っちいんだからせいぜい無理しないで頑張りなさい、と最後に言い残してアルテアさんは姿を消した。部下の様子を自分で見に来るあたり、できた人だと思う。最後のセリフ的に心配して見に来てくれたっぽいし。僕は上司には恵まれてるかも。……あと、ゲームのもともとの設定で、僕にあてられたキャラである、スパイの「サロナ」はうっかりでちょっとボケてるって設定だったっぽいね。なんとなくそんな反応だったし、だから許されたところもあるかも。そんなキャラがスパイに任命される魔王軍の層の薄さに不安を禁じ得ないけど、これから僕がその評価を覆すべく暗躍せねばなるまい。



 



 ……そして、後には壊れた椅子だけが残された。とりあえずは、宿と隣人に謝罪からかな。……そして、まだ、僕の中でプレイヤーと魔王軍、どちらに味方するのかが決まらなかった。今のところどっちもいい人そうだし。それでも、きっと決めなければいけないことだろう。……そう遠くないうちに。

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