スパイ、上司の訪問を受ける
とりあえずウサギが脅威でなくなったので、いったん街に戻ろうか。自力で魔物を倒せるようになった、というのは大きな進歩だよね。もう何も怖くない。
そのまま悠々と歩いて街に歩き出した僕の視界に、草の間から黒っぽい影が三つ、低い姿勢で滑るように近づいてくるのが映った。大きな犬だ。ウサギより大きい。速い。しかも群れ。
もう無我夢中で踵を返し、先ほどまで基地にしていた木によいしょよいしょと登り、下をうかがうと、犬はぐるぐる木の周りを回った後、諦めたように来た方向へ戻っていく。
危ねー!なんだあの速度。確かに犬はたまに木の下を歩いてるのを見たんだよ。怖くてスルーしてたんだけど。だってウサギより明らかに強そうなうえに、いつも徒党を組んでるし。無理無理。
……どうしよか。うーん、人任せだけど、街に戻るプレイヤーが通りがかるまで、また待つ? 悩みどころ。
するとちょうどその時、僕あてにメッセージが届いたとシステムから通知があった。……ユウさんから?
「ちょっと話したいことがあるんだけど、少し時間もらえない?……今どこにいるの?」
何だろう。この木の上から動けないので、ここまで話し合いに来てくれるなら大丈夫だけど。でも向こうが用事があるのなら、来てもらってもいい気はする。そのついでに街まで一緒に帰ればいいし。
とりあえず現在地を送信。街と森の間に生えてる木の上にいるここで待つ、と。するとすぐに返信があり。
「なんで木に登ってるのかわからないけど(笑)今、森から出るところだから帰りに拾っていくわ」
しばらくそのまま枝に腰かけて待っていると、ユウさんがヴィートを引き連れて、森の方から歩いてくるのが見え、それに向かって手を振る。僕が木の上で犬をやり過ごしている間に、あの人たちはもう森まで行って帰ってきているらしい。プレイヤーという生き物はたくましい。
そのまま合流し、街まで歩きながら何の用事かを尋ねた。
「その、答えにくい質問かもしれないけど……」
……あれ。これ、やばくない? 突然だけどお前の種族って何? みたいな。もうその質問する時点でわかってるじゃないですか!みたいな。
短い人生(?)だったなあ……。戦国武将みたく辞世の句でも詠むべきか。
「1人でしょ、大丈夫?攻略進められてる?……どうしたの、悟りでも開いたような顔しちゃって」
「いえ、持病がちょっと。気にしないでください」
違った。これは、どうしたんだろう。え、なになに、攻略一緒に進めてくれる感じ? ありがたいけど、向こうにメリットがない話だよね。なんで急に……すると、ヴィートが続ける。
「それが、昨日、ウサギが倒せない女の子がいたって掲示板に書いてあったんだけどさ、どうも特徴が誰かに似てるなって話になって」
その話は今はやめろ、泣くぞ。別にいいやん、別に他の人みたいにすぐに倒せなくってもさー。僕って成長性、きっとあると思うよ? それにその話はもう過去の話。今はもう倒せますー。
「うーん、たぶんそういう人って結構いると思いますよ。ウサギはああ見えて意外に強いですし」
「それがな、ウサギって攻撃をうまく当てないとダメージは与えられないんだけど。動きも早くないし、攻撃力も低くて、経験値も少なめだから、みんなレベル2になればスルーするような魔物なんだよ……やっぱお前か……」
「……それで、やっぱり最初は1人で難しいところもあると思うから、よかったらたまに一緒に狩りに行かない? 同情っていうより、先行投資。こっちがいつか助けてもらうこともあるかもしれないし」
魅力的なお誘いだった。うーん、でも、足を引っ張っちゃうかな……それを承知で誘ってくれてるんだろうけど。
しかしここはお願いしておこう、他のプレイヤーの動きを見るいい機会だし。
……お願いします! と頭を下げると2人は笑顔で答えてくれた。たぶん純粋に心配してくれたんだろう。超いい人。
そのまま、ゲーム内で明日の午前から狩りに行く、という約束をして僕らは街で別れた。うーん、プレイヤーも仲良くするなら悪くないかも。
そして帰りにギルドに寄り、ウサギの素材をカウンターに積み上げて買取りしてもらった。ウサギの素材は思ったより安かったけど、数だけはあったので、鑑定の習得代には足りた。僕はそのままそのお金を使って、スキル「鑑定」を習得する。一緒に行動するなら、戦闘で役に立たないにしても、他にできることをしよう。
そして宿に戻り、ベッドにぽすん、と背中を投げ出す。今日はいろいろ実り多き日だった。天井を見上げながら考える。ちょっと強くなったし。誰かと一緒に狩りっていうのも結構楽しみだったり。早く明日が来ないかな。
そうしてゴロゴロしながらのんびりしていると、自分以外誰もいないはずの部屋なのに、突然声をかけられた。
「ねえ、ちょっと。報告してもらっていい?」
ベッドから起き上がると、部屋の隅にある椅子に座ってこちらを見る、金髪碧眼の女の子の存在に気づく。いつからそこにいたのか分からない。見た目は僕と同じくらいか、少し年上に見える。けれど、ただ椅子に座っているだけなのに、部屋の空気がそこだけ別物みたいだった。
……え、誰? 思わずさっき取得したばかりのスキル「鑑定」を発動する。
〈ステータス〉
名前:アルテア(№7)
種族:魔族
レベル:250
(鑑定不能)
(鑑定不能)
(鑑定不能)
(鑑定不能)
(鑑定不能)
……(№7)だと……。え、なになに。……やっぱり誰? 知らない人。報告?
「何その顔。いくらあんたがポンコツでも、直属の上司の顔ぐらい覚えてるでしょ?」
……覚えていないと素直に言ったら、明日が来ない気がした。
なんとか戦闘も含めて頑張って書いてみようと思います。やっぱり戦わないときの方が書きやすいですけど(笑)




