↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結・番外編更新中】記憶を失くした悪妻侯爵夫人は冷遇していた娘を溺愛する  作者: もも野はち助
【番外編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/77

番外編④:やりたいことリスト

―――――【時間軸】―――――

本編51話の(マリエルが本邸に戻った)直後のお話になります。


 憑依された犬に噛みつかれ、そのせいで三日間ほど高熱を出して寝込んでいたマリエルだったが、すっかり回復し、この日は別邸から本邸への移住作業をおこなっていた。


 現状は本邸への荷物の運び入れを執事のシュルトと数名の男性使用人たちが、荷物の収納はメイドのフェニアとレスリーが手伝ってくれている。

 セアラも手伝っている気分を味わいたいのか、先ほどからマリエルのアクセサリーが入った小さな箱を一つだけ持って、室内と衣装部屋の間をウロウロしている。


 そんな娘の可愛らしい動きを微笑ましく思いながら眺めていたら、ふと踏み机の上に置かれた木箱に目が行く。

 そこには題名が書かれていない立派な装丁の本が三冊入っていた。

 それが身体を奪われる前に毎日かかさず書いていた日記であることに気づく。

 思わず手に取ると、大きな箱を三個も抱えたシュルトが室内に入ってきた。


「奥様、こちらはお隣の衣装部屋にお運びすればよろしいでしょうか?」

「ええ。お願い」

「かしこまりました」


 しかし一礼したシュルトが、隣の衣装部屋に向かうためマリエルの横を通り抜けようとした瞬間、セアラが二人の間にサッと飛び出す。


「シュート、ダメェェェー! おかしゃまに近づかないってシェアラ、さっき言ったでしょ!?」


 マリエルを庇うようにシュルトの前に立ちはだかったセアラが、バッと両手を広げる。


「も、申し訳ございません……お嬢様」

「シュート、めっ! あっちから!」


 父親よりも年上の若き執事に四歳のセアラが両手を腰に当てて威圧する。

 対するシュルトは萎れた花のような状態で遠回りをしながら、衣装部屋へと移動する。

 その後ろを監視するようについていく娘の姿にマリエルは思わず噴き出しかけた。


 つい先ほどシュルトがマリエルに意地悪をしていたと認識してしまったセアラは、マリエルだけでなく自分への接近禁止令をこの執事に発動していた。

 しかし母を守ることに集中しすぎて、自らシュルトに近づいてしまっている。


 そんな行動からシュルトは、セアラに懐かれているとマリエルは感じている。

 そうでなければ、セアラはあんなにも後をつけたりはしない。

 恐らく今の娘は、シュルトにはお姉さんぶりたいという衝動に駆られるのだろう。


 そんな背伸びをしている娘の可愛らしさに口元をほころばせたマリエルは、再び先ほどの日記に目を落とす。

 パラパラとページをめくると、まだクラージュ家で平穏に過ごしていた日々が書かれており、その時の懐かしい記憶がよみがえってきた。

 同時に今は家族と絶縁状態になっていることに胸が痛んだ。


 そんな思いを振り切ろうと最後に書かれたページを確認すると、そこにはサイラスと初対面を控え、浮かれ気味な心境が赤裸々に書かれていた。

 その内容にマリエルが眉間に皺を寄せる。


「これは……早急にこっそり処分したほうがいいかもしれないわ……」

「なにをこっそり処分するつもりなんだ?」


 いつの間にか室内に入ってきた夫に声をかけられたマリエルは、ビクリと肩を震わせ慌てて日記を閉じた。

 すると、その反動で挟まっていた四つ折りの紙がヒラリと夫の足元に舞い落ちる。

 その瞬間、マリエルはその紙になにが書かれているのか思い出す。


「なにか落ちたぞ?」

「そ、それは――」


 慌てて拾おうとしたが先に夫に拾われてしまい、マリエルは固まった。

 そんな妻の反応を不思議に思いながらも、サイラスは拾った紙に目を落とす。


「書き損じの手紙か? 裏にも何か書いてあるな」

「よ、読まないでください!」


 勢いよく夫から手紙を奪おうとしたマリエルだが、華麗に躱されてしまう。

 しばらくピョンピョンと夫の手から紙を奪おうと奮闘したマリエルだったが、身長が頭一つ分も高いサイラスには歯が立たない。

 そんな夫の表情は、明らかに自分をからかうことを楽しんでいるという様子だ。

 小さく唸りながら睨みつけるマリエルを尻目にサイラスは、拾った書き損じの手紙の裏面を確認する。


「一緒にやりたいことリスト?」

「ち、違うのです! これはその、サイラス様とはじめてお顔合わせをした頃に書いたもので……婚約者としてどのような交流をすれば円滑な関係が築けるかと考えていたもので――」

「当時の君が興味や関心があった事柄ばかりのように見えるが?」

「そ、それは……」

「特にこの『孤児院の視察』や『有名スイーツ店巡り』などは、どう見ても君の好きなことじゃないのか?」

「うう……」


 マリエルが観念するようにうなだれると、上から順に目を通していたサイラスの視線の動きがある箇所でピタリと止まる。


「君は乗馬が好きなのか?」

「ええと……その、幼少期に兄と一緒に習った際にその楽しさを知りまして……」


 バツが悪そうにマリエルがゴニョゴニョと答えると、サイラスが少し考え込むような仕草をする。

 まるで品定めをされているような感覚に陥ったマリエルは、小さく縮こまった。

 すると、なにかを思い立ったかのようにサイラスが顔を上げ、ジッとマリエルを見つめる。


「今度一緒に遠乗りに行くか?」

「えっ?」

「乗馬が好きなのだろう?」

「は、はい。ですが……サイラス様はお忙しいのでは?」

「現状はシュルトが戻ってきたことで、かなり仕事が片づいている。それに今後は君が領内の豊穣の祈りをおこなう際、馬車よりも馬で移動した方が速い。そのついでに君も乗馬が楽しめるのなら、そのほうがメリットが多いんじゃないのか?」


 効率重視のサイラスらしい提案だが、マリエルはあることが引っ掛かってしまう。

『やりたいことリスト』に書かれている『一緒に乗馬』は、あくまでも互いにその趣味が合えばという前提で考えたものなのだ。


「あ、あの……サイラス様も乗馬がお好きなのですか?」

「好きか嫌いかはわからないが、教養の一環として嗜んではいるので付き合うのは可能だ。それに馬に乗っている時の爽快感は好ましく感じる」

「そう……なのですね」


 なにやら煮え切らない反応をした妻にサイラスが怪訝そうな表情を向けた。


「何か言いたげだな」

「その、サイラス様は身体を動かす趣味は、お好きではないと思っていたので……」

「もしかして君は、私が身体を動かすことが苦手だと思っていたのか?」

「はい……」

「一応、私は侯爵家の生まれだ。たとえ苦手でも人並み以上にはできるように指導を受けている」

「実際は?」

「すぐにできるようになってしまい、あまり興味を抱けなかった……」


 夫の言葉にマリエルが何も言えず口を閉ざす。

 どうやら天才肌の人間には、何事も全力で楽しめないという呪いが発動するらしい。

 何度も落馬しかけ、やっと乗馬を習得した喜びを感じられる凡人のマリエルには、到底理解できない虚無感である。

 思わず憐憫の眼差しを夫に向けると、なにかを察したのか苦笑される。


「まぁ、その時は貴族の一般教養として習っただけなので、楽しさなど感じられなかったのは仕方のないことだろう。だが、君と一緒に遠乗りとなれば、また話は違ってくる」

「どういうことでしょうか?」

「君は負けず嫌いな性格だから私がけしかければ、必ず勝負に乗ってくる。ただ馬に乗るだけではなく、勝負となれば私もかなり楽しめる」


 そう言ってニヤリとした笑みを浮かべた夫から、明らかに挑発されていることをマリエルは感じとる。


「どうやらサイラス様は、かなり乗馬には自信をお持ちのようですね? ですが私は兄よりも馬の扱いに長けております」

「そうだろうな。勝気な性格の君なら乗馬を習っている時、確実に義兄上殿と張り合っていたことが容易に想像できる。だが、世の中には上がいるということを知っておいた方がいいと思うが?」


 完全に煽ってきたサイラスにマリエルも引き下がるわけにはいかなくなる。


「そこまでおっしゃるのであれば勝負いたしましょう!」

「望むところだ。だが、ただ競い合うだけでは面白くないな。もし負けた場合、勝ったほうの言うことを一つ聞くというルールにしたら面白いんじゃないか?」


 その申し出にマリエルは、一瞬で冷静になる。

 夫は明らかに勝負に勝ち、男性経験がほぼないマリエルにとって恥ずかしくなるような無理難題をふっかけて更にからかおうと企んでいる。

 素直にこの勝負を受けるのは危険だとマリエルの本能は警告していた。


 しかしマリエルの勝気な性格が逃げることを許さない。

 そもそも乗馬に関しては、絶大な自信がある。

 そう簡単には負けないと自負したマリエルは、その勝負を受けることにする。


「わかりました。私が負けた場合、サイラス様のご希望を一つ聞き入れます。ですが、私が勝った場合は同じくサイラス様にも一つ、私の願いを聞いてもらいます!」

「いいだろう。では君の体調が完全に回復し、うちの馬房で君と相性のいい馬が見つかったら勝負といこう」

「負けませんよ、私」

「それは私もだ」


 マリエルが夫とバチバチに火花を散らしていると、いつの間にかこちらの部屋に戻ってきたセアラにクイクイとワンピースの裾を引っ張られる。


「おかしゃま、負けるってなぁに?」

「えっ!? セアラ!?」

「今度お父様とお母様は、お馬さんに乗って競争をするんだよ」

「サイラス様ぁ!?」


 さらりと娘を立会人として巻き込みはじめた夫にマリエルが素っ頓狂な声を上げる。

 対してセアラは瞳をキラキラさせて、母親に尊敬の眼差しを向けはじめた。


「お馬しゃん! おかしゃま、お馬しゃん乗れるの!?」

「え、ええ……」

「しゅごい! おとしゃま、おかしゃましゅごいの!」

「そうだねー。それでお父様と競争して勝ったら、お母様はもっと凄くなるね」

「おかしゃま、おとしゃまよりお馬しゃん乗るの上手なの!?」

「そうみたいだよ」

「おとしゃま、前にお馬しゃんの大会で一番になったことあるのに!?」

「ええっ!?」


 娘から提供されたとんでもない情報にマリエルの顔色が一瞬で変わる。

 改めて夫に視線を向けると、罠にかかった獲物を見るような素敵な笑みを返してきた。


「昨年、友人に頼まれて王家主催の乗馬大会に出場したんだ。その時は運よく優勝した」

「なっ……!」

「おとしゃま、お馬しゃん乗るの、すごく上手なのー」

「そ、そんな話、聞いてないです!」

「聞かれなかったから言う必要もないと思った」

「サイラス様、卑怯です!」

「だが君も乗馬には自信があるのだろう? 勝負に勝てば問題ないはずだ」

「うぐぅ……」


 どうやら先ほどマリエルが本能的に感じた危機感は合っていたらしい。

 夫は確実に勝てると思ったから、勝負をふっかけてきたのだ。

 その策略にまんまとのってしまったマリエルが悔しさで小さく唸る。

 すると、セアラが励ますようにギュッと手を握ってきた。


「大丈夫よ! シェアラ、おかしゃまのこと、いっぱい応援するから!」

「セアラ……」

「おや? お父様のことは応援してくれないのかい?」

「おとしゃま、お馬しゃん乗るの上手だからシェアラの応援いらないのー」

「うっ……」


 無自覚に自分の負けを予想する娘にマリエルは、ガックリと肩を落とす。

 そんな妻の反応を楽しむようにサイラスが気休めにもならない言葉を口にした。


「まぁ、勝負なんてなにが起こるかわからないからな。互いに全力を尽くそう」

「サイラス様は……本当にずるいと思います……」


 一週間後、屋敷から一番近い牧場で二人が勝負をおこなったところ、サイラスの圧勝という結果に終わる。

 そんな夫がマリエルに出した要望は意外なことに『一緒にやりたいことリストを全てやりきる』というものだった。


 一見、マリエルが奪われた五年間をねぎらっているように見えたその要望。

 しかし、そこはしっかりと妻をからかう目的が隠されていた。


 なぜならリストを消化する際に発生する費用は、すべてサイラスが決めるという条件をつけてきたのだ。

 憑依されていた五年間におこなった浪費行動で、自分に対する出費に過敏になってしまうマリエルにとっては、かなりの痛手である。


 そんな涙目になった妻の反応を楽しみながら、サイラスは娘のセアラと共に豪華版の『一緒にやりたいことリスト』を全て消化してくれた。

番外編の更新がかなり不定期で申し訳ありません!

実は新作の執筆を開始してしまい、こちらの番外編は同時進行で執筆している為、のろのろ更新となっております。

かなり不定期更新になりますが、一応あと三話ほど更新する予定なので気長にお待ちいただけると助かります。

どうぞよろしくお願いいたします。<(_ _)>


もも野はち助

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★作者の書籍化作品のご案内 ★
↓画像クリックでアルファポリスの作品紹介ページに飛びます。
4lpngbg31v639xxb1d4c3i11a969_1cxm_f4_m8_ky2w.png
瞬殺された断罪劇の後、殿下、
あなたを希望します


  ISBN:9784434361166
 発行日:2025年7月25日
 お値段:定価1,430円(10%税込)
 出版社:アルファポリス
レーベル:レジーナブックス

★鈍感スパダリ王子✕表情が乏しい令嬢のジレジレ展開ラブコメ作品です★

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。