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クラスの氷姫と偽の恋人になったけど、最後には本物になりたい ―利用されたはずの恋は、すれ違いの果てにもう一度やり直す―  作者: ルキノア


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元カレの影

午後の授業が終わる頃、教室の空気はどこか緩んでいた。

黒板の文字を書き写しながら、俺は小さく肩を回す。

窓の外では風が吹いていて、校庭の木が揺れている。


ふと視線を上げる。

窓際の席。

雪城凪は静かにノートを取っていた。

いつも通り、落ち着いた表情。


……のはずだった。


「……?」


よく見ると、少し様子が違う。

ペンを動かす手が、時々止まる。

視線が窓の外に向く。


それを何度か繰り返していた。

何か気にしているみたいだった。


その時、チャイムが鳴る。


「はい、今日はここまで」


先生の声と同時に、教室の空気が一気に軽くなる。


「終わったー」


「帰るか」


椅子が引かれる音があちこちで鳴った。

俺もノートを閉じて鞄に入れる。


「朝日奈」


後ろから声がした。

振り返ると、相沢蓮が立っている。


「今日まっすぐ帰る?」


「うん」


「俺も途中まで一緒に行くわ」


「おう!」


そんな会話をしながら立ち上がる。

その時だった。


教室の前の方で、女子たちが小声で話している。


「ねえ」


「来てるらしいよ」


「また?」


「校門のとこ」


断片的な声が聞こえる。

蓮も気付いたらしい。


「何の話?」


「さあ」


俺は鞄を肩にかける。

すると、視界の端で凪が立ち上がった。

女子の友達が心配そうに話しかけている。


「凪、大丈夫?」


「……うん」


凪は小さく頷いた。

でも表情は、少し硬い。


それから窓の外をちらっと見る。

校門の方向。

その視線を見て、なんとなく分かった。


……さっきの話。


多分、あれだ。


「どうしたんだろ」


蓮がつぶやく。

俺は答えなかった。

凪は少しだけ迷うように立っていた。


それから意を決したように、鞄を持つ。

教室を出ていった。

女子の友達が小さくため息をつく。


「また来てるんだ」


「え、あの人?」


「うん」


蓮が小声で言う。


「……元彼か?」


どうやら合っていたらしい。

女子の一人が言う。


「他校の人なんだけどさ」


「たまに校門で待ってるんだよね」


「凪、すごい嫌がってるのに」


蓮が眉をひそめる。


「それって普通に迷惑じゃね」


「でもさ」


女子が少し困った顔をする。


「見た目は普通なんだよ」


「普通?」


「うん、別に怖そうじゃないし」


確かにそうなのかもしれない。

でも。

さっきの凪の顔は――

明らかに困っていた。


「……」


俺は少しだけ窓の外を見る。

校門の方。

ここからはよく見えない。

でも、そこにいるんだろう。


雪城凪の元彼。

そして今。

凪はそこへ向かっている。


「……」


別に、俺には関係ない。

そう思う。

ただ同じクラスの女子。

それだけ。


なのに――


なぜか、少しだけ気になってしまう。

俺はもう一度校門の方を見た。

遠くに、人影が見えた気がした。


校舎を出ると、夕方の空気が少しひんやりしていた。

帰る生徒たちが、門の方へ向かって歩いている。

俺と蓮もその流れに混ざっていた。


「今日なんか人多くね?」


蓮が言う。


「そんなもんじゃない?」


「いや、あれだろ」


蓮は顎で前の方を指した。


「雪城の元彼」


校門の方に、少し人だかりができていた。

とはいっても大騒ぎしているわけじゃない。

通り過ぎる生徒たちが、ちらっと見ているだけ。


その中心に――二人いた。


雪城凪。


そして、その前に立つ男子。

制服はうちの学校のものじゃない。

背は高くて、少し髪が長い。

ぱっと見た感じは、別に怖そうでもない。

むしろ落ち着いている。


でも。


凪の表情は、硬かった。

俺たちが近づくと、会話が少し聞こえてきた。


「なんで無視すんの?」


男子の声は、意外と穏やかだった。

怒鳴っているわけじゃない。

でも、どこか圧がある。

凪は視線を少し下げていた。


「無視してない」


「してるじゃん」


男子は笑う。


「LINEも返信ないし」


「……」


「俺、そんな嫌われることした?」


その言い方は、優しそうに聞こえる。

でも。

凪の肩が、わずかに固くなる。


「……もう終わったでしょ」


凪は静かに言った。


「付き合ってない」


「でもさ」


男子は首を傾ける。


「急すぎじゃない?」


「……」


「俺、まだ納得してないんだけど」


「そもそもお試しだっただけでしょ」

「しつこいのよ」


周りの生徒が少しずつ距離を取っている。

巻き込まれたくない空気だ。

俺も本来なら、そのまま通り過ぎるはずだった。


……でも。


凪の表情が、気になった。

困っている。

それがはっきり分かる顔だった。

俺は一瞬だけ迷う。


それから――


そのまま歩いて、二人の横を通り過ぎた。

凪の隣を。

そして、自然な声で言う。


「雪城」


凪が顔を上げた。

少し驚いたような顔。


「帰るんだろ」


そう言って、そのまま門の方へ歩く。

凪は一瞬だけ戸惑った。

でもすぐ、状況を理解したみたいだった。


「……うん」


小さく答えて、俺達の後ろを歩く。


その瞬間。

後ろから声がした。


「ちょっと待って」


振り返る。

元彼の男子がこっちを見ていた。

さっきまでの笑顔のまま。

でも、目だけが少し細くなっている。


「君さ」


男子は俺を見る。


「凪の友達?」


俺は少し考える。

それから答える。


「同じクラス」


男子は「へえ」と言った。


それから、ゆっくり凪を見る。


「仲良いんだ?」


凪は何も答えない。

男子はまた俺を見る。


「……もしかして」


ほんの少しだけ笑う。


「彼氏?」


周りの空気が少し止まる。

俺は首を振った。


「違う」


「ふーん」


蓮が口を挟む。


「俺の友達に突っかかるなよ」

「別の学校の校門まで来て道塞いでんなよ」


男子は少しだけ考える。

それから肩をすくめた。


「まあいいや」


軽い口調だった。

でも最後に、凪を見る。


「またね凪」


それだけ言って、歩いていく。


しばらく、誰も何も言わなかった。


「……」


凪は下を向いている。

俺は軽く息を吐いた。


「大丈夫?」


そう聞く。

凪は少しだけ顔を上げた。


「……うん」


でも声は小さい。


「ありがとう」


少し間を置いて、そう言った。


「さっき」


「別に」


俺は肩をすくめる。


「たまたま通っただけ」


凪はしばらく何も言わなかった。

それから小さく言う。


「……優しいんだね」


「ちょっと迷惑そうだったから」


「そうだね」

「ちょっと迷惑してたかも」


凪は少しだけ首を振った。

そして、ほんの少しだけ笑う。


前に見た笑い方と同じだった。

でも、どこか安心したような顔。


そのあと俺たちはそれぞれ帰宅し始めた。

蓮は家が学校から近いのですぐ別れる。


雪城と少し間を空けて歩く。

少し歩いたところで、道が分かれる。


「じゃあ」


俺は言う。


「また明日」


凪は頷いた。


「うん」


俺はそのまま家の方へ歩き出す。

背後の気配が少し遠ざかる。

ふと振り返ると、凪はまだそこに立っていた。


こっちを見ている。

目が合うと、凪は少しだけお辞儀をした。

それから、反対の道を歩き始める。


「……」


雪城凪。

クラスで一番目立つ女子。

俺とは、ほとんど関係のない存在。


……のはずだった。


でも。


今日、少しだけ関わってしまった。

ただそれだけ。

俺はそう思っていた。


その頃。

凪は一人で歩いていた。

さっきのことを思い出す。


朝日奈陽真。


元彼の前で、自然に声をかけてくれた。

無理をしている感じじゃなかった。

ただ当たり前みたいに。


「……」


凪は小さく息を吐く。

それから、少しだけ考える。

もし。

あの人がそばにいたら――


あいつは、近づいてこないかもしれない。

凪はゆっくり歩きながら、静かに決めた。


朝日奈陽真を、少し観察してみよう。

どんな人なのか。


本当に頼れる人なのか。

それを確かめるために。

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