表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第34話「カヌレ・デ・ザムルー」

第34話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!


グレた名門貴族の三男は、魔法の廃れた世界で、大魔導士の魔法の力をこっそり使い、世界を救う 第122話「影の守護者、カヌレを焼く」

と合わせてお楽しみください。

ヴァルノクスとの会談から1か月ほど過ぎたある日。

王都アイーズは、いつも通りの穏やかな朝を迎えていた。


――はずなのだが。


「マサヴェイ様、聞きました? 最近、王都に“カヌレ専門店”ができたらしいですよ~!」

シスモが朝からテンション高く、僕の部屋に飛び込んできた。

「カヌレ専門店……?」

「そうです! アユナちゃんも“すっごく美味しいらしいのよ!”って言ってました!」

アユナが……?

それは気になる。

すると、ちょうどそのタイミングで扉がノックされる。

「マサヴェイ王子、失礼します」

アユナが顔を出した。

淡い桃色のワンピースに、春色のリボン。

今日も可愛い。

「マサヴェイ王子。あの……もしよければ、一緒に行きませんか?

その……カヌレ専門店……」

少し頬を赤らめながら言うアユナ。

僕の心臓が跳ねた。

「い、行くよ。もちろん」

「やったぁ……!」

アユナが嬉しそうに微笑む。

その横でシスモが満面の笑みで頷いていた。

「では、決まりですね~!」

こうして僕たちは、王都で噂のカヌレ専門店へ向かうことになった。


・・・・・・・・・・


王都アイーズの中心街。

石畳の通りには、朝から人が多い。

「すごい……本当に行列だ……」

店の前には、すでに二十人ほどの列ができていた。


店の看板には、可愛らしいカヌレのイラスト。

「“カヌレ・デ・ザムルー”……名前まで可愛いな」

「マサヴェイ君、甘いもの好きだもんね~」

シスモがにこにこしている。

「ち、違うよ。甘いものは普通だよ。普通」

「ふふっ、マサヴェイ王子、耳が赤いです」

アユナがくすっと笑う。

……なんだこの幸せ空間。


列に並んでいると、店の中から忙しそうに動く店員の姿が見えた。

――その瞬間、僕は目を疑った。

(……え?)


黒髪を高く結い、白いエプロンをつけ、

信じられないほど手際よくカヌレを焼き、箱詰めしている女性。


あれは――

「リュシアンナ……?」

ヴァルノクス家長の一人、

忍びと情報収集の達人、リュシアンナ・ネレアーク・ヴァルノクス。

その彼女が、

なぜかカヌレ専門店で店員をしていた。


「マサヴェイ王子、どうしたの?」

アユナが首をかしげる。

「い、いや……なんでも……」

(なんでいるんだよ……!)

すると、リュシアンナがこちらに気づいた。

目が合った瞬間、彼女の表情が一瞬だけ固まる。

だが――

「い、いらっしゃいませぇぇぇ……!」

声が裏返った。

アユナが不思議そうに首をかしげる。

「この店員さん……なんだか緊張してる?」

「そ、そうですね~。新人さんでしょうか~?」

シスモが笑顔で言う。

(いや、絶対違う……!)

リュシアンナは明らかに動揺していた。

僕の方を見ないようにしながら、ぎこちなく接客を続けている。


そして僕たちの番が来た。

「い、いらっしゃいませ……! カ、カヌレはいかが……」

声が震えている。

(カヌレしか売ってないだろうが……)

アユナが微笑む。

「おすすめはどれですか?」

「えっ……あっ……えっと……!」

リュシアンナは完全にパニックだった。

普段の冷静沈着な姿はどこへ行ったのか。

「こ、こちらの“焦がしバターのカヌレ”が……その……とても……」

「とても?」

「とても……とても……!」

「とても……?」

「とても……美味しいです……!」

最後の方はほぼ泣きそうだった。

(リュシアンナ……忍びのプロなのに……)

アユナが首をかしげる。

「なんだか……この店員さん、マサヴェイ王子のこと見てません?」

「えっ!? そ、そんなこと……!」

リュシアンナが裏返った声で否定する。

「マサヴェイ君、知り合い?」

シスモがにやにやしている。

「ち、違うよ! 全然知らない!」

「そ、そうです! 全然知りません!」

リュシアンナも全力で乗ってくる。

(いや、乗るなよ……!)

アユナがさらに不思議そうに言う。

「でも……なんだか息ぴったりじゃないですか?」

「「ち、ちがいます!!!」」

僕とリュシアンナの声が重なった。


店内の空気が一瞬止まる。


アユナがぽかんとした。

「……仲良し?」

「「違う!!!」」

また重なった。

リュシアンナは顔を真っ赤にして、

カヌレの箱を震える手で差し出した。

「こ、こちら……本日のおすすめを……全部……!」

「全部!?」

アユナが驚く。

「ぜ、全部……買ってください……!」

「えっ……?」

「お願いします……! このままだと……私が……!」

リュシアンナの目が必死だった。

忍びのプロが、カヌレの店で追い詰められている。

(……買うしかないじゃないか)

「じゃ、じゃあ……全部ください」

「ありがとうございますぅぅぅ……!」

リュシアンナは涙目でレジを打ち、

山のようなカヌレを袋に詰めてくれた。

アユナが笑顔で言う。

「すごい……! こんなに買うなんて、マサヴェイ王子、カヌレ大好きなんですね!」

「ち、違うよ……!」

「殿下、甘党だったのですね~♡」

シスモがにやにや。

(違う……違うんだ……!)

店を出ると、リュシアンナが店の奥から

こっそり忍びのように手を振っていた。

(……絶対あとで説明してもらうからな)

僕は山ほどのカヌレを抱えながら、

アユナとシスモと一緒に帰路についた。


――王都アイーズに、

“秘密の拠点”が増えたらしい。

そしてその拠点は、

なぜかカヌレの甘い香りに包まれていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

・ブックマーク

・下の評価で5つ星

よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ