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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
最終部.そして、未来は──
119/119

BADEND

 117話です。

 いつか、死神としてユイが足を運んでいた廃墟。その一角で、コツコツと足音が鳴り響く。


「──誰?」


 微かに生活感の感じられる空間の中、魔人(・・)のそんな声が、空気を震わせる。


 狐面を被った、ボロボロの外套を纏った()。靴音を鳴らせながら、一歩踏み込んだ彼は、覗く金色の瞳を光らせて、ゆっくりとその口を開ける。


「忠告だ、魔人(イヨ)さん。…このままじゃ、アンタの目的は不完全なまま達成されることになる」


「──っ、どういうつもりかしら」


 傍から見れば、明らかに怪しい者同士。ただ、この場においてわかることがあるならば。それは、男側が明らかに多くの情報を、そして何かしらの確信(・・)を持っていることに他ならなくて。そもそも、一部を除き、終ぞ誰にも伝えることすらなかったこの場所に辿り着けているという事実そのものが、警戒心を高めるには十分であって。

 一瞬言葉を詰まらせた彼女は、同じ瞳を持つ男へと鋭い眼光を向ける。


「ちょっとした『提案』をしようと思っただけさ。…そう、アンタ達の願いを叶えながら──俺達(・・)が、ハッピーエンドを迎える為の、な」


 ゆっくりと、言葉と共に面を外す男。

 差し込んだ光が、その顔を照らし出した、その瞬間。魔人(イヨ)はその目を見開いた。



ーーー



 朦朧とした意識の中、全身を包んでいく、温かな癒しの感覚。駆け付けた恋人(ミリン)により、なんとかその一命を取り留めたコウスケは、抱き抱えられた状態で尚、眼前の景色を追いかける。


「──っ、ユウ、さん…」


 ──なんで、と。続けようとした言葉は、空気に溶けて霧散する。

 ぼやけた輪郭が、友の姿を映し出そうとして。ただ、その金色の瞳が捉えるのは、魔力…そして、()の流れと残滓そのもの。かつてないほどに膨れ上がり、そして、衝突し合うその光景は、明らかに健全であるはずなどなくて。手を伸ばそうとした刹那、爆発音と共に、己の体が浮かび上がる。


「ミリン…?」


 呟くように名を呼んで、自身を抱える彼女を見る。

 ──悲しくて。悔しくて。そして、何もできないという、この無力感。彼女の表情が、その瞳に反射した戦いの光景が、肩を並べたはずの己自身へ、深く突き刺さる。



『──向こうで待ってる家族(・・)と、どうか悔いがないように』



 いつか、かつての後輩が話してくれた、背中を押したはずの言葉。ただ、伸ばした掌の先には、虚構以外の何ものも無くて。


 ──刹那、原型を留めていた魔王城が、音を立てて崩れ落ちた。



ーーー



 崩れ去った魔王城(決戦の場)を飛び出して、縦横無尽に動き回っては、周囲一帯を吹き飛ばす2つの影。

 互いの権能を打ち消し合い、泥沼のようにもつれ込んだ神同士の戦い。──それは、神話で語られたような華やかさなど無く、ただ純粋な殴り合いであって。

 名の無き森を、山脈を、大海すらも飛び越えて、滑り落ちた大地に、その火花が飛び散り咲く。



「何故だ…ッ!?こんなこと、あっていいはずg──」



 ──ゴキり、と。

 魔神(皇帝)が言い終えるより早く、その顎に突き刺さるユウの拳。

 恋人であるイヨの肉体で、そして己自身がそのものであるにも関わらず。容赦なく浴びた連撃に、皇帝の心は叫び声を上げる。


 ──何かの間違いだ。と。


 娘の体を乗っ取り、擬似的な転生を繰り返してきた皇帝。彼女にとっては当たり前で、そしてそれは当然の行為であった、にも関わらず。全身を走る鈍い痛みが、本能が、そんな考えを否定する。


「─何故!?──何故っ!?」


 防御の間に合わなぬ拳が、蹴りが、次々と刺さっては、神であるはずの肉体が、悲鳴をあげる。


 彼女にとって理解不能な、自身の番となるべき(竜神)の行動。無論、過去に籠絡した男達の中には、当然のように逆上しした者はいた。が、しかし、それはただ、逆上しただけの話であって。それぞれが愛するこの肉体を、そしてそのものとなった皇帝(自分)を傷付ける者など、終ぞいなかった──はずなのに。全身を走る痛みが、現実を主張する。


「小僧貴様──ッ!それでも恋人k──」


 幾度目かの、言い終えるよりも早い、己を殴打する拳。

 吹き飛んだ肉体が地面を荒野に変え、そしてゆっくりと、(竜神)は地へと舞い降りる。


「貴様が、俺の恋人…?笑わせるな──イヨをッ!アイツのことをッ!これ以上汚すんじゃねぇッ!」


 美しい声で。それでいて、かつてないほどに粗雑な言葉で。魔神(皇帝)の胸倉を掴み上げては、声を荒げる竜神(ユウ)

 同等の力を持ち、拮抗するように見えた戦場は、最早その結果を見せたも同然で。反撃しようとした手足すらへし折られ、魔神(イヨ)の肉体が、再び地面に転がる。


「恋人の肉体(からだ)だから反撃されない?殺されない?…情に訴えかけるのもいい加減にしろ、皇帝。──貴様が乗っ取った地点で、イヨ(アイツ)はもう、そこ(・・)にはいないッ!」


 ポツリ、と。絶叫の傍ら、落ちた雫が荒野を濡らす。


 ──愛故に。


 皇帝にとっては、盾とすべき、そしてその程度だったはずの想い(こころ)

 だからこそ、近づく竜神(ユウ)想い(こころ)を、行動を、理解することなどできなくて。完全に受肉した肉体(イヨの体)で、不様に藻掻こうと試みる。


 一歩、彼が近づいて、荒野に芽が生える。


 (ユウ)とて、もちろん本望ではなくて。しかし、魂の欠片すら、微塵感じぬその姿を、他人が騙ることも許せなくて。己の中で、記憶で、ずっと自分を想い続けてくれた、彼女の魂を抱き締めて、地に伏した魔神(ソレ)へ、意識を向け直す。




「消えなさい。紛い物の神風情が」




ーーー



 断末魔すらなく、ただ消えて行く魔神(皇帝)だったイヨの肉体。

 上空から、その結末を見届けたコウスケとミリンは、草原へと変わり果てた地へ足を踏み入れると、崩れ落ちた(竜神)の元へと駆け寄る。


「ユウさんっ!」

「ユウ!」


 戦いが終わり、彼等の頬を撫でる温かな風。

 先程まで、激戦を繰り広げた彼を抱き上げて、名を呼んだコウスケが、その視線を合わせる。


「ミリン!」

「わかってる!──でも…!」


 竜神(ユウ)の身体を包み込む、ミリンの癒しの権能。彼らとて、既にこの状態が、この現象がどういうものかは気付いているはずで。だからこそ、必死な形相で、真っ向から否定しようと試みるわけでいて。


「ふふ…大袈裟です、よ…コースケさんも、ミリン…も」


 まるで、憑き物が晴れたように。いつも通りの笑みで、口調で、2人そう返すユウ。

 ただ、明らかに違う点があるとするならば。本来、彼を構成していた力──即ち、存在そのものが、その輪郭を暈しはじめていて。儚げに笑う彼は、ゆっくりと伸ばした手を、抱き抱えられた手へと添える。


「──直に、私の肉体と魂は消滅します。…予定とは違いましたが、コレもまた、新しい結末…なんでしょうね」


 どういうことだよ、と。コウスケの口に出そうとした声が、喉元を通り霧散する。

 友として、そして神へと至った彼の言葉のその意味。言外に、世界が崩壊を免れた、と。その確信とは裏腹に。否定したい現実を前にして、2人は激しく首を振る。


「ふふ…こうして別れを惜しむ友がいる。私は幸せものですね」


 足掻いていた甲斐があった、と。()はひとり呟いて、雲一つない空を見上げる。



 ──最初に目にしたのは、果たしていつであったか。何度も、何度も滅びを繰り返し、(イヨ)と共にやり直してきた、遠い未来(・・)の記憶。

 その度に親しい者を亡くし、或いは殺さなければならかった、そんな呪縛の先で。ひっそりと消えるはずだった己を、看取ってくれる者がいる、と。



 この上なく残酷で、そして独り善がりな走馬灯。



 ただ、やり残したことがあるとするならば。



「アネモネには…いえ、彼女達には、謝っておいてください。()が愛して、()が殺した、彼女達全員に。あとは──」







 ──この世界をお願いします。コースケさん。





 音となって出たか、はたまた彼等の幻聴か。

 ただ無造作に、コウスケの掌に乗る、冷たく硬い感触と共に。


 懺悔した竜神は、魔神の後を追いかけた。


















































・--・ ・-・・ ・- -・-- / -・・・ ・- -・-・ -・-












































「これが私のケジメよ」



 呟くようなイヨの声。振り下ろされた塩の剣が、魔王身体を貫き、消える。

 断末魔すら、終ぞあげさせることも無く。出来上がった塩の柱。そんな魔王だったもの(・・・・・・・)を前に、イヨの剣が、手から滑り落ちる。




「…終わった、のよね」




 呟いた安堵の声が、自らの鼓膜を震わせる。十年の因縁を断ち切って、これで、ようやくユウと笑い合える日がやってくる、と。

 塩の柱に映る、母の面影を映す姿を前にイヨは──





「きゃ──」





 鈍い痛みと共に、視界がぐらりと反転する。


「──イヨッ!」


 ふわり、と。名を呼ぶ声と共に、自らを包み込む2つの手。

 ユウに抱き抱えられた、と。安堵を浮かべ、その胸に身体を委ねようとして。固まった彼と、その友人の目の先へ、自らの視線をゆっくりと移す。



「何よ、アレ…」



 ポツリと漏れた声が、魔王城に響き渡る。


 あのままいたら、自らを包んでていたであろう、無数の手。塩柱の中から這い出た(・・・・・・・)それは、ローブを纏った、見覚えしかない(・・・・・・・)()を拘束し、その中へと消えて行く。


魔人(・・)さんが助けて…?いや、でもこれは──」


 明らかにヤバい、と。呟くコウスケの声が、2人の鼓膜を震わせた刹那。完全に一つとなったソレが、眩い閃光を放って──





「──おっと、そうはさせないぞ」





 3人が身構えるよりも先に、新たに割り込んできた人影──否、狐面を被ったボロボロのローブの男。

 光が止んだ、その後。彼の背中越しに、視線を光源へと、戻し始めた3人(コウスケ達)は、その中央に佇む()に、目を見開いて。


「──ふむ。流石は我の器だ。…やはり、この身体はよく馴染…む?」


 虚空を震わせた、イヨと全く同じ声。

 ソレを発した()と、イヨの視線が交差した、その瞬間。間に立った狐面の男が、画面越しの口をゆっくりと開け、一歩前へと、歩み立つ。



「悪いが、お前の計画は止めさせてもらうぞ、魔神──いや、皇帝」



 低く響き渡るのは、聞き馴染んだ(・・・・・・)男の声。包まれた静寂は、その信頼故か、はたまた有り得ない(・・・・・)と、彼らの脳が理解を拒んだ故か。そんな中で、毛色の違う反応を示す者が、ただ一人。

 皇帝と呼ばれた、イヨと同じ顔をした女。自らの拳を握り締め、頭を掻き毟った彼女は、そんな狐面を睨みつけると、その牙を剥いて、荒げた声を絞り出す。


「魔神となり、神へと至ったこの我を止める、だと?誰向かって物を言いおって──ッ!」


 尊大に、しかし苛立ちを隠せない、皇帝のその態度。その姿は、最早語るに落ちたのも同然であって。

 対峙した()は、そっと己の仮面に手をかけて。開いた口と共に、狐面(ソレ)を大きく投げ捨てる。




「俺達は『キャンセラー』。歴史を──そう、この救いようの無い未来を……創り替える(・・・・・)者だ」




 宙に浮く魔王城、圧倒的なまでの存在感を放つ、その中央で。

 コウスケの網膜に映った、同じ顔をした男(・・・・・・・)は。自らを、そう名乗りあげた。

※巻き戻る前の時間軸は「109話:束の間の平和(https://ncode.syosetu.com/n2124fr/111/)」に続きます。


■魔王ルイン

・本作のメイン悪役。元々はヒト族であり、イヨに殺される直前では、コウスケの右腕、ユウの左腕を移植したキメラのような状態であった。また、冒険者としてカズヤ(=スカーレット・ドラゴン)やユア(=ユウ達の母親)、ガウラの姉とパーティを組んでいた。

・ユアに恋慕を抱いており、結婚したカズヤ地点でカズヤを的認定→逆恨みの果てに、自らの体内に魔核を生み出すことに成功、魔人へと至った。(尚、ユア視点からはただの顔見知り程度)

・カズヤへの憎悪を皇帝に利用され、その誘導に乗っかって彼女にイヨを孕ませることとなる。(皇帝の目的は前話のあとがきにて説明済、ルインがただ考え無しなだけ)

・その後は完全に皇帝の傀儡状態であり、ユアとカズヤ、そして力(竜人)への執着以外に自分の意思など無い。尚、冒険者時代にそれを危惧したユア自身によって、肉体を含む接触ができぬよう魂へ呪いをかけられた為、四天王や傀儡とした魔物を操ることで動くしかなかった。


■竜人と魔人(未来から来た2人)

・キャンセラーというパーティ名を名乗る、未来から来たユウとイヨその人。

・戦闘能力は高いが、過去に過干渉できないため、自らの存在が消えること(=滅びが起こらない世界の完成)を目指して暗躍、コウスケを世界に呼ぶこととなった。

・彼等の存在は確定された滅びであると同義であり、その可能性が少しでも残っている場合では、現在(彼等視点の過去)で、基本消滅することはない。消滅する際の例外として、過去の自分への接触・認知されることがあげられる。

・尚、竜人(ユウ)は自身と接触した際、肉体が消滅するよりも先に、その力と記憶のすべてをユウ(過去の自分)へと移した為、己自身を意図せぬ形で神へ至る肉体として(新たな可能性を生)作り変えてしまった(み出すことに成功した)


☆ー★ー☆ー★


 最終戦ということで、いつも通りの搦手を使うよりは、純粋な拳で殴り合わざるを得ない状況が好き。本作のラスボスなんてぽっと出もいいところだし、絵面的に惨殺される(ユウ視点の)ヒロインもメインストーリー内で登場が全然無いから、できるだけ感情移入しづらいようにしたつもり。


 というか、なんで私は現行作品で続け様に主人公の恋人を殺してるんだ…?私は3作ともラブコメのつもりで書いてるのに。

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