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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第6部.早乙女幸助
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閑話:残されたモノたち

 少しだけ筆が乗ったので本日3話目の更新になります。

 更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

 早乙女先輩が世界を去ってから数日。

 ()早乙女邸を訪れた俺は、先輩が使っていた部屋の中へと足を踏み入れる。


「…これはもう、必要無いよな」


 名越惜しくもあるが、次々と消えて行く彼が生きていた証の数々。

 向こうの家族や友人と、憂いなく過ごせるように。その全ての未練を、俺が断ち切ってあげられるように。


 最後に残った、机に置かれたノートを手にとって、俺は言い聞かせるように1人呟く。


 思えばずっと、こんな予感はしていたのだ。それこそ、13年ぶりに帰ってきた彼が、この世界に降り立ったその瞬間から。白紙のままのノートに記された(・・・・)、見たこともない文字と図形の羅列が、そんな俺の予感を証明していく。

 …ここではない、恐らく超常的な力蔓延るであろう別の世界。物語のような存在だが、それはきっと、確かにそこに存在(・・)していて。彼の帰るべき人は、きっとそこに存在している。


「…大丈夫ですよ、先輩。俺達は、俺達として最期まで生き抜いてやりますから」


 綺麗になった部屋をあとにして、自宅へ向かって歩み出す。


 先輩は、俺達にとって大切な人で。家族のようなもので。それは今でも──否、未来永劫変わることはなくて。

 別れを告げた彼に向き合うよう、一歩一歩大切に踏み締める。



『やぁこんにちは』



 自宅に戻るや否や、玄関先に現れた、赤みがかった長い茶髪の女。

 紅い瞳を光らせた彼女は、何処か申しなさげに視線を向けると、抱き抱えていた5歳ほどの女児の頭をそっと撫であげる。


「孤児院の利用、だよな。待っていたよ」

『──!』


 驚いたように一瞬固まって、すぐさま納得したように頷く彼女。

 両手を差し出した俺に、彼女はそっと女児を引き渡すと、名残惜しそうにその頭を撫でて、ポツリと言葉を続けていく。


『この娘の名前はアザミ。訳あって残された、私の弟の忘れ形見なの。…今は少しだけ、力を使いすぎて寝てしまっているけれど──』

「あぁ、わかってるよ。…先輩、早乙女幸助の為、だろ?五十嵐結衣(・・・・・)さん」

『──そう、そこまでわかっていたのね』


 困ったように眉を潜め、女児─アザミから手を離す女─結衣ユイ

 眠るアザミに笑みを浮かべた彼女は、ゆっくりと一歩後ろへ下がると、どうかこの娘をよろしくお願いします、とこちらに頭を下げる。


「任せてくれ、ユイさん。この娘をきっと幸せになれるよう、ちゃんと育て上げてみせる。だから──」



 ──過去の俺()と、向こうの先輩をよろしく頼む。



 俺の一言に頷いて、空気に溶けるように姿を消したユイ。

 どことなく満足げだった彼女の表情を最後に、俺は抱き抱えた息子似(・・・)の女児へと視線を落とす。


「ハジメー、さっきお客様が──ってあれ?」

「…あぁ、彼女ならもう帰ったよ」

「うっそー!?せっかくお茶の用意ができたのに…」


 がっくりと肩を落として、戯けた様子で色違いの双方をこちらに向けるカスミ。

 孤児院としての玄関から出てきた彼女は、ひと通り周囲を見渡すと、腕の中のアザミを目に留めて、俺の顔と交互に一瞥する。


「…まさか隠し子?」

「違う」

「なんだ…あまりに似てたから、てっきりまたハジメが襲われてたのかと」

「…お前は俺をなんだと思ってるんだ」


 我ながら説得力の無い声を漏らして、近づいてきた彼女にアザミの頭を撫でさせる。

 ほんの少しだけ、笑みを零した彼女は、アザミの顔を改めてマジマジと見つめると、腰に方手を当ててビシッと天に人差し指を掲げ上げる。


「そっくりだけど、やっぱりコウちゃん(・・・・・)が一番だわ!」

「ははっ…カスミらしいな」


 どちらともなく笑いあって、一緒に我が家の中へと帰っていく(・・・・・)



 この新しい家族が将来、我が息子幸太郎(コウちゃん)の嫁として名実ともに我が娘となるのだが、それはまだ知らぬ未来のお話。



ーーー



 ハジメと別れ、約束を果たしに『過去』へとやってきたユイ。

 異世界とは違い、正真正銘時間を逆行した彼女は、ハジメの夢へとコンタクトを取り終えると、次の分岐点(・・・)へとその身を飛ばし顕現する。


『…流石に、ここまで()を使うと疲れるわね』


 彼女の目に映るのは、いつかコウスケを転移させたあの公園。等価交換(・・・・)としてアザミと共にこの世界に顕現してから、実に1年半ほど後の時間帯である。


『結局、ここが私達の分岐点であるということね』


 あちらの世界に送ったコウスケも、こちらに残された私達も。2つの世界が再び重なり合った、運命の分岐点。

 しばらくその場に立ち尽くして、彼女は周囲に集まる魔力をゆっくりと観察する。


「はじめ、なんか飲むか?」


 ふと、ユイの耳に届いた聞き覚えのある男の声。忘れることなど無く、かつてユイ達の世界を滅ぼす一端をになった因縁とも呼ぶべき声。


「ん…なんでもいい」

「了解した」


 視界の端でそれを捉え、財布を片手に道路を越えようとする男へ、彼女の足はゆっくりと動き出す。


 周囲に集約し始める、不自然なまでの魔力の渦。

 男が自販機前に辿り着いた瞬間、横に止まっていた軽自動車が、渦に引かれて急発進する。


「…ッ!吉田ッ!」


 飛び散る硬貨の音と共に響く、この時間にいる従姉弟(ハジメ)の声。

 跳ねられる直前、男を無理矢理押し倒したユイは、魔力が霧散するのを確認すると、その胸をゆっくりと撫で下ろす。


『…流石に、これくらいは拾ってあげましょうか』


 鱗を黒い手袋に擬態した手で、周囲の硬貨を拾い集める。


 ──歴史上の、事実の改変。

 本来送られたはずの魂をこの世に留めることが、2つの世界にどのような影響をもたらすのか。神の半身とも呼べる彼女自身も、その影響についてはわかっていない。

 …ただ、これがきっと、自分が生まれ育った世界に、そして愛する弟達に、良い影響を与えられることを信じて。


 立ち上がって、目前で頭を下げる男のその手に、拾い集めた硬貨を手渡す。


 これで、ここにいる自分の役割は終わったのだ、と。

 言い聞かせるように頷いて、目前に立つハジメへとその視線を向ける。


「…ッ!?」


 過去の俺達──これはつまり、この男とのことだったのだろう。

 ならきっと、未来は少しだけ良くなっているような気がして。

 少しだけ口を開けて、未来(・・)の自分のために、言葉を残しておく。


『また会いましょう、遠くない未来で』


 ほのかに笑みを浮かべ、空気に溶けるように彼らの横を通り過ぎる。


 まだ知らぬ彼らの未来と、そしてここに遺した姪の幸せを願って。

 一歩踏み出したユイは、母の生まれ育ったこの世界から永遠に旅立つのだった。

 以上、現実世界に残ったハジメとユイのエピソードでした。


 ここで少し補足というか裏設定を。

・現実世界に戻ったコウスケが最初に出会った女(=レナ)は、改変の影響でそのエピソードを夢と思い込み、その後そこそこ売れる小説の題材としてコウスケ達の異世界物語を書き記すことになります。

・現実世界に度々出てきた『吉田夫妻』の片割れは今話でユイに押し倒された男(=カイト)です。この件によって、「エボラに召喚されたカイト」と「そのまま現実世界に留まったカイト」が2つの世界にまたがって存在し、各々がその世界で人生を歩むことになります。

 何処かで差し込むかも考えたのですが、するタイミングが見当たらないのでここで消化を。

 

 物語自体はもう少しだけ続きますので、是非お付き合いいただけましたら幸いです。

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