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魔女と王様  作者: 新条れいら
ロイヤ編
67/117

67.後宮(2)

 陽は傾いてはいるものの、まだ室内でも明かりを必要とはしない。


 さすがに帰国初日から、陽が暮れるまで仕事をするのははばかられ、早々に切り上げた。自分が休めば、他の者達も休みやすい。ジルドに遠征に出ていた者に休むように伝言をさせて、早々に執務室を出た。


 レアの採寸が終われば風呂に入れて、部屋で休ませるように、女官には言っておいた。


 ソファで眠りこけているレアを見下ろして、自分の判断の正しさに苦笑する。


「モモ」


 呼びかけに、相手はすぐに答えた。


「お前も今日は休んでいい。今後は日中のレアの護衛に当たれ」


 短い肯定の言葉を残して、気配は消えた。そのうち交代の忍びが来るのだろうが、今は誰の気配もない。


 眠っているレアの頬にかかる髪が、微かに光を帯びている。


 そっと隣に腰を下ろし、その様子をじっと見つめる。いつからか、こうして彼女の髪が光を帯びるのを、平然と受け入れている自分をおかしく思った。


 意識しなければ分からないほど、微かな光の残滓を残して消えていく。長い睫が震えて、ゆっくりと瑠璃色の瞳が目を覚ました。


「眠っていたぞ」


 頬にかかる髪に触れながら、カイザックはゆっくりと目覚めていく少女を見下ろしていた。


「…うん。たくさんの人に会ったから…」


 まだぼんやりした様子で、ゆっくりと起き上がるレアは目を擦った。意識してかどうかは分からないが、レアは人に会う度にあの空に糸を引いているのだろう。神に向かって手を伸ばすように。


「お前と同じ『糸を引く者』はいたのか?」


 カイザックの問いに、レアは寝ぼけていた瞳を瞬かせた。どうして知っているのだろうと首を傾げるレアの様子に、マリーノ軍医ホルスに聞いたと教える。


「って、ザッカで聞いたってこと? カイザック、その段階で良くこんな話を信じたねぇ」


 感心したような呆れた様な様子で、そんな事を言うレアの腰を引き寄せる。


「同じ力を持った奴がいた方が、お前の負担が減るんだろう? これだけ人間がいるんだから、一人ぐらいヒットしそうなものだが?」


「今はカイザックがいるし、お守りもあるし、心配いらないよ。…強弱は別にしたら、何人かいるね。まだ他にもいるなぁって感じるけど、まだ会ってないかな。師匠程じゃないけど、結構強い人が一人いるよ。苦悩してるのが分かるぐらい、強い…」


 そう言って虚空を見つめるレアの瞳が揺らぐ。


「急がねば死にそうなのか? そいつは」


「…そんな事はないけど」


 カイザックの直球な物言いにレアは呆れて、視線を戻す。


「ならば慌てる必要はないだろう。三か月も仕事をしながらの長旅だったんだ。少し休もう」


 抱き寄せられた体温に安堵して、レアは息を吐きだした。確かに長い旅での疲れはあった。痛みを伴うでもない疲労感に、レアは再び瞼の重くなるのを感じていた。


「カイザック…、お腹すいた」


「用意が出来たら起こして…来たみたいだな」


 ちょうど扉をノックする音がカイザックの耳に届く。夕食を運んで来たフレア達が、ソファの二人に気付いて、声をかけようと口を開く。カイザックは口に指を立てた。


「何が来たぁ?」


 寝ぼけた声を上げて少女が腕の中で、身じろぐ。眠気がピークなのかなかなか瞼の上がらないレアを腕に抱いたまま、カイザックは笑った。


「寝こけるなよ、レア。お前の母親から、食事は食べさせろって言われてるんだ」


「んん~っ」


「あ、こら。寝るな」


「…だって、太陽の匂いがするから…」


「太陽の匂いがするなら、目を覚ませ」


「…」


 心地良さそうな寝息を立て始めたレアを見下ろして、カイザックはこのまま寝かせてやった方が良いかと一瞬躊躇して、レアの母マリアの顔が脳裏に浮かんだ。


「レア、このまま起きないなら、皆の前で口づけをするぞ」


「…起きたっ!」


 反射的に身をよじったレアだったが、寝起きの体が簡単に反応してくれるはずもなく、バランスを崩して床に転げ落ちてしまう。


「何やってるんだ」


 受け止め損ねたカイザックがその腕を引き上げた。どこかを打ったのか、レアは低く呻いて顔を押えていた。


「人前では恥ずかしいって言ってるのに」


 額をさするレアを引き起こして立たせ、その額にキスをする。痛みがふわりと消えた。


「人前でなかったら良いのか?」


「そんなこと、言ってな…」


 引き寄せられて、されるがままになっていたレアは、そこで初めて自分達を無言で見つめているリリアン達女官に気付いた。テーブルの上に用意された食事に気付いて、彼女達のいる意味を納得しつつも、自分の体温が一気に上がっていくのを感じていた。


「人前じゃないっ!」


 身をよじって抱擁から逃げ出そうとするレアを、カイザックは面白そうに抱きしめた。


「後宮では女官は空気なんだ。気にするな」


「気にするよ! 名前知ってるのに、空気とか思えないよっ!」


「空気と思えなきゃ、やってけないぞ。…オレも未だに慣れん」


「慣れてないんじゃん~っ」


「オレは元来、庶民派だ」


「…なんでも一人でやっちゃうもんね」


 力で敵うはずもなく、レアは諦めてため息を吐きだした。食事を指さす。


「ご飯、食べようよ。お腹すいたよ」




 眠れずに身を起こす。


 窓から差し込む月明かりに気付き、何気なく空を見上げた。


 天の頂上で輝く月は、夜の闇に道を指し示すように、優しく照らし出す。その光が、己の苦悩の道行きすら指し示してくれるのならば、どれほど良いだろうと、自嘲気味な笑みが浮かんだ。


 何気なく、腕を月へ伸ばす。伸ばしたその手に、ふわりと何かが触れた。


「―――…」


 男は目を見開いた。


 耳に微かに囁く音の様な声。


 月明かりの光を集めて、姿を形取ったそれは、男の伸ばした手に幼い指を絡め、その双眸を細めた。


 美しい少女。


 その表が微かに微笑んで、微かな光と共に掻き消えた。


 指に触れた感覚と、早鐘を打つ胸の鼓動だけが残る。


「…な、なんだ…」


 しばらく虚空を見つめて呆然としていた男は、力なく投げ出されたままの自分の手を見下ろす。ゆっくりと拳を作る。


 胸に在った重いしこりが、なぜか軽くなっていた。


たぶん、咳のし過ぎで、肋骨を疲労骨折しました(自己診断)。

レントゲン撮っても、ほぼほぼ映らんみたいだし、治療はコルセットに痛み止めぐらいしかないんで、

病院に行かず…。

三週間で痛みが治まって、一か月半で完治らしいんで…。

片肺潰れても、もう一個あるから、呼吸困難になってからでも間に合う(命が)。


なんて余裕ぶっこいてるけど、笑うのも怒るのも、物持つのも痛い。

体なんぞ捻れない。


看護学生一回目の受け持ち患者さんが、肋骨骨折だったな。

最初は痛がってたけど、週が終わるころには元気にしてた。

そのサイクルを信じる。

こんなリスクがあるとか、色々アセスメントしたが、んなもん、早々起こってたまるかいっ!

自己治癒力、フラボー!!!!!(狂気)


叫んでみたところで、痛いだけ。

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