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0009 対クラン




 「ん?なんだ」



 森の中で一人の男が見つけたのは、地面にまっすぐ突き立ったナイフだった。



 「こちらアルファ、不審なものを発見、調査する、オーバー」



 「こちらボス、気を付けなよ、オーバー」



 男は端末をしまい、周囲の警戒を怠ることなくナイフに近づく。



 「ブービートラップの類ではないようだな。ということは」



 男は周囲の障害物になりそうなものを探す。しかしここは森の中、草むらや木の陰などいくらでもある。

 男は緊急回避のモーションで草むらへと転がり込む。次の瞬間、離れたところからの銃声が聞こえる。



 「やはり狙撃地点だったか。危なかった」



 男は伏せの姿勢から中腰に移行し、草むらからゆっくりと顔をだす。



 「私こう思うんです。一番殺りやすいのは……安全を確認して安心しきった人間ほど殺りやすい状態はないって」



 草むらから顔をだした男を迎えたのは、間違いなく美少女だった。



 ただしその瞳は怪しく光り輝き、口はいびつにゆがんでいた。



 「くそが!」



 男は素早く腰からナイフを抜きその勢いのまま振りぬく。しかし、そんな狙いもしていない攻撃はクロハにかすりもしない。

 クロハは余裕をもって避けた後、男の腕をとる。攻撃後の無防備な体制の男は簡単に関節を決められてしまう。



 「クロハさん、大丈夫ですか?」



 「アオイさん、大丈夫ですよ。ナイフを回収してきてもらえませんか?」



 「わかりました。……その人、どうするんですか?」



 「殺すよりも生かしておいたほうがいいでしょう」



 器用にも片手で男の動きを止めたまま、拘束用のアイテムを使用する。



 「端末は私が預かっておきますね」



 アオイが男のポケットから端末を取り出し、自分のポケットに入れる。



 「ではいきましょうか、アオイさん」



 「はい」



 「待てよ!おい、待ってくれ!」



 悲痛な男の叫び声は、森の喧噪に寂しく消えていった。







 「ボス!デルタとの連絡が途絶えました!」



 「アルファに続いてデルタまで……。よし、全員早急に戻ってきて。ここで迎え撃つ」



 「けどボス、それだと発見が」



 「倒された順番からしてこっちに来てるのは間違いないと見ていいでしょ。それよりも問題はどうやって交渉するのかかな」



 「拡声器でよびかけたらどうですか?」



 「じゃあ君、よろしく」



 「えっ?俺ですか?」



 「たしかこのクランは腕のいい狙撃手がいたはず。そんな敵に対して私の居場所をこっちから教えるメリットはないわ」



 「それって俺が身代わりになれってことですか?」



 「おいおいロー、お前良い役回されてんじゃねえか」



 「そうだぜ、ボスの身代わりなんてうらやましいぜ」



 「なんだよ二人とも、そんなにあこがれてるなら譲ってやるよ」



 「「断る」」







 「急に遭遇しづらくなりましたね」



 「確かに様子がおかしいです。もしかすると各個撃破されるのを恐れて一か所にまとまっているのかもしれません」



 「それならそこら一帯を爆発物で」



 「アオイさん、リーダーさんとデリクさんがいることを忘れてませんか?」



 「あっ……やだなぁ、忘れるわけないじゃないですかーあはははは」



 「はあ、戦闘に夢中になるのはいいですが、目的を忘れないようにしてください」



 「す、すみません。っといましたね」



 アオイは単眼鏡代わりのスコープで敵の位置を確かめる。



 「アオイさん、リーダーさん達はどこに」



 「えっと、中央左ですね。デリクさんの頭だけですが見えます。そこを中心に円を描くように敵がいます」



 「だとすると先に救出は無理ですね。敵を倒す術を考えましょうか」



 「そうですね……いや、もしかしたら先に救出できるかもしれません」







 「リーダー、どうだ?」



 「まだ半分だ」



 「まじか……おい」



 「なんだ?」



 デリクは無言でリーダーの胸のあたりを見つめる。その視線につられてリーダーが目を向けると、そこには小さな円形の光が当たっていた。



 「これは……あいつらか?」



 「みたいだな」



 リーダーはそう答えてから光の出どころを探る。ほどなくして二人の姿を目視した。



 「これは……モールス信号か?」



 「まてまて俺は知らないぜ?リーダーは知ってるか?」



 「うろ覚えだが……なんとか」



 「わかった。奴らの気を引いとくから解読してくれ」



 「頼む」



 デリクは当たりを見回す。そして先ほどから指示を出している女アバターのプレイヤーに視線を定める。



 「へへへ、アンタらも運がないな」



 「なんだお前!ボスにそんな口をききやがって」



 横にいた男がデリクに殴りかかろうとするが、その腕をボスと呼ばれる女が止める。



 「暇だし話聞いてあげる。なんで運がないの?」



 「そりゃ簡単だ。寄りにもよってうちの対人のエキスパートを相手にするとはな」



 「はは、確かにそうかもしれないけど果たしてうちのメンバー複数相手に今まで通りできるのかな?」



 「わかってないのはそっちだぜクランの姫さん。俺らは4人クランだ。つまり対人のエキスパート以外にもう1人いる。あんたらはこっちのほうを警戒すべきだぜ」



 「まさか狙撃の腕が良いって人が」



 「いや、多分お前さんが言っているのは俺の隣にいるやつのことだぜ?」



 「おいおいデリク、それ言っちゃうのかよ」



 リーダーがつい横から口をはさんでしまう。



 「そうだ、だから別に狙撃を警戒しなくてもいいんだぜ?」



 「……!まさか」



 女は少し考えたあとにはっとしてデリクのほうを見る。



 「そうだ、お前らは狙撃以外も警戒しなきゃいけないのさ。これまで以上にな」



 「ボス!だめですよそんな奴の言葉を真に受けちゃ!」



 「いや、でも確かに最近新しいメンバーが入ったっという情報はあった。てっきりゲームも新人だと思ってたけど」



 デリクは静かに、にやりと口角をあげる。






 「うまくいきました」



 「アオイさん、モールス信号なんかつかえたんですね」



 「まあ小さいころに一度覚えただけなので正確に伝わったかどうか……」



 「いえ、見てください。ちゃんと動いてくれてます。じゃあ行ってきますね」



 「はい、よろしくお願いします。私も配置についておきますね」



 アオイはそういって発煙筒を時間差発動するようにして地面にしかける。

 二人の影は再び森の中へと消えた。







 「なんだあれは!」



 「煙?もしかして火事か?どうしますかボス」



 「一人偵察に送って、通信はつないだままで。ほかは持ち場を離れないで」



 「では僕が行ってきます」



 一人の少年が手を挙げる。



 「デルタか。じゃあおねがいね」



 「はい、まかされました!」



 少年は意気揚々と森の中へと入っていく。



 「こちらデルタ。特に異常なし。どうやら煙の発生源は発煙筒のような人工物の模様」



 「わかった。もう戻ってきていいよ、通信をきるから急いで戻ってきて」



 「了解です!」



 女はため息を吐く。



 「じゃあロー、勧告をお願い」



 「りょーかい」



 男が拡声器アイテムを実体化させる。



 「クラン白百合のメンバーに告ぐ。二人を解放してほしくば両手を挙げて出てこい。秘密の場所さえ教えてくれればキルはしない。もう一度言う。両手を挙げて出てこい」



 帰ってきたのは森の静寂だけだった。


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