リリーローズ
大変お久しぶりです。感想を頂きありがとうございました!すみません!
扉がコンコンコンとノックされた。
見つめ合っていた私とギルちゃんがギクっと、扉に目を向け、固まる。
王子が返事をする前に、サッと扉を開かれ、「失礼致します」と、丁寧に一礼し室内に入ってきたティモシーは、光輝くように見えた。
白にも銀にも光る、朝露をまとった美しい花を大きな花束として抱えている彼の顔はいつもどおり無表情だ。
扉近くから涙を浮かべた、と言うかボロ泣きの私をさっと一瞥し、ティムは姿勢正しく速歩きで王子に近寄る。
そして、ティムはおもむろに懐に手を入れ、ピシッとアイロンのかかったハンカチをビシッと、主君である王子に差し出した。
眼光強くティムに睨まれた王子はハッとしたように慌ててハンカチを受け取り、私の目に当てる。
「あ!」と涙を拭かれた私も、慌ててギルちゃんの手からハンカチを受け取り、顔を拭く。
「・・・・・・・・」
室内に沈黙が落ちる。
(ティモシー様がなんでここにいるのか、そして婚約者以外の男性と二人きりで部屋に閉じこもる時点で、これは不貞の現場なのでは!)
ハンカチを顔に押し当てたまま、顔を上げられない私。
今度は自分の近くにティムが寄った気配がする。
何を言われるのか、ビクッとする。
「トゥーリア嬢」
いつも通り感情の読めないティムに話しかけられ、恐る恐る顔からハンカチを外し、声の方を向くと、ティムがなぜか膝を付き下を向いている。
花束を私に差し出して。
「ティモシー様?あの、これは?そしてあの、殿下とは特に何もないので、誤解されませんよう」
しどろもどろと言い訳をしようとすると、ティムも下を向きながら話し始めた。
「トゥーリア嬢、私は殿下に忠誠を誓っております。殿下の想い人である貴方をも、お守りする所存です。このリリーローズをどうかお受け取りください」
「・・・・・・・・・・・・・」
再び室内に沈黙が落ちる。
どういうこと!?私、全く話しが見えないんですが!?
※※※
話しは少し遡る。
「まあ大変。ティモシー様がいらっしゃいましたわ」
固まるセシリオを無視して、アルティエが、お通しして、と侍女に伝え、しばらくしてティムが部屋に現れる。
リリーローズと呼ばれる銀白色の、百合に似た花弁の薔薇の大きな花束を抱えている。
ティムは無表情ではあるが、若干眉間を寄せている。
幼なじみのエルには、(あ、ちょっと困ってる)とわかるが、他人には機嫌が悪そうに見えるかもしれない。
少し考えたのか、エルに視線をやる。エルが近寄ると、花束を抱えさせられ、リリーローズの甘い芳香に包まれる。
「リリーだね。もしかして?」
コクッとティムが頷く。エルに抱えさせた花束から数本を抜き出し、ポケットから取り出した細紐で器用に花束を作る。
その小さな花束をアルティエに差し出した。
「先触れもなしに突然の訪問をお許しください。トゥーリア嬢に先触れを出したところ、アディンセル家にいらっしゃるとのことでしたので、朝露が乾く前にと思い、失礼ながらお伺い致しました」
小さな花束を受け取り、アルティエは頬を染める。
「わたくしにまで頂けるなんて・・・。お兄様と共に殿下の側近でいらっしゃるのですから、お気になさらず」
目を伏せ、花の香りを楽しむ少女。
(この顔は普通に喜んでて年齢相応だな、可愛い)
とエルは考える。
この百合のような薔薇は、リリーローズ。リリアリムに献上するために、遠い昔、レスター伯爵家が開発した薔薇だ。育てるのが難しく、栽培はほぼレスター伯爵家が専有している。
レスター伯爵家は騎士でありながら、優秀なガーデナーでもある。植物を育てるのは、グラッド侯爵家を支えるための、根気強さの秘訣だとかなんとかだそう。
そして、リリーローズは市場には出回ることがほぼなく、リリーローズの入手は王家からの褒美や下賜などが多く、一種のステイタスにもなっている。
「トゥーリア嬢はどちらに?」
ティムの質問に、セシリオが苦り切った顔で答える。
「ギルと話をしている。二人きりだが、誤解を招くことはない・・・はず、だ、が」
と語尾が小さい。
「では、案内をお願いします」
ティムがエルに抱えさせていた花束を再び抱え、案内を待たずにスタスタと部屋を出る。
「セスの部屋だよー」
後ろから、ティムに声をかける。
「ティム!!エル!?」
驚いて、追いかけようとするセシリオの腕を掴み、足止めする。
「いや、悪いことには多分なんないから」
「どういうことだ?」
「調べたんだよ、クラウスの指示で、ラインヘルト男爵家を」
目を見開くセシリオの耳元で、囁く。
「トゥーリアはルケンティヒの皇女。・・・・・・かも?」
「・・・・・・はあぁ!?」
常に落ち着いている兄の、動揺した声にアルティエは首をかしげ、「今日は本当、まあ、珍しい」と呟き、嬉しそうにリリーローズに顔を寄せた。




