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第三王子の婚約者

「次トゥーリアに会う時はティムも一緒だな」


言いながらサロンの部屋に入ると、ギル以外にセシリオ、クラウスもいた。俺とティモシーも部屋に入り第三王子の側近が全員揃った。

セシリオは俺を睨みつけているが、ギルの前なので無言だ。後でトゥーリアに近づくなと説教だろう。

ギルは俺の言葉に無反応だった。聞こえているはずだが。

ただ表情が固く重苦しい。


「皆に話がある。・・・・・・俺の婚約相手が決まった」


ギルの話に側近達が集中する。第三王子の結婚は政治的なパワーバランスがあり、他国からの婚約話が合ってものらりくらりと躱していた。

それがやっと決まったらしい。


「俺の婚約者は・・・・・」

続くギルの言葉に側近達は息を呑んだ。



※※※


第三王子殿下の婚約者がローデナム公爵家のユーフィミア姫に内定したらしいと王都に噂話が広まった。

ユーフィミア姫は身分的、年齢的にも申し分がなく、他国との縁組は今までも十分に行い友好関係を築いている為、現在の宰相家であるローデナム公爵家との繋がりの強化を国王が望んだらしい。


私はその話しを弟のルルーディンのマナーレッスンを兼ねたアディンセル伯爵家の茶会で、従妹のアルティエから知ることになった。


(そっかぁ。ユーちゃんが婚約者に・・・。やっぱりゲームと現実は違うんだなあ)


私はそう驚くことはなく、ギル王子とユーフィミア姫との婚約の話しを受け入れた。

ゲームの中ではトゥーリアがギルちゃんと友情エンドになったからと言って、ユーフィミア姫がギルちゃんの婚約者になることはなかった。

ゲームの進行と現実は違うということか。


「そして、私も婚約者が決まりましたの」

考えこんでいたときに、アルティエが言った言葉のほうがびっくりした。

「え!?どなたと?」

「クラウス公子とですわ」

ふふっとアルティエが得意気に笑う。

「公爵家と・・・。おめでとうございます」

めっちゃ玉の輿だね!


「お兄様のおかげで、私にも栄誉が訪れましたわ。公爵家と縁続きになれるとは!持つべきは優秀な親族ですわね。もちろん私の容姿も選ばれるに値したとは思いますが」

「ティエ。もう少し言いようがあるのではないかしら?」

そう、例えば謙遜とか?

アルティエは天使めいた容貌とは裏腹に上昇志向が強いのだ。まだ11歳でありながら貴族らしく流行の話題は自分よりも詳しい。


「でも公爵家に嫁がれては、このように気軽に会うこともできなくなりますね。寂しいわ・・・」

公爵家と男爵家は身分差がありすぎる。例え従妹でもお付き合いは遠くなるだろう。

「まあ!トゥーリアったら。大丈夫よ?」

優しく笑ってアルティエが言う。


「あなたも爵位のある方と結婚すれば問題なくてよ?」


そっちかい!?

ここは私達の友情は爵位など関係ないよ!って言うとこでしょー。

さすがアルティエ。ブレない。


「ティー?こんやくしゃってなあに?」

黙ってお菓子をかじっていた弟のルルーディンがアルティエに尋ねる。

「結婚する約束を交わした人ですよ」

「けっこんってなあに?」

「結婚は・・・一緒に暮らして仲良しになることかしら?」

「ならぼく、ティーとけっこんする!」

あらあらとアルティエがルルーディンの頭を撫でる。


ルル、おねえしゃまと結婚するって言ってくれないの・・・?


「ルー?あなたと結婚はできないわ。もうクラウス公子と婚約が決まったの。それにルーは爵位がないんだから、伯爵家の娘である私とは身分の差を考えなさい?」

優しくルルーディンに語りかけるアルティエ。

内容はとっても鬼畜だよね!

ルルーディンも私も涙目だよ!


涙を目に溜めたルルーディン。金色に近い琥珀色の目はそのままだが、生まれた頃のきれいな赤毛はお父様のように赤みのある茶髪に落ち着いた。顔立ちは小さなお父様という感じでとってもかわいい!

アルティエも弟のように可愛がり、ルルーディンもアルティエに懐いている。


「しゃくい・・・」

「ルーもおじ様のように立派な大人になって、男爵位を持てるように頑張りなさいね」

「ぼくがしゃくいになれば、ティーはけっこんしてくれる?」

「愛人なら考えてあげるわ」

アルティエ、君の将来が不安だよ・・・。


「まあ、冗談ですよ」

ふふっと笑ったアルティエ。

「大事な従兄妹ですもの。仲良く致しましょう?おじ様の商家の力があれば公爵家とのお付き合いも問題ないですわ」

「そ、そうかしら〜」

もう打算しか考えられないよ!ティエ!

私達、本当に仲良しだよね!?


アディンセル伯爵家での茶会はルルーディンの泣き声でお開きとなった・・・。


※※※


話は遡る。


「ギルの婚約を守る為に仮の婚約者を立てる必要がありますね」

第三王子の話しを聞き、セシリオが呟いた。

「この婚約を公表はできない。ただいつまでもギルの婚約者を空位にしておくわけにもいかない。他国の縁組の申し入れを躱し続けられないでしょう」


然るべき家柄の女性を仮の婚約者に。ただしその女性はギルと婚約破棄となるので、破棄されたあと良縁を結ぶことができるかどうかが懸念だ。


「では姉上をギルの婚約者として立てましょう。宰相家の長女です。誰も異議は唱えない」

クラウスが言った。


「ユーフィミアか。彼女を犠牲にしてしまう」

顔をしかめるギル。

「構いません。姉上は公爵令嬢です。王族の盾となることを栄誉と感じるでしょう」

可愛らしい顔に酷薄な笑みを浮かべるクラウス。

無害そうな振りをしているが宰相の息子だけあって、中身はえげつないよな、とサミュエルは考える。


「ご心配なさらずとも婚約破棄後は、姉上は私の妻に致しますので」


楽しそうに言い切ったクラウスに部屋にいた皆は、そっちか!それが狙いか!と内心で突っ込みを入れた。

クラウスとユーフィミアは実の姉弟ではなく、従兄妹だ。ローデナム公爵の妹夫婦の子がユーフィミアだ。ユーフィミアが赤子の頃に両親が亡くなり公爵家に養女として引き取られたのだ。

クラウスは義姉のユーフィミアに懸想している。その事実はギルや側近達ぐらいしか知らないだろうが。


(姉弟として育って姉を好きになるなんて、クラウスは狂ってる)

と、サミュエルはこっそり考えている。


「王族の婚姻は従兄弟同士は認められていないはずですが」

静かにティモシーがクラウスに問いかける。

クラウスの母は王妹であり、クラウスは王族の一員で順位は大変低いが王位継承権をもつ。

「王位継承権を放棄します。それにルケンティヒでは近親婚は咎められませんし」

構いませんよね?とクラウスがギルに問う。

ギルはため息をついた。

「セシリオの提案、クラウスの策で行こう。陛下や宰相も同様に考えているだろう」

ギルは側近を見渡す。

「俺と共にルケンティヒに行ってくれ。かの国を滅ぼすために。礎として」

ギルは側近達に頭を下げた。

「すまない」


第三王子の側近に選ばれたお前は、お前たちは苦難の道を歩むだろう。

サミュエルの父はギルの側近に選ばれた時サミュエルとティモシーに言った。

代々の第三王子は政略の駒として扱われる。その側近は第三王子を守る為に戦い、命を落とすことが多い。


『第三王子殿下を困らせてどうするんです?』

トゥーリアに尋ねられた時は答えられなかった。

(ギルに諦めた顔をしてほしくなかったからだっけ?)

当初の目的は何だったか。

自分の役割を知るようになって段々とギルは諦めた雰囲気を漂わせるようになった。我が儘な振る舞いは鳴りを潜めて。

ギルの代わりにバカな振る舞い、争い事を引き起こすようになってギルを巻き込んだ。

ギルを怒らせて、少し笑わせられた。


「謝るな。俺達は一蓮托生だろ?ギルが嫌がっても付いていくって」

「同意見です」

ティモシーもサミュエルの言葉に続く。

「伯爵家の発展の為にお手伝いします」

セシリオは自分の家の為にとか言っているが、ギルの良き理解者だ。

「協力しますが、姉上に手を出さないでくださいね?」

クラウスは自分の欲望を達成するために、ギルに協力する。元々仲の良い従兄弟だ。


「ありがとう、頼む」

ギルはほっとしたように笑った。


※※※


『俺の婚約者はルケンティヒの王女。陛下が支援しているルケンティヒ第七皇子の姫だ。陛下は婚姻により、ルケンティヒの王族の血をヴァルテの血に塗り替え、かの国を滅ぼすことに決めた』


ルケンティヒの第七皇子を王に付けその姫を次代の王とし、ギルスバートは王配となり子供を産ませる。

その子にはまたヴァルテの息がかかった者を結婚させる。

そして、ゆるりゆるりとルケンティヒをヴァルテリッド国に併合させるのだ。

何百年も争い続けた二国がそれでうまく行くのかと疑問だが陛下の命令だ。


(ルケンティヒの王女)

ギルスバートは王女の姿を脳裏に浮かべようとしてうまくいかず、代わりに浮かんだのはキラキラした緑の目の少女。


(トゥーリアと話がしたいな)


浮かんだ思いを首を振って打ち消した。





クラウス公子が姉上を出されるなら、僕もアルティエを仮の婚約者として出す必要がありますね、とセシリオが言い、クラウス公子の婚約者にアルティエがなりましたよと言う話が入りませんでした。

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