第11章4
お待たせしました
ルシオンに連れられて、ローレライの部屋を訪れた公爵は、目の前に突きつけられた惨状に戸惑っていた。
「こっ……、これは……、どうゆう事だ!?」
「見ての通りです、叔父上」
引き裂かれた夜着の胸元を隠しながら男物の上着がかけられ、甥の腕を掴んで震え涙する妹を傍に寄り添い労わるパーシー殿の姿、床に倒れている息子、そして震え涙ながらも懸命に何度も謝る侍女の姿を目にし、公爵は全ての事を理解し頭を抱えた。
公爵は、過去にも似たような光景を目にした記憶があった……。
「……また……、なのか?……」
項垂れるその姿に同情を禁じ得ないが、今のゼロにはそれを汲み取ってやれる程の余裕は無かった。
今は目の前の……、全ての感情を切り離し、どうしても告げなければならない事情があった。
「叔父上はライサンドが更生したと思われているようですが、取り繕う事が上手くなっただけで性根は6年前のあの事件から全く変わっておりません。私の調べによれば、その後も手を出され、泣き寝入りした者や死に追い込まれた者が何人も……。中には子を成している者もおりますが、捨て置かれたと言う事です」
「!!……子まで成しながらかッ。……何という事か!!」
「この件を知り、叔父上はどのように対処をなさるおつもりですか?」
公爵にゼロがそう問うていると、床に倒れていたライサンドが、頬を抑えてかすかに身じろぎする。
どうやら意識を取り戻したようだ。
「……いっ……ッ」
見上げた視界の中に、公爵の姿を見つけたライサンドは、慌てるように立ち上がるとその腰元に縋り付いた。
「うわぁーっ! ちっ、父上!! アイスラントに殺されるぅ!!」
「……こ……の……ッ」
息子を見据える公爵の表情が、みるみる内に苦痛じみた表情へと変貌をとげる。
無言のまま震えはじめた手で拳を握り締めると、悔しさを押し殺すようにライサンドに向けて公爵は怒号を浴びせた。
「お前は……、どの面下げてそんな事を申しているのか!?」
「ちっ、父上? 父上は息子である私の事が、信じられないのですか!?」
「……この状況で何を信じろと言うのだ。まさか、お前の性根がここまで腐っていたとはな!」
冷ややかな父の言葉にライサンドがゆっくりと周囲を見渡し状況を察知する。
その光景に焦りを感じているのは明白だった。
「騙されないで下さい。これは罠だ! こっ、この女が、部屋に来るようにと私を誘ったんだ。私は被害者だ!!」
「ち……が……っ」
ゼロの胸に震えながらしがみ付き、やっとの事で言葉を口にしている様子のローレライの姿が、皆にどう映っているのか?
誰一人としておそらくライサンド言葉を鵜吞みにする者は居ないと思われた。
「お前は、また見え透いたことをッ!」
「うっ、嘘じゃない!」
息子の言葉にしびれを切らせた公爵が、ワナワナと震える手を振り上げそれを振り下ろそうとした時。
「やめて!!」
ライサンドと公爵の間を遮るように、侍女がわが身を盾にした。
「らっ、ライサンド様はそんな御方ではありません! 本当に優しいお方で……、私にもとても良くしてくださって……。お嬢様には、後でお部屋に来るように言われたと仰ってました。お話しするだけだって……。変な誤解をされたくないから二人だけの秘密だったんです。それなのに、何故こんなことになったの? ライサンド様は、一番大切なのは私だけだって仰ってくださったんです。ですからライサンド様はこんなことは絶対にしてません。ライサンド様の仰る通り、きっとこれはお嬢様の自作自演。 私はライサンド様を信じます!」
「残念だが、それは無い。私はライサンドがサンドラ嬢を襲っている所を目撃している。それにお前も本当は薄々気付いているんじゃないのか? 最初に部屋に入るなり謝罪の言葉を口にしたのは何故だ? 手も震えているぞ」
「ぁ……、ちっ、違うんです、これはッ……」
「こいつの女癖の悪さは、今に始まったことじゃない。それに悪いが、お前のような一介の侍女の手のおえる奴じゃないぞ、ライサンドは子までなした侍女も捨て置いている。奴にとっての侍女の存在は快楽の道具にしか過ぎない」
「そんな……ッ。でも、ライサンド様は……ッ」
「奴が今まで手を出した侍女は私が知っているだけでも7人だ。皆に結婚をほのめかせていたようだが、いまだに誰とも結婚していないのは何故か?」
「!! 嘘……」
そう告げると侍女は泣き崩れ、嗚咽を伴った悲痛な声が室内に響いた。
「……ライサンドの罷免を陛下に進言しよう。今後私の領地内に立ち入る事も禁止する。既にいると言う子とその母親は屋敷に呼び寄せる。母親を正式に私の養女とし、その子供に跡を継がせる。これで許されるだろうか……」
「父上! 話を聞いてください。実は……、本当は私はこの者からサンドラが部屋で待っているからとそそのかされて。私は嵌められたのです!」
「そんな!! それは嘘です! 私からそんな事、絶対に言っていません!! 酷い! 信じてたのに……」
侍女の泣き声が更に響き渡る。
皆、次から次へと繰り出される嘘に、呆れて返って言葉も出なかった。
すると公爵が重い口を開いた。
「これ以上私をがっかりさせてくれるなライサンド。誰が見てもお前の所行は明らかだ」
「父上……しかし、本当に私は……ッ」
「シザーレ殿、済まぬ。地下牢に入れるでも何でも後はそなたの好きにしてくれて良い。これで許されるだろうか……」
公爵はサンドラの兄と言う事になっているシドにそう告げると、深々と頭を下げた。
シドは、今はサンドラ嬢の兄としてライサンドの拘束を直ちに進言すると、後の事をやって来たタウリンに任せた。タウリンは深く頷くと拘束したライサンドを地下牢へと連行する。
「……父……上っ、話を!!」
息子の呼び声に、もはや公爵が振り返る事は無い。
公爵は息子の罷免と領地からの追放を約束したが、ライサンドの所行はそれだけで許されるべき事なのだろうか?
「叔父上……、事が許されるかどうかは私達が決める事ではありません。しかし、これがもし前王の時代でしたら国外追放、投獄、事の状況によっては死罪にされても可笑しくはない所行だと思います。現時点で叔父上にそこまでの覚悟がおありならば、明日のお茶の席に叔父上もご出席下さい。そこにライサンドの子と母親、そしてその他の所行を進言したいと言う者も来る事になっております。その上で最終的な判断を下されても良いのでは?」
「そうか。そうだな……そうしよう……」
そう告げるとローレライと侍女に詫び、公爵は部屋を後にした。




