第11章3※
お待たせしました。
小さく含み笑いを浮かべると、ライサンドは一歩、二歩とローレライに向かい、じりじりと近づいて来る。
その眼差しは捕食者のように鋭い。
「……こ……こな……っ」
ローレライは必死に大声を上げようと試みたが、恐怖のあまり震えて上手く言葉として声を発することが出来ない。
身をすくめながら、大きく首を振ることが精いっぱいの状況だった。
ゼロは、どうしても部屋の窓辺から園庭を見おろした時のライサンドの動向が気にかかり、何か見落としが無かったかと何度も思いを巡らせていた。
室内は何処もくまなく確認したが、何の問題も無かった。
だが、ライサンドの動向は、明らかに今後の行動を示唆させるものだった。
だとすれば、大胆にも外から何かの行動を起こすつもりなのか?
落ち着かず、ゼロは再度ローレライの部屋を訪ねるために席を立った。
女性の部屋へ訪問することは流石に戸惑われる時間ではあるが、今の時間ならばまだ侍女も傍にいる筈。
理由が理由だけに少し確認するくらいは許されるだろうと踏み、自室の扉に手をかけ廊下に出た所で、ローレライの世話をしている侍女の一人と鉢合わせした。
「!!っ……」
侍女は強張った面持ちで、ローレライの部屋に鍵をかけていた。
「……もう、休んだのか?」
「はっ、はい……。今夜はとてもお疲れのようで……」
そう告げる侍女の表情は何処かぎこちなく、その手元はかすかに震えていた。
何かがおかしいとゼロは直感した。
ローレライには部屋の内鍵は自らでかけるようにと言っていた。
それに今日のローレライからは特に疲れている様子も感じられなかった。
就寝するには早い時間でもあったし、何より主が在室中に、侍女が鍵を持ち部屋を訪れていること自体に不自然さを感じた。
貴族の家での貴賓客室用スペアキーの管理は厳重注意で、その家の執事に委ねられており、清掃の時間帯と特別の場合を除き、本来貸し出しは許されていない筈。
このような時間帯に侍女へのスペアキーの貸し出しが許される事も何処か不自然で、その事に違和感を覚えたゼロは、賺さず侍女の腕を掴んだ。
「待て。……何が、あったのか?」
「ぁっ……、わっ……、私は何も……。あの、いっ、急いでおりますので失礼いたします!」
そう告げると侍女は掴まれた腕を解こうとしたが、ゼロはその手を決して緩めようとはしなかった。
「おっ、お放し下さいッ、大声をあげますよ!」
明らかに侍女の反応は過剰だ。
動向に緊急性を感じたゼロは、言葉に惑わされる事無く、更に自身の見解に納得すると、その腕の力を更に強めた。
「あげればいい。私には何の不都合もない! それよりも、あいつに何かあったのか!?」
「それは……。いえ、別に……何も……」
「いつもより、退出が1時間は早いな。おまけに部屋の内鍵はいつもサンドラ自身がかけている筈だ。お前が鍵をかける事自体、不自然極まりない。今まで一度もなかった事だ」
ゼロの言動に、侍女の身体が更にピクリと反応し、強張る。
「あっ、あの……。少しお熱を出されていて……。早くお休みになるから、鍵をかけておいてくれと頼まれましたので……」
「……熱だと!?……」
怒りを含んだような眼差しで、凄味をきかせたゼロの低い声に、侍女の声は震えていた。
今にも泣き出しそうな状況だった。
その時――。
(ガシャーン!!)
ローレライの部屋の中から、何かが割れる音がした!
(『こ……こな……でッ!』)
微かだが、そう発する声音を耳にし、ゼロは侍女の手を離し押しやると、扉の取っ手に手をかけた。
だが、重厚な造りの扉はびくともしない。
「くそう! 鍵だッ、早く鍵を渡せ!!」
侍女は脱力し、その場にへなへなと座り込んでいた。
ゼロの問いかけへ応じる様子もなく、ただ首を左右に大きく振ると、鍵を大切そうに握りしめ胸元に抱え込んでいる。
「だ……っ、ダメです!」
ゼロは侍女の胸ぐらを掴むと、顔を近づけ怒号した。
「出せッ!! 早くしろ!!」
焦りを隠せず荒げるゼロの声音に、既に居室へと下がっていた者たちが、一斉に廊下に飛び出して来る。
「何があった!?」
「如何かなさったのですか!?」
「シザーレ! その女を捉えろ!! フリードル! 公を呼んで来い!!」
そう叫びながら侍女から鍵を奪い取ると、開けるのももどかしく、ゼロは急いでローレライの部屋の扉を開くと、中へと飛び込んだ。
ゼロが中へと侵入した時、ローレライはライサンドに隣の寝室の寝台に押さえつけられ、口を手で塞がれ押し倒されていた。
夜着は半分に引き裂かれ、肌も所々露わになっており、ローレライは必死に裂かれた布を胸元に手繰り寄せ、身を守ろうと足をバタつかせている状況だった。
「……おまえと言う奴は――っ!!」
怒りに満ちたゼロの拳が、ライサンド目掛けて放たれる。
ローレライに馬乗りになろうと片足を寝台に乗せていたライサンドは、声を上げる間もなく床へと飛ばされると、その場で呆気なく気を失った。
ゼロは着ていた上着を脱ぎながら、急いでローレライに近付くと、そっと肩にそれを掛けた。
「……ゼ……ロ……っ」
震える声で、やっとローレライは声を発した。
「遅くなって、すまん……」
そう告げると、ゼロはローレライをそっと自らの胸に抱きしめた。
「っ……ゼロ……、ひっく……、ゼロぉ……」
ローレライは、泣きじゃくりながらゼロの名を何度も呼び続ける。
震えながらも必死にしがみ付いたその胸はとても暖かく、ローレライはその腕から、ずっと離れたくないと思った。
この状況にあって、互いの気持ちに気づいて無いんですよぉ……^^;(笑)




