第11章2
お待たせ致しました。
シドはゼロの部屋に、フリードルと配下の者達を集め訪れていた。
ライサンドには、数多くの被害にあった者がいるにも関わらず、中々その検証が取れないのは、おそらくこの地に住まわっている以上、いずれ領主となる子息と諍い事を起こしたくないと多くの者が思っているからなのだろうか。
だが、その事を顧みても証言して貰える者が居るとすれば、それほどこちらにとって強い味方はない。
その事を考えて、我らはずっと行動を起こしていた。
「そうか、例の侍女の証言がとれたか!」
「やはり嫁いで行った令嬢が、経済面の支援をしているらしい」
「では、おそらく公はお知りではないのでしょうね?」
「知っていたら、この状況はないだろう」
聡明な叔父上ならば状況から言って、既に屋敷に迎え入れる等という対応を取っている筈だとゼロは思った。
「明日の朝食後にでも、庭で茶会を開いて貰うように話を付けよう。その時に叔父上には内々にその女性と子に引き合わせる」
「それが一番だな。引き続き、他の者でも証言してくれそうな者がいれば交渉してくれ」
続くシドの言葉に頷く全員の者からは、『ライサンドだけは許せない!』と言う、気迫が漲っているのが感じられる。
次なる行動が決まると、タウリン、クランケは邸内で証言してくれそうな者の交渉に赴き、サビエルがミゲルの許にゼロの意向を告げるべく、急ぎ伝令へと走った。
その日の晩餐には、珍しい事にライサンドの姿はなかった。
ローレライは昼間の散歩を途中で抜けてしまっていた事から、ライサンドに対し少し気まずい思いがあった。
去り際の表情がずっと気になり不気味にもっていたものだから、顔を合わせずに済む事となり、何処か安堵していた。
一方のゼロは、ずっと嫌な予感を拭いきれずにいた。
昼間、部屋の窓辺から園庭での二人の様子をこっそり伺っていた所、ライサンドの様子に只ならぬものを感じていたからだ。
シドが途中でローレライを呼び散歩を中断させて時に見せた、あの微妙な表情。
ほんの一瞬だったが、その表情があからさまに怒りに満ちたものに変わっていたように感じられた。
それはローレライへの執着心がかなり強固なものへと変貌を遂げて行っているという確固たる証拠で、おそらく疑う余地はない。
明日から留守にするのであれば、何かを仕掛けて来るのではないかと言う警戒心を抱き、今夜は晩餐にも出向いていたのだが、奴が今夜晩餐に顔を出さなかったと言うことは何を意味する事なのか?
叔父上からは、明日から暫く留守をする故、その支度に忙しいからと言う欠席理由の説明を受けだが、深く読みすぎなのかもしれないが、ゼロはやはり今夜何か仕掛けて来るのではないかという疑念をずっと捨てきれずにいた。
晩餐後もゼロの胸騒ぎが収まることはなく、念の為に部屋を空けている間にライサンドがローレライの部屋へと忍んでいるのではないかと警戒し、皆で手分けしてくまなく調べてみたのだが、人が隠れている様子は何処にも無かった。
こういう時のゼロの勘は、今まで殆ど外れた事が無いのだが……。
自らでも最終確認をしたにも関わらず、ゼロは何処か落ち着く事が出来ずにいた。
「ゼロ? 如何かしたのか?」
「腑に落ちん……」
「でも、あの娘の部屋には、何の問題も無かっただろう?」
「……ああ」
「それでも、まだ何かあると?」
「……分らんが、嫌な予感が如何しても拭え切れない……」
ゼロはこのままでは、今夜は寝付けそうにないと思った……。
ローレライが部屋へ戻り、皆が部屋の様子をくまなく調べ終わると、その頃合いを見計らって何時も世話をやいてくれているの侍女の一人が部屋へと入って来た。
「お湯の用意が出来ておりますので、どうぞごゆっくりとされて下さいませ」
「いつも有難う」
「いいえ」
いつも侍女は晩餐が終わった頃に現れて、お湯の用意も抜かりなくしてくれている。
コルセットを外して貰い湯に入っている間には、着替えの仕度を整え、一声かけて下がって行く。
湯上りにはこちらが声をかけずとも直ぐに来てくれて、支度を手伝ってくれる。本当に気の利いた、良くできた侍女だとローレライは思っている。
今日もいつものようにコルセットを外して貰うとローレライは湯に浸かり、ゆっくり疲れを癒し脱衣場へと上がる。そこに夜着が用意されていただけだった。
(今日は何か、忙しいのかしら?)
いつものように湯上りに直ぐに現れない侍女の事を、何処か不思議に思ったが、夜着は用意されているしそう深く勘ぐることもなく、ローレライは絹の夜着に袖を通そうとした時、いつもベッドの傍のチェストの上に用意されてある部屋着が一緒に置かれていている事に気づいて、一瞬手を止めた。
だが、あまり深くは考える事もせずに、漠然と明日は何か予定があり、その身支度の関係で朝湯を使う事に都合のいい事でもあるのだろうかと深く気にも留めずにおいた。
いつものように湯場を出ると直ぐに寝室の化粧台の前に座り髪を乾かし梳かしていた。
すると、何か扉が開く音が聞こえて来て、続いてヒソヒソとした話し声が聞こえて来たので、やはり何か所用があり忙しかったのだと納得し、話し声が収まったように感じてから声をかけてみた。
「パエリア? 何かあったの?」
ローレライはいつも来てくれる侍女だと思い名を呼び、声をかけながらゆっくりと振り返った。
しかし、そこにはいつもの侍女とは異なる者が立っていた。
「らっ、ライサンド様! どっ、如何してこちらにっ!?」
ローレライは急いで傍にあったガウンを拾い上げると、慌てるように身に纏った。
「……こんな夜更けに……、何用なのですの!?」
「夜更けだから」
ライサンドの何かを乞うような怪しく光る瞳に、ローレライは恐怖覚え、思わず身を震わせた。
キャーっ!!!
ゼロぉぉぉっ!!!!
こんな夜更けに、やって来ちゃいましたよ!?
気付いてますか!!??




