第四話
「いやー緊張したー。公判ってあんな感じなんですね!」
評議室へと戻った僕は緊張から解き放たれて、なんだか肩の荷が降りたような気分になった。まだ裁判は終わってないので気を抜けないのだけれども。
「なかなか良い質問をされてて私もびっくりしましたよ」
「そうですよ! 初めてとは思えませんでしたよ!」
二人に褒められてなんだかいい気分になった。しかし、公判中ずっとツッコミたくてウズウズしていたとは言わないでおこう。
「それで、これからどうするんですか? なんか弁護人から反論が来てましたけど」
「これからそれぞれの陳述を踏まえて審議を行なっていきます。まずは今日のまとめをしましょうか」
そう言うと、リリーさんがホワイトボードの方へと歩いていき、マジックの蓋を外して何かを書き始めた。
「まずは検察側から」
リリーさんはホワイトボードに『尻から放出』と書いた。
「次に弁護側」
リリーさんは『尻の周りの毛穴から放出』と書いた。被告人のところに小さく尻愛と書いてあるが見なかったことにした。
「あとは証拠ですね。まずは動画。弁護側の反論に対して、これだけでは不十分ですね」
リリーさんがホワイトボードに×を書いた。
「次に、公判の最後に検察から出されたデータですね。この件に関する宮田さんの質問は素晴らしかったと思いますよ!」
「あ、それなんですが、僕にはこのデータがどういうものか全然分からなかったんですけど、説明してもらえますか?」
「確かに、魔法が存在しない世界では得られないデータですしね。それでは説明しましょう」
ドンキーさんがプロジェクターでさっきのデータを映し出した。
「まず、このデータは人間が内在している魔力の最大値を表しています。5回測定してその平均値がこれですね。150MPっていう数字です。で、一般的な人間の数値がこの括弧の中の数字です。170MPですね。つまり、被告人の魔力量は一般人よりやや小さいということになります」
へえ、こっちの世界の体力測定みたいなもんかな? 握力がいくつみたいな。
「そして、この動画に映っている魔法の威力から、使用された魔力量が大まかに算出することができます。これだと大体1000〜1500MPといったところでしょうか?」
「かなり魔力が大きいんですね……」
「はいそうなんです。そして、尻から魔法を放出すると、基礎魔力量の7〜10倍の威力になると言われています」
「そんなに!? あっ! それだと計算がピッタリ合いますね」
「そうです! なので、被告人が尻から魔法を放出した可能性はとても高いということになります」
ホワイトボードに尻から放出のところにハナマルが書かれた。それにしても、僕の世界の人がこのホワイトボードを見たら変な勘違いをしそうだな……。尻とか毛穴とか書かれてるし。
「と、いうことで、被告人は尻から魔法を放出したと考えて刑罰を決めていきましょう!」
「分かりました。ところで、尻から魔法を出した場合って、今までどんな刑罰が下されているんですか?」
「判例だと、殺人罪も含めると死刑、傷害罪を含めた時は無期懲役になります」
重っ!? 尻から魔法出しただけで終身刑なのかよ? この世界だと放火並の重罪なんだな……。
「じゃあ、今回のケースだと無期懲役でしょうか?」
「そうなります」
恐ろしい世界だ……。
「では、被告人の刑罰は無期懲役でよいですか? 最終判断は宮田さんになりますけれども」
「うーん、なんだか可哀想なので、懲役5年くらいで勘弁してやりませんか?」
「しかし、被告人がテロを起こした現場には、小さな女の子もたくさんいたようですよ?」
「無期懲役で」
ロリを傷つけるものに情けなどかけてはならない。
「わかりました。それでは、その内容で判決文を作成しますね。作成期間を考慮して、最後の公判は明後日にしましょうか。宮田さんはそれまで宿泊施設でくつろいでいてください」
ハンケツという言葉がなんだか違う意味で聞こえてきたが気にしないでおこう。
「分かりました。それではまた明後日にここに来ます」
そうして、僕は宿泊施設へと戻った。
——2日後
最後の公判が始まった。証言台に立っているゴーイングの様子を見ると、少し不安そうな顔をしているように見えた。今日、この犯罪者にハンケツが下るのだ。尻だけに。
「それでは、判決を言い渡します」
ドンキーさんの言葉に、法廷内に緊張が走った。
「主文、被告人を無期懲役の刑に処す。理由、被告人は証拠の動画が示す通り、臀部付近から広範囲雷魔法を発動させ、無差別攻撃を試みた。本件の争点は、本魔法が肛門から発動されたものか否かである。検察のデータを元に検証し、肛門から魔法を発動しない限り、被告人が動画に示される高威力の魔法を放出することは不可能だと裁判所は判断した。よって弁護人からの反論を棄却し、主文通りの判決とする」
判決が言い渡されると傍聴席からどよめきが起こった。
弁護人が何か言いたそうに立ち上がったが、結局何も言わずに座ってしまった。ぐうの音も出ないとはこのことだろう。ゴーイングは力無く項垂れていた。
「最後に被告人、何か言いたいことはありますか?」
ゴーイングが顔を上げて静かに語り出した。
「僕は子供の頃から尻のことを愛おしく思っていた。尻の素晴らしさをどうにかして世間に知らしめたかった。今回僕がやったことは犯罪だったのかもしれない。でも! 僕の尻への愛は変わることはない!」
何言ってんのか全然意味がわからなかった。めちゃくちゃツッコミたかったけれど、足をつねってグッと堪えた。
ゴーイングの言葉を受けて、ドンキーさんがゆっくりと話し始めた。
「被告人の愛は本物なのかもしれない。しかし、愛とは真心。あなたの心に真心はありましたか? 私にはそうは感じられない。真心とは何なのか、それを檻の中でしっかり考えてください」
なんか良いこと言っているような気がするけど、結局尻のことなんだと思ったらなんだか心がささくれ立った。
「最後にいいですか?」
ゴーイングが目に涙を浮かべながら口を開いた。
「なんでしょう?」
ゴーイングがものすごい速さでズボンを脱ぎ去り、ツルツルのケツをこちらに向けた。
「俺の尻で、この判決をぶっ壊してやる!」
「それじゃ半ケツじゃなくて全ケツじゃん!」
僕は思わずツッコミを入れてしまったがそれどころではない。このままでは尻から出る魔法であの世行きだ。
「させません」
冷たい声が法廷に響いた。声の方を見ると、リリーさんが目にも留まらぬ速さでゴーイングへと飛んだ。
「ぐああああ!」
それと同時にゴーイングの叫び声が響いた。ゴーイングを見ると、リリーさんの手によって尻に何かを突っ込まれていた。これだと魔法を発動することはできないだろう。
「あの、それなんですか?」
「愛です」
リリーさんの哀愁漂う表情に、僕はこれ以上ツッコむのをやめた。十分突っ込まれてるし。
「誰か早くこの変態を連れて行け!」
僕がそう言うと、どこからか警備員がやってきてゴーイングの両脇を抱えて法廷の外へ連れ去って行った。愛は突っ込まれたままだった。
「尻で判決を覆そうなど、言語道断です」
リリーさんが天を仰ぎながら呟いた。
「半ケツは覆ったけどね」
「これにて本公判は閉廷いたします!」
最後まで締まらない裁判だった。尻だけに。
「宮田さん、ありがとうございました。無事に裁判を終えることができました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。いい経験になりました。たぶん」
ドンキーさんの労いを受けて、僕は一礼を返した。まあこんな経験二度と無いだろうからな。いい思い出になるだろう。
「それでは元の世界へと転送することになりますので準備をお願いできますか?」
「準備ってなんですか?」
「まず服を脱いでください。この世界の物は持って行く事ができませんので」
「ええ……また全裸なの……」
「そして浴槽に入ってください」
僕は渋々衣服を脱いで浴槽の中へと入った。浴槽の中の水は来た時のままだったらしく、すっかり冷たくなった水風呂の中に僕は浸からされた。
「さ、寒い……早く転送して……」
「それでは名残惜しいですが、これでお別れです。宮田さんお元気で」
「さようなら宮田さん。お尻愛ですよ」
リリーさんの言っている意味はわからなかったが、なんだかお尻が引き締まる感じがした。
「さようなら!」
僕が別れの言葉を口にすると、光が僕を包み込み、あの時のような浮遊感に襲われた。
目を開けると、いつものお風呂場だった。ようやく元の世界へ戻ってこれたのだ。
僕は浴槽から出ると、バスタオルで体を拭いてリビングへと入った。
「はぁ〜疲れた〜。そういえば、仕事無断で休んじゃったけど大丈夫かな……」
テーブルに置いてあったスマホを確認すると、日付は変わっていなかった。どうやらあっちの世界とは時間軸が違うみたいだ。会社に言い訳しなくていいのでホッとした。
裁判を無事に終えたお祝いにビールでも飲もうかと、ルンルン気分でキッチンへ向かおうとした時だった。またあの光が僕を包み込んだ。
「は!? ウソでしょ!?」
光が消えると、目の前にあの巫女服黒髪ツインテロリ娘の神様が立っていた。
「ごめんごめん、ちょっと裁判員の欠員が出ちゃってさあ。またお願いしたいんだけどいいかな?」
「ふざけんな! わけのわからん裁判なんてもう嫌に決まってるだろ!」
「あ、OK? 悪いね! それじゃあ転送するね!」
「おい! 人の話を聞け!」
「がんばってね〜」
「せめて服を着させろー!」
こうして、僕の異世界裁判生活は続くのであった。




