第一話
「今回の事件は、尻から出された魔法による殺人未遂事件です」
眼の前の裁判長がワケのわからないことを言った。
そんなわけのわからない事件を、僕が裁くというのか?
そんなこと僕にできるのか?
僕は大いなるケツ断を迫られていた——
——1時間前
「んあ゙ぁ゙〜〜〜疲れたなぁ〜」
熱い湯が僕の身体を包み、凝り固まった筋肉が弛緩する気持ちの良さに思わず声が漏れてしまった。やはり風呂は良い。命の洗濯だとはよく言ったものだ。
「あ〜、仕事行きたくないでござる〜」
僕の名前は宮田一郎。25歳の平凡なサラリーマン。今は仕事を終えてひとっ風呂浴びているところだ。今日は水曜日。週の折り返しだということに辟易しながら、僕は浴槽に全てを委ねた。
しばらく僕が頭を真っ白にして湯に浸かっていると、急に目がチカチカと明滅し始めた。もう湯当たりしたのか? と不思議に思っていると、だんだん光が強くなり、風呂場全体が白い光に覆われてしまった。
「あれ!? なんだこれ? どうなってんだ?」
僕が慌てて浴槽から上がろうとした瞬間、ふっと浮遊感に襲われた。まるでエレベーターで下の階へ降りているかのような感覚に気分が悪くなった。
光はさらに大きくなり、僕の身体をも包み込んだ。光が完全に僕の身体を覆うとあまりの眩しさに目が眩み、たまらず目を瞑った。一体なんなんだ? 閃光弾でも風呂の中に投げ込まれたのだろうか? もしかして悪の組織のテロに巻き込まれたのだろうか? なんだか僕はワクワクしてきた。
「残念ながら、そんな厨二的なイベントじゃあないぞ」
どこからか声が聞こえてきた。エコーがかったその中性的な声はなんだか神聖なものに思えた。
「え? だ、だれ?」
「ほれ、もう目ぇ開けてもいいぞ」
僕は言われるままに恐る恐る目を開けてみた。すると、そこは真っ白な空間だった。何もない空間に浴槽が生えていて、その中に僕が入っている状態だった。
「何これ何これ? どうなってんだ?」
「まあまあ落ち着け。とって食うわけでもないんだからさ」
声がした方を見ると、そこには影ぼうしのような白い影が宙に浮いていた。
「ひっ!? 幽霊!?」
「そんな低俗なものと一緒にされちゃあ困るなあ。そうだな、わかりやすい姿に変わってやろう」
そう言うと、白い影が小さい球体に縮み、そして小さな人型に変わった。なんと白い影が巫女服姿の黒髪ツインテロリ娘へと変化した。
「どうだ? これなら怖くないだろう? むしろ可愛かろう?」
ロリ娘がくるりと回ってウインクをした。これはなかなか可愛い。そしてロリ娘は姿だけでなく声も中性的な声から可愛いロリボイスに変わっていた。
「フッ、そんなロリ娘の姿にこの俺が騙されるとでも?」
「なんだ、好みじゃなかったか?」
「残念ながら大好物だ!」
「本当に残念だな」
まったく、ロリは最高だぜ!
「まあいい。それで、我はお前たちの世界で言う神様っていうやつだ」
「神様?」
「そうだ。お前をここに呼んだのは他でもない我だ」
「わざわざ風呂に入ってる時に呼ばないで欲しかったんだけど」
「忙しくて時間を選んでられなかったんだ。トイレに入ってる時じゃなくて良かっただろ?」
「まあそりゃそうだけど……」
どうせなら仕事中とかに呼んで欲しかったなあ。
「いや、待てよ……これはもしかして異世界転生っていうやつなのでは? そうでしょ!」
僕はアニメや漫画で見た展開に胸を躍らせた。でも、どの作品も全裸ではなかった気がするが。それにだんだん湯が冷めてきた気がするな。風邪引きそう。
「いや、まあ異世界には行くことになるんだが……」
「やっぱりそうなんだ! うおおお! 僕は無限の魔力を扱えるチート能力がいいです!」
「ちょっと待て! 落ち着け! あと立つな! お前のお前がこんにちはしちゃうから!」
「最近流行りの辺境の領地を開拓して無双するとかでもいいよ! 早く! 早く行こう!」
「ダメだこいつ、人選間違えたかも……」
神様が頭を抱えてしまった。僕はそんな神様にパシャパシャとお湯をかけて急かした。
「いいか? 今からお前は異世界に行くことになるが、そんなチート能力などは得られない!」
「そんな!? 異世界転生ものでチート能力が無いなんて、面白くもなんともないじゃないか⁉︎」
「お前、昔のアニメや漫画を全否定するのか!?」
「令和のドパガキには最初から最強じゃないと見向きもされないぞ」
「嫌な世の中になったものだなあ」
神様が遠い目をした。タイトルも分かりやすくしないとね。
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。今からお前は裁判に参加してもらう」
「え? 裁判?」
「そう、異世界で行われた、魔法を使った犯罪を裁く裁判だ」
「魔法を使った犯罪……それをなぜ僕が?」
「お前の世界で言う裁判員裁判っていうのを知っているか?」
裁判員裁判とは、一般市民から選ばれた裁判員が判決を決める裁判だったかな?
「なんとなくは知ってるけど……」
「その裁判員にお前が選ばれたんだ」
「なんだって……? それは、やはり僕に特殊な能力があるから? それとも僕の血筋に光の血脈がどうのこうのみたいなアレか?」
そうか〜薄々そうなんじゃないかと思っていたんだよな〜。僕のテンションが一気に上がった。
「いや、完全無作為の抽選だ」
「え?」
「簡単に言うと、たまたまだ」
「えー」
なんかテンションが一気に下がった。嘘でもいいからお前じゃないとダメだって言われたかった。
「それで? 僕は何をすればいいの?」
僕は鼻をほじりながら神様に質問した。さっさと終わらせてアニメでも見たいな。
「お前はホントクソ野郎だな……」
「あと、そろそろ服を着たいなあ」
「じゃあさっさと転送するか。詳細は向こうに行ってから説明してもらえ」
「丸投げかよ! っていうか風呂ごと転送するのか?」
「もう次の案件が迫っとるから、そのまま転送しちゃうわ」
「いや待って! せめて服だけでも着させてくれ!」
「それも全部向こうでやってくれ。それじゃあがんばってな〜」
「酷すぎる〜!」
そう言って僕はまた光に包まれ、浮遊感に襲われた。しばらくすると、ガクンと飛行機が地面に着陸した時のような衝撃を受けた。異世界に着いたのだろうか? 僕は恐々と目を開けた。
目を開けると、そこにはスーツに身を包んだ小太りのおじさんと、ショートカットのお姉さんが立っていた。
「えーっと、ここが異世界ですか?」
「そうですけど……なんで風呂?」
「僕が聞きたいです……あと、服をもらえませんか……?」
こうして僕の異世界裁判員生活が始まるのだった。




