Ep.17 まだ見ぬ君へ(2)「心の奥」
隼人のおかげで心のもやが晴れた俺は、2年2組の教室へ元気いっぱいに飛び込んだ。
大谷 圭介:
「おっはよーす!」
席近くの悪友・井本に声をかける。
井本:
「はよー」
井本は眠たそうにあくびをしながら応えた。
近くには、さとみんこと上田里美もいる。こいつらは家が近い幼馴染みらしい。
上田は望月とも仲がいいから、好印象を与えねば! と下心有りで俺は上田にも「おはよう」と挨拶をした。
2年で同じクラスになってからはよくつるむ井本に機嫌よく、隼人に対してと同じノリで声をかける。
大谷 圭介:
「井本聞いてくれよ! 俺、弟か妹できるんだぜー」
俺はすっかり、浮かれていたのだった。
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まだ見ぬ君へ
(2)「心の奥」
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井本:
「へ?」
まだ眠そうな井本の代わりに、上田が声をあげた。
上田 里美:
「え、おめでとう! すごいねー」
大谷 圭介:
「へへ、だろー」
やっぱ望月の友達だけあって、上田はいいやつだ。
望月には敵わないが、可愛い笑顔でキラキラ目を輝かせている。
上田 里美:
「赤ちゃんて可愛いよねー! 羨ましいな~」
だろだろー、と鼻は高くなる。
そんな俺にようやく目が覚めたのか、井本は身を乗り出して顔をこちらに向けた。
井本:
「そりゃめでたい! でも年がだいぶ離れるなぁ」
大谷 圭介:
「おう、14歳差だ」
井本:
「やべー! 一緒にいたらお前、親父に見られるんじゃない?」
大谷 圭介:
「まさか!」
とは言いつつも、小学生の頃からすでに子ども料金ですんなり通じない己の図体に、それもあり得るのかもしれない、なんて苦笑してしまいそうになる。
ふっふっふっ、若い父ちゃんのふり遊びでもしてやろうか。
なんてバカなことを考えていたら。
井本:
「──にしてもさぁ」
井本がニヤリと笑った。
井本:
「さすが大谷の親! まだやることやってんじゃーん」
大谷 圭介:
「!」
それを聞いたとたん、ザラリとしたものが心の奥を触った。
大谷 圭介:
「な……何言ってんだよ~」
かろうじてまだ、お調子者の俺がいた。
でもさらに続く井本の声が、俺の胸をざわつかせる。
井本:
「はは、エロ親父の親父はやっぱエロいってかー」
大谷 圭介:
「……っ」
今度は、うまく笑えなかった。
井本がいつもの冗談でそれを言っていることは頭でわかるのに、胸の奥の方でそれを処理できない。
喉がつまって、痛い。
上田 里美:
「ちょっと、やめなよ井本」
上田のそんな声も、俺には届かなかった。
井本:
「えー、だってそーゆうことだろー?」
井本:
「つまり大谷の両親は、まだエッチして……」
大谷 圭介:
「やめろよ!! 」
思わず発した自分の声が、教室内に響いた。
大谷 圭介:
「……お前まじ……ふざけんなよ……っ 」
井本:
「お、大谷……」
声が低く震えていた。
怒りなのか恥ずかしさなのかわからない感情が、俺の体中を駆け巡っている。
気づけばクラス中の注目が集まっていて、辺りはシンとなっていた。
まわりのやつらは、何で俺が急に怒鳴っているのかわからず、静かにざわつき始める。
でも俺は、自分を支配している感情を抑えるのに必死で、肩をすぼめている井本を睨みつけるしかできない。
そんななか、タイミングが良いのか悪いのか、ガラリと望月が教室の扉を開けた。
望月 美羽:
「おはよー」
望月 美羽:
「……ん? どうしたの?」
大谷 圭介:
「…………っ」
大谷 圭介:
「……何でもねー……」
それをきっかけに、クラス内の緊張は解けたのか、まわりは俺らを置いて動き始めた。
居心地悪そうな顔の井本と上田。
何も知らない望月。
それらから全部逃げるようにして、俺は自分の席に座って、顔を伏せた。
・ ・ ・
その日の授業は、全然頭に入らなかった。
でも代わりに何を考えていたのかというと、それも俺自身よくわからずにいた。
ただずっと、黒いモヤモヤが心にくすぶって、気分を滅入らせる。
その正体がわからない。
でもわかってしまうと、ますます気が滅入りそうで、何も考えたくなくなった。
大谷 圭介:
(あんなに嬉しがってたのに……)
大谷 圭介:
(何で俺、こんなに苛ついてんだろ)
井本は何か言いたげにしていたが、それも俺は知らないふりをした。
親を侮辱したことだけは、絶対に許せなかった。
◇ 続く ◇




