第48話 揺れる忠誠と婚約者の忠告
王立学園の昼下がり、温かな日差しが講義棟の廊下を照らしていた。アルト・フォン・セルマ、ビンセント・フォン・クラレンス、ゲオルグ・ルッツ、ニコル・セルマ――側近たちはそれぞれ、学園の一角で緊張した面持ちで婚約者たちと向かい合っていた。
「アルト、あなた……キャサリンに近づきすぎじゃない?」
アルトの婚約者、リリア・フォン・ベルグ伯爵令嬢は鋭い視線を投げかける。普段は理知的で冷静なアルトも、キャサリンの涙と親密な接触に心を揺さぶられ、無意識に彼女に従っていた。
「リリア……これは、別に……」
アルトは弁解するが、リリアは眉をひそめる。
「弁解なんて聞きたくないわ。あなたは側近としてだけでなく、私の婚約者なのよ。感情で動いて、彼女に流されるのは許されない」
アルトは一瞬言葉を詰まらせ、胸の奥でキャサリンの存在とリリアの忠告がぶつかる。理性と感情が交錯し、彼は深いため息をつく。
一方、ビンセント・フォン・クラレンスの婚約者、エリザ・フォン・ダールも厳しい表情で彼に詰め寄る。
「ビンセント、あなたもよ!あの子に翻弄されて……真面目に剣術の稽古をしていないわけじゃないでしょう?」
ビンセントは視線を落とす。キャサリンの手の温もりや微笑みに、心が揺れていた自分を認めざるを得ない。
「俺……ただ、稽古のつもりで……でも、つい……」
「つい、じゃないの!あなたの目が、彼女だけを追っているのがわかるのよ。もっと自覚して!」
エリザは声を震わせるが、ビンセントは言い返せず、ただ俯くしかない。キャサリンの策略が、忠誠心と婚約者への責任を同時に揺さぶっていたのだ。
さらに、ゲオルグ・ルッツの婚約者、カタリーナ・フォン・ブランクも登場する。
「ゲオルグ、あなた!あの子に抱きかかえられるなんて……何を考えているの?」
ゲオルグは顔を赤らめ、言葉に詰まる。自然の中での探検課題でキャサリンに助けられるたびに、無意識に心を許してしまったのだ。
「……カタリーナ、誤解だ。俺は……」
「誤解じゃないわ!側近としての誇りも、私への婚約者としての誠意も、全部投げ出すつもり?」
ゲオルグはただうつむき、言葉を返せずにいる。心の中でキャサリンの存在と婚約者への責任がせめぎ合い、板挟みの状態に陥る。
そして、商家の青年ニコル・セルマもまた、婚約者であるソフィア・フォン・レンベルクに呼び出される。
「ニコル、あなた……キャサリンにばかり意識が向いているんじゃない?」
ソフィアは冷静ながらも鋭い言葉で責める。ニコルは理性的に振る舞おうとするが、キャサリンのさりげない接触と微笑みが無意識に心を揺さぶっていた。
「……ソフィア、これは……」
「言い訳は聞かないわ。あなたは私の婚約者なのに、なぜ彼女の影響に流されるの?」
ニコルは胸の奥で困惑する。キャサリンの策略に心を奪われつつも、婚約者の言葉が理性を呼び覚ます。しかし、その間に揺れる心は止められず、葛藤が深まるばかりだ。
四人の側近たちはそれぞれ、キャサリンに籠絡されつつ、婚約者からの苦言に直面し、心の中で激しく葛藤する。キャサリンの涙や無防備な仕草、身体的な距離の近さが、理性を凌駕していることは否めない。
「……これでは、私たちも王太子も、簡単には動かせないかもしれない」
王太子の目には、側近たちの揺れる態度と葛藤の様子が映る。彼らは忠誠心と感情、婚約者への誠意とキャサリンへの無意識の好意の間で揺れており、王太子は胸中で微かな警戒心を抱く。
キャサリンは学園の塔の上からその様子を見下ろしているわけではないが、全てが計算の内だった。涙と身体的接触による籠絡、側近たちの婚約者への感情の揺さぶり、王太子の警戒心――すべてを想定した上で、学園内での影響力をさらに広げる手筈を整えているのだ。
夕暮れの光が中庭を染める中、側近たちは婚約者たちからの苦言に顔を赤らめつつ、心の奥でキャサリンの存在を意識せざるを得ない。学園という舞台で、涙と策略、身体と心理を駆使したキャサリンの野望は、ますます現実味を帯びて進行していた。




