1.酔っ払い登場!
どうぞよろしくお願いいたします。
「ねぇ、『あれ』をごらんになって」
優美な曲線を描くグラスに軽やかな音をたててワインがそそがれる。
そこは舞踏会の会場だった。
華やかに彩られたホールは冬にも関わらず贅沢に灯された燭台と人々の熱気で暖かい。
美しく光を反射するシャンデリア、優雅な楽団による演奏、それに合わせて踊る人々のワルツ、ーーの中に突如として現れるゴミのように積み上げられた空のワイングラスの山。
「え、なにこれ……?」
「ワイングラス……? こんなに……?」
シャンパンタワーのように綺麗に積まれているわけではない。ただただ雑に放り投げられた結果、山のように積み上がっているのである。
その光景は明らかに異様だった。
そしてーー、
「『彼女』、一体どこの家の方かしら……?」
その山のたもとには一人の『飲んだくれ』がいた。
華やかな舞踏会にはふさわしくない真っ白なローブに身を包んだその人物はずいぶんと小柄だった。
黒檀のような真っ黒な髪は糸のように細く真っ直ぐに背中まで流され、その白い首筋がより一層華奢な印象を抱かせる。
黒曜石のような瞳には長いまつげが影を落とし、唇には柔らかな色合いの紅がさされていた。
可愛らしい、という形容がとても似合う人物だ。
ただしーー、だらしなく酔い潰れていなければ、の注釈がつく。
その頬と鼻は酒気を帯びて桃色に上気し、目の焦点は合っていなかった。
おまけにだらしなく膝を立ててあろうことか床に座り込んでいる。
「あー……、ワインおいしー。未成年でも酒が飲める世界って最高ー。あ、これおかわりくださーい」
立派な酔っ払いだ。
そしてまたひとつ飲み干して空になったグラスを『山』へと追加する。
その姿は周囲から明らかに浮いていた。
「ちょっと、きみ!」
そこに鋭い声が響く。
ぴしりと整った制服に腕章、そして腰には剣をはいた人物、守衛である。
その登場に周囲の人々はあからさまに安堵した様子だった。
『酔っ払い』が追い出されるとわかったからだ。
守衛は険しい表情でその『酔っ払い』に詰め寄った。
「一体どこの人間だ? ここは由緒正しいフェリシィ学園の生徒しか参加できない舞踏会だぞ!!」
その怒声にも似た声音に、しかし臆する様子もなくその黒曜石の瞳はとろんと解けたまま向けられた。
「うん? ……自分も生徒だけど」
「嘘をつけ! フェリシィ学園は貴族の子息、子女しか通えない名門だぞ! おまえみたいなだらしのない奴が入れるところじゃない!!」
「一応平民もいるはずだけど」
「特待生だけだろう! おまえみたいのがその『優秀な特待生』だとでも?」
彼は見下すようにふん、と鼻で笑った。周囲もそれに同調するように密やかな笑い声を漏らす。
しかし黒曜石の瞳はどこまでもきょとんと瞬いた。
「他にもいるだろ、通ってる平民」
「『他にも』? ああ、貴様のような無作法者は知らんのか。特待生の他に学園に在籍する平民出の生徒は『聖女様』だけだ」
「うん。だからーー」
「そんなことも知らんような部外者はとっとと出て行け! 身柄を拘束されないだけありがたく思えよ!!」
そのまま守衛の男は酔っ払いをまるで猫の子でもつまむようにひょいと首根っこをひっつかむと、そのまま門の方へと歩き出す。『部外者』と断じられた酔っ払いは特に抵抗するでもなく引きづられながら、それでもなお手に持っていたワインをぐびぐびと飲んでいた。
この期に及んで酒を飲み続けるその姿はまさに飲んだくれの鑑と言えよう。
守衛がその態度に青筋を立て、手に力を込めた。そして今まさにホールの外へと放り出されるかと思われたその時、
「きゃああああ……っ!!」
悲鳴が響いた。
「何事だ!?」
その尋常ではない叫び声に守衛は振り返る。穏やかになっていた楽団の演奏は途切れ、ダンスの合間の休憩で談笑していた人々の視線も自然とそちらへと集まった。
ーーはたして、そこには五人の人物がいた。
次の投稿は本日の14時50分ごろになります。
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