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93.ムーレヴリエ子爵、男爵

 ムーレヴリエ子爵及び男爵の到着の報せ、来客を迎えるために応接室で待機。その待機している中に侯爵様までいるってどういうことなの。

 侯爵様は『待たせたな。』とか言って後から来るもんじゃないんですか?

 などと思っているのは私だけ?


 「そんな高圧的な態度を取っていたら人は付いてこぬ。目線は高すぎず低すぎずだ。」


 それって派閥をうまく運営するため? って言うことですよね。貴族間での派閥を形成して派閥同士の力関係を少しでも有利にしようと・・・ まさか、レオンティーヌ様やフェリシーちゃんまでもが派閥の優位性を持たせるために利用されるとか。

 貴族家の子供として生まれてきたんだから、それもしょうがないと言うしかないんだけど。

 私にはそれに異を唱える力もなければ地位もない。そもそも何の派閥なのかも知らないし、下手にそんな話に口を挟んで派閥間抗争に組み込まれるのは絶対に避けたいわね。

 そんな抗争なんて当事者同士で勝手に争っていればいいのよ。部外者が関知する必要は全く無いわ。



 お客様達が応接室に到着し、まずはラザール・ムーレヴリエ子爵様と、奥様? が入室をする。そうか、奥様は王都邸に住んでいたのね。

 ラザール様がソファーの横に立っていた私に気がついたけど、ピクリと眉が動いた程度でスルー、侯爵様にご挨拶。


 「侯爵様におかれましては息災のご様子で何よりでございます。」

 「うむ、ラザール殿ご夫妻も息災のようだな。」


 続いて部屋に入ってきたフロランタン・ムーレヴリエ男爵様とジェローム様、その影に隠れた感じで入ってきた、   フェリシーちゃんよっ。

 フロランタン様親子が私を見つけて固まった状態、挨拶が口から出てこない?


 「あっ、ヴィヴィ先生っ。」


 フェリシーちゃんは周りを気にせずに私に向かって走ってくる。走ってきたフェリシーちゃんの両手をぎゅっと握って落ち着かせる。


 「こんにちは、フェリシーちゃん。話したいことはあるかもしれないけど、まずは挨拶をしなきゃダメよ。」

 「あ、そうでした。ごめんなさい。ヴィヴィ先生。」


 すぐに侯爵様に向き直って挨拶を始めようとするんだけど、ちょっと待って。フェリシーちゃんの手を引いてフロランタン様の横までいく。


 「なぜヴィヴィ先生が?」

 「フロランタン様もご挨拶が先ですよ。積もる話はまた後ほどという事で。」


 声にならない返事、口がパクパク動いたけど、ちゃんとご挨拶できるのかしら。


 「お初にお目にかかります。ラザール・ムーレヴリエ様の寄子のフロランタン・ムーレヴリエにございます。本日はお近づきの印に我が領特産の干しシイタケなるものをお持ちいたしました。こちらをご覧ください。」


 干しシイタケよっ!! 手持ちの干しシイタケは使い切って久しいわ。フロランタン様が持ってきてくれるなんてっ。でも懐から取り出した袋、小さすぎっ。ケチくさいじゃない。もっと大きな袋で持ってきなさいよっ。


 「干しシイタケとな? 乾燥させたキノコか。これをどうするのだ?」

 「乾燥させる事により美味しさが凝縮されます。水で戻すことにより、生で調理するよりも深い味わいを得られます。馬車に麻袋いっぱいの干しシイタケをお持ちしておりますので、ご堪能いただければ幸いです。」

 「それだけではございませんぞ。わが子爵領の特産品もお持ちしております。干しシイタケと併せてご堪能いただきたい。」


 ラザール様の領地の特産品っ? い、いりこっ・・・ 他にも乾燥させた海藻類?

 欲しかったのよっ!! 干しシイタケだけじゃない、海藻類ももうないのよ。


 「いや待て、私の所へあれやこれやと持ってくる前に、王家に献上が先ではないか。」

 「先触れは出しておりますが、子爵家男爵家程度では後回しにされるのですよ。王にお目通りがかなうのは数日先のようです。」

 「そうか、私からもお口添えをしておこう。」


 王様に会うのにそんなに待たされちゃうとか、もう会いに行かなくてもいいんじゃない? なんて話は通らないんでしょうね。貴族ってメンドクサイ。


 「今日の本題は、魔法使いを学園に登録したいとの相談であったな。」

 「この度は我が娘を魔法使いとしての登録のお願いにラザール様に同行させていただきました。将来の貴族学園入学に向けて魔法使い登録のお口添えをお願いします。」

 「うむ、聞いておるぞ。小さい子供ながらも素晴らしい魔法使いだとな。」

 「え? よその魔法使いを知らないので、皆目見当も付かないのですが、木桶に水を出せる程度です。」

 「そうか、魔法使いはそちらの娘だな。その男の子の紹介はどうした?」

 「第一子のジェロームにございます。貴族学園騎士科への入学が決まっております。」

 「ムーレヴリエ男爵家長男ジェロームにございます。お国のため粉骨砕身働くつもりで騎士を目指しておりますっ。」

 「あら、まあ、ジェローム様でございますのね。ヴィヴィ先生からお聞きしておりますわ。何やらヴィヴィ先生直々に、大きな相手を投げ飛ばす技を教わっていらっしゃるとか。」

 「う・・・ は、はい・・・ お おそ、教わりました。」


 ジェローム様は何を慌てふためいてるの? 同年代の女の子と話すのが初めてではないと思うんだけど。ん? 貴族家の令嬢とは初めてって事? ジェローム様もなかなかシャイですっ。


 「わたくし魔法学科に入りますの。魔法学科の生徒は入学早々に騎士科から護衛騎士を選ばなきゃいけないのですわ。ジェローム様は魔法使いの護衛騎士になる予定はございますの?」

 「え、ぼ、僕は、あ、いや、私は、そのような誘いを受けておりません。必要とされるのなら、必ずやご期待に添う働きをごらんにいれます。」


 勝手に話進んでますけどっ、フェリシーちゃんがまだ挨拶できていないんですっ。レオンティーヌ様もジェローム様もちょっと引いてくださいっ。


 「フェリシーちゃんのご挨拶をさせていただきますね。レオンティーヌ様もジェローム様も向こうでお話しくださいっ。

 さあ、フェリシーちゃん、侯爵様にご挨拶をお願いします。」


 可愛らしいカーテシーからのご挨拶。


 「フェリシー・ムーレヴリエです。あの、あの、ヴィヴィ先生にいろいろ教えてもらいましたっ。」

 「そうなんです、侯爵様。私を先生と呼んだ一番最初の子なんです。私の特別の子です。」

 「ヴィヴィにとって特別かどうかは問題ではない。国にとって特別になれるかどうかだ。それによって学園は優待生として迎え入れる準備をする。」

 「わ、私の娘が? 優待生? 魔法使いとはそんなにいい待遇なのですか。」

 「使える魔法のレベルにもよるが、ヴィヴィの話を聞く限りでは問題なく優待生として迎えられる能力は有しているはずだ。」


 フェリシーちゃんは大人達の話がよく分かっていないようだけど、優待生とか学園とかの単語が聞こえて反応する。


 「わ、私、貴族学園行きたいですっ。」

 「大丈夫、学園の先生達が文句言えないぐらいの魔法を教えてあげるわ。」

 「ヴィヴィ先生に教えていただいた魔法は、すごく練習しました。【水刃ソー】とか【風刃ソー】も。」

 「ええーっ!! アレは教えたわけじゃなくて見せただけよ。風の魔法まで覚えちゃったの?」

 「はい、とっても大きな木も伐り倒せます。」

 「なんですってーっ。わたくしは水の魔法しか教わっておりませんわ。フェリシー様にはどれだけの魔法を伝授されたのですかっ?」


 離れたところで会話をしていたはずのレオンティーヌ様の耳に魔法の話が届いたみたい。目をつり上げて私に迫ってくる。


 「私は教えていませんよ。私の発動した魔法を見よう見まねで習得したようです。教えてもらってないとお怒りになるよりも、自力で習得したフェリシーちゃんを称えてあげてください。」

 「そ、そうなのですね。やはりわたくしではフェリシー様の足元にも及ばないのですね。」

 「そんなことよりっ、フロランタン様っ!! フェリシーちゃんに木こりの手伝いをさせているのですかっ。」

 「あ、いや、手伝いではないぞ。フェリシーがやりたいと言ったのだ。魔法の練習にもなるし試しにやらせてみたのだ。」

 「大木が何処へ倒れるかも分からないのに、フェリシーちゃんが危険だとは思わなかったんですか?!」

 「それについては必ず私がそばについて、どこを伐ればどちらへ倒れる、との指示はしているから危険はないぞ。」

 「私は大丈夫です。ヴィヴィ先生の光の魔法もできるようになりましたから。」


 !?え・・・ 【ナンチャラマンバリア】まで? 確かに教えようと思ってあの時に見せたけど、全くできそうな雰囲気はなかったわ。それができちゃったって・・・どれだけ優秀なんですかっ。


 「その娘がレオンティーヌに匹敵するほどの魔法使いだと言っていたが、実際にはどの程度なのだ?」

 「魔法を見ておりませんが、レオンティーヌ様の先を行っております。」


 肩をガックリと落とすレオンティーヌ様、でもそこまで落胆するほどでもないと思うのよ。


 「フェリシーちゃんは一人で練習してここまでになったんです。レオンティーヌ様も私に依存することなく、自ら魔法を探求するのもいいかもしれません。」

 「え? まさかヴィヴィ先生はわたくしにはもう何も教えないとおっしゃるんですの?」

 「教えないというわけではありません。が、自ら考える力を鍛えることも必要だと思います。」

 「そうかもしれぬな。レオンティーヌはもう充分に教わっている。ヴィヴィの言うとおり、これからは自分で考える事も必要になるだろう。」

 「いやですわ、お爺さま。ヴィヴィ先生はずっと私の先生ですわっ。」


 レオンティーヌ様の後ろで何か言いたそうなジェローム様がオロオロしていたけど、意を決してレオンティーヌ様に声をかける。


 「レ、レオンティーヌ様、ヴィヴィ先生が我が領を旅立たれた後、我々は教わったことをずっと練習してきました。それはフェリシーも同じです。ヴィヴィ先生が目の前にいなくてもずっと私の先生であり続けます。レオンティーヌ様はヴィヴィ先生がいなくなってしまったら先生ではなくなってしまうのですか?」

 「な、何をおっしゃいますの。ヴィヴィ先生はずっとわたくしの先生でございますわ。 ヴィヴィ先生の素晴らしさを理解しているあなたは、なかなかに見所がありましてよ。学園でわたくしの護衛を務めていただくデルフィーヌ様が了承するようでしたら、ジェローム様をわたくしの護衛にお迎えいたしますわ。」


 先生先生っていつまでも呼び続けられても、私が嫌ですよ。もうそろそろガエル村へ旅立っても良さそうな頃合いかしら。

 でもでも、フェリシーちゃんが呼ぶのは大歓迎よ。い、いえ、できたらお姉ちゃんって呼ばれたいっ。そんなふうに呼ばれたらもーっと可愛がっちゃうのにっ。


 あ、そうだ、フェリシーちゃんの優待生の件は大丈夫なんでしょうね。もし無理なようだったら、も~っといろいろ教え込まなきゃ。


 「侯爵様、フェリシーちゃんは優待生として迎えられるのでしょうか。」

 「レオンティーヌを上回る実力を有しているのなら、私の口利きがなくとも問題なく認定される。心配なようなら、魔法の模擬戦で実力を見てみようか?」

 「模擬戦だなんて、フェリシーちゃんには早すぎますっ。」


 キラキラした目を私に向けて訴えるフェリシーちゃん。


 「ヴィヴィ先生、やってみたいです。」

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