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81.おじいちゃん家令 優秀ですかっ!!

 侯爵邸に帰ってからおじいちゃん家令と顔をつきあわせている。場所は厨房に隣接した食堂。テーブルをを前にして私は椅子の上に立った状態。そうでもしなきゃテーブルの上が見えないのよっ。

 テーブルの上には果汁絞り器が置かれていた。

 料理人さんが用意してくれたのは、オレンジかしら? ジュースにするには柑橘系が定番よね。


 「この器具はここに果物を置いて、このレバーを下げ圧搾する事によって果汁が搾り出されます。」


 レバーの上げ下げをするには、この私のちんちくりんな体には無理すぎる。レバーの上げ下げ担当をおじいちゃん家令にお願いしたんだけど、あまりにも簡単に果汁が搾れた事におじいちゃん家令が驚いた。


 「ほう、これは凄い。非力な私でもこんなに簡単にオレンジジュースが絞れるとは。お食事の時にアリステイド様の目の前で絞って差し上げましょう。」

 「それは勝手にしていただいて結構なんですけど、今話したい事はオレンジジュースとは違うんです。」

 「あ、そうでしたね。この器具の改良のお話でしたね。ヴィヴィさんはこれをどのようにしたいのですか?」

 「大豆を絞って油を採りたいんです。」

 「ふむ、大豆ですか。ではここに大豆を入れてみましょうか。」

 「この器具で大豆の油を絞ろうとしたら、強度が足りないと思います。」

 「強度ですか。では弱いところを補強してもらえばよろしいのですね?」

 「補強程度ではどうにもならないでしょう。まずはこの果物を入れた器、大豆を圧縮させると割れそうですよね。第二に、このレバー、強力な力を掛けると曲がりそうです。第三に、てこの原理を利用したレバーの支点、力がかかりすぎて破壊されます。」

 「そんなに弱いのでは、最初から作り直すべきですね。」

 「そうなんです。この果汁絞り器は、絞り出すのをイメージしやすいように欲しかっただけなんです。」


 そこで遠巻きに眺めていた料理人さん達にに、紙とペンを用意してもらう。

 ありがたい事にインク壺も持ってきてくれた。そうよね、ペンだけあってもインクが無きゃ書けないわ。


 紙に絵を描きながら、おじいちゃん家令に説明をする。


 「この器具で絞り出すイメージは理解していただけたと思います。油を絞り出すために強度を持たせる。これを第一に考え、現在のこの器具の形状は忘れましょう。全く違う形状を考えてみようと思います。」


 おじいちゃん家令は頷きながらも、私の説明の邪魔をしないように黙って聞いてくれる。


 「大豆を圧搾させるための器は鉄のパイプ状にします。」


 紙にパイプを書き、その両側に蓋をするように絵を描くんだけど、蓋が分かりにくいわ。これは説明でいいわね。


 「これはパイプの両端をネジで締められる蓋です。蓋に棒を差し込める穴を開け、後ろからネジを回せば奥へ押し込む事のできる棒を取り付けます。この棒も穴もネジ状にします。棒の先にはパイプの内径いっぱいの鉄の皿を付けて、棒を回転させると鉄の皿でパイプ内部に入れた物が圧搾されます。棒を回転させるためにハンドルを付ければ楽に回転圧搾させられます。逆側の蓋には搾られた油が出る穴を複数個開けておけばいいでしょう。」


 しゃべりながら絵を描き、その絵に説明を書き添える。なんか、私凄い事している気分?

 実際には線二本書くとパイプになるし、蓋に至ってはここにネジ式の蓋があると書き込んだだけ。そこに棒を突き刺し、ネジ式で奥に入りますの説明。逆側の蓋には穴、穴、穴と書いて、ここに穴がありますよの線を引いただけ。

 こんな絵で誰が理解できるのよっ。

 私の描いた絵をまじまじと見つめるおじいちゃん家令。ごめんなさい、理解にほど遠い絵だと私自身が理解してます。怒られても謝罪するしかありません。


 「ここに示された絵ではこのパイプ、固定されておりません。ハンドルを回せば一緒に廻ってしまいますね。」

 「えーっ、この絵で理解できるんですかっ。」

 「もちろんですとも。筒状になっていたら廻ってしまいます。筒に四角くなる物を固定して、台座を四角い物がはまり込むようにしてやれば、筒が廻る事なくハンドルを回せますね。後は台座ですね。作業台などへの固定ができるように、職人に何か考えてもらいましょう。この絵はアリステイド様にご覧に入れる前に私が描き直してもよろしいでしょうか。」


 おじいちゃん家令っ!! なっ、なっ、なんて優秀なんですかっ!! 私の拙い説明を理解して、なおかつ改良点を指摘して絵に描く能力。こんな有能な部下を持つアリステイド・クレマンソー侯爵様がうらやましいっ。

 絵を描き直してくれる、とのご提案に私の顔は縦にブンブンと振られる。


 「是非ともよろしくお願いしますっ。」


 描き直した絵は侯爵様に確認してもらって領地へ送られるって言ってたけど、作ってくれるドワーフの職人さんに説明しないと、思ってた物と違う物ができたりしないのかな?

 まだ油搾器が必要となるのはまだずっと先の話なんだしね、変な物ができても作り直しする事はできるでしょう。




 レオンティーヌ様の算術のお勉強中に、訪れたおじいちゃん家令。レオンティーヌ様に話を聞かれたくないのか、部屋の外での立ち話になった。


 「ガエル村での孤児院建設の件は許可は頂きましたが、アリステイド様がヴィヴィさんの説明を求めていらっしゃいます。つきましては明日の昼食をご一緒にいかがでしょうか、との話です。」


 その『いかがでしょうか』はお伺いはしてるけど拒否権が無い『いかがでしょうか』よね。それって、了承するしかないでしょうーっ。


 「かしこまりました。侯爵様がご使用になる食堂でよろしいでしょうか?」

 「いえ、ヴィヴィさんとの二人だけのお食事という事で、別の部屋をご案内します。明日は私がお迎えに上がります。」


 部屋で待っていれば、おじいちゃん家令のお迎えアンドご案内って事ね。それじゃあ明日は出掛けないようにして、お部屋でおとなしくしていましょう。


 算術の授業に戻れば・・・ そうよね~、何のお話だったのか聞きたがるのは、人のサガというものだわ。


 「ヴィヴィ先生、どのようなお話でしたの?」


 おじいちゃん家令が他の人には聞かせないように私だけに伝えてきたお話を、レオンティーヌ様に伝えてもいいのか、悩むわね。何も言わなきゃ言わないで、秘密です、なんて言ったら余計に聞きたくなっちゃうだろうし。話のさわりだけ、かいつまんで伝えれば満足してくれるかな?


 「孤児院へ行ったときの話を詳しく聞きたいと、侯爵様がおっしゃっているそうです。」

 「ヴィヴィ先生が孤児院なんて、なんのご用だったのかしら?」

 「侯爵様のおつかいでで行ってきたんですよ。無駄話はその辺で、計算問題を終わらせましょう。」


 そうよ、今はお勉強中なのだから無駄なおしゃべりをしている暇はないのよ。お勉強を進めないと。

 お勉強をしてる間に、さっきの話を忘れてくれればいいんだけど、



 算術の学習も終わり、おじいちゃん家令の話は忘れてくれたみたい?

 思い出してさっきの話を蒸し返される前に、午後の魔法の話で話題をそらしてしまいましょう。


 「午後の魔法の訓練ですが、レオンティーヌ様の水球もいい感じになってます。次の段階にステップアップしようと思ってます。イケそうでしょうか?」

 「イケるとかイケないとかなんて、わたくしに聞かれましても分かりません事よ。ヴィヴィ先生に決めていただきたいですわ。」

 「それなら、今日から水弾を撃ち出す訓練をしてみましょうか。」

 「そ、そんな簡単にできるわけがありませんわっ。わたくしがあそこまで水球を大きくするのにどれだけ時を費やしたとお思いですか?」

 「え? 魔法は思いの強さです。レオンティーヌ様の精霊に対しての思いが、まだまだ足らなかったという事ではないですか?」

 「そ、そんな事はございませんわっ、わたくしの精霊様への思いは誰にも引けは取りませんわ。今日の魔法訓練で証明して見せますわ。」

 「ええ、期待しております。」


 ちょっと意地の悪い言い方をしてみたけど、少しは発奮してくれそうね。今日の訓練はちょっと期待できそうかも。

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