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82.魔法はイメージとセンスよ

 「ヴィヴィ先生、本日もよろしくお願いしますわ。先ほども申しましたけど、わたくしの精霊様への大いなる思いを証明しますわ。(とく)御覧(ごろう)じろ、ですわ。」

 「? はい? ごろうじろう??」


 って何なの? ごろうじろう? 五郎さんと次郎さんの話? では無いような気がするけど、とりあえずスルーよ。理解したような顔で次に進むのよっ。


 「五郎次郎さんの事は置いといて、水魔法の修練です。」

 「はいっ、でも、ゴロージローさんて誰?」

 「え? 知りませんよ。私の知り合いにはそのような方はいらっしゃいません。」

 「わたくしにもそのような知り合いはいらっしゃいませんわ。」


 は、話がかみ合ってないわ。何か些細な間違いが、会話にズレを生じさせてる?

 もう、どうでもいい事だわ。この会話は放置よ。次に勧めなくなっちゃうわ。


 「え、え~、ゴホン、では水魔法の訓練に入ります。レオンティーヌ様も発生させた水球を浮かべておけるようになり、水魔法の操作もずいぶんと慣れてきていらっしゃるようです。」

 「はいっ、わたくし、がんばっておりますわ。フェリシー様にも届くぐらいにはなったのではありませんこと?」

 「いえ、まだまだでしょう。ひたむきな努力で飽くなき反復練習、それくらいの覚悟がなければとてもフェリシーちゃんには追いつけませんよ。」

 「が、頑張りますわっ。」

 「では、いつものように水球を出してください。」


 水の精霊に対してのお祈りの後に水球が出現する。まだまだ小さい、成人男性の頭の大きさぐらい。水の盾として使いたければ、自らの体の半分以上、できたら1m以上の水の球体が欲しいわ。


 「水の精霊の力は、まだまだレオンティーヌ様の周りを埋め尽くすように存在しています。レオンティーヌ様の精霊への思いとはその程度ですかっ。」


 私に言葉に、フヌヌヌヌ~と力を入れてブツブツとお祈りをつぶやくレオンティーヌ様。そんなに力を入れたら疲れちゃうでしょ。力を入れたから魔法が強くなるってわけでもないし。


 「力が入りすぎです。全身の力を抜いて自然体で。お祈りも心の中で唱えてみてください。」


 いつも私が言ってた事を思い出したように、はっとして力んで凝り固まった体から力を抜き自然体で立つレオンティーヌ様。

 足は肩幅に開き両手が下がり脱力状態、そこから両手が水球に向けて上げられる。目は閉じられ無言になる。

 きっと心の中で強く強くお祈りしているのね。


 大きくなったっ!! じわじわと大きくなる水球。

 大きくなった水球の直径はレオンティーヌ様の身長に迫る勢い。放っておいたらまだ大きくなりそうよ。このあたりで止めなきゃ。


 「レオンティーヌ様、目をお開けください。」


 えっ? という小さな声と共に目が開かれ、大きな水球を目にした驚きの声。


 「こ、これはっ!! わたくしが出した水球でございますかっ!!」

 「そうです。水の精霊に思いが届いたようです。その状態を維持してください。」


 私がレオンティーヌ様の横に並んで、ほぼ同じ大きさの水球を出現させる。その大きな水球からこぶし大の大きさの水球を分離させる。

 イメージをもちやすいように、レオンティーヌ様の目の前で実演してみたわ。


 「このサイズの水球を分離できますか?」

 「やってみますわ。」


 あ、スゴい、一回で簡単にできちゃったわ。やっぱり目の前で実演したのがよかったのね。


 「できましたわっ!!」

 「では、その水球を撃ち出します。」


 これも私が先に実演しておけば、イメージしやすいと思う。

 小さな水球を勢いよく射出。前方10mぐらいの地面に着弾した水球は、土を抉りながら水のシミを残して消失する。


 レオンティーヌ様がフンッ、と力を込めて撃ち出した水球。フヨフヨと弓なりに数mの距離を飛んで、地面にボチャンと落ち水たまりができた。

 大きな水球までが一緒に飛んでっちゃった。


 「あぁ~~、失敗ですわ。」


 一つを浮かせたまま、もう一つを移動させるのがまだ難しかったかもしれない。両手両足が全く違う動作をさせるのに、最初はうまくいかずにあたふたするようなものかしら。

 訓練の仕方を変えてみましょうか。


 「気を落とさないでください。失敗のうちには入りません。水球を前に飛ばす事ができたのです。うまく飛ばせた、と考えましょう。」

 「そ、そうですわね。うまく飛ばせましたわね。」

 「訓練方法を変えてみましょう。小さな水球を出してみてください。」


 私の前にこぶし大の水球を浮かべれば、レオンティーヌ様も同じように小さな水球を浮かべる。

 水球を撃ち出せば、今度は小さな水球を撃ち出すだけに集中ができていたようで、私の撃ち出した水球に匹敵するほどの速度と威力で地面を抉った。

 盾としての水球に意識を割くよりも、撃ち出すだけ、攻撃だけに集中させた方がレオンティーヌ様的には合っているかも。

 学園に入学したら騎士科の生徒が護衛に付くらしいし、あえて防御に力を入れなくても攻撃特化の魔法でも問題は無いでしょうね。


 「防御や攻撃にはそれぞれ得手不得手があります。レオンティーヌ様は水球を撃ち出す方が得意のようです。今回はこの攻撃魔法を伸ばしてみましょう。実戦で使えるほどのレベルに達したら、水の操作も上達しているでしょう。それから水の盾を練習してもいいと思います。」

 「ヴィヴィ先生がそうおっしゃるのなら、きっとそうなのですわね。」

 「貴族学園では騎士科の生徒が護衛に付くとおっしゃってました。防御は考えずに攻撃を強化してみましょうか。」


 今度は二つの水球を浮かべ時間差で射出、連弾となって前方の地面を深く抉る。


 「このように二つの水球を連弾で撃ち出せるように練習しましょう。最初は同時に撃ち出しても構いませんよ。」


 両手をかざした先に浮かぶ二つの水球。それが・・・ バシュン、バシュンと見事な連弾で撃ち出された。

 やっぱりレオンティーヌ様は攻撃系なのよ。防御なんて教えるべきじゃなかったのね。


 「できましたわ、ヴィヴィ先生。これなら盾の練習をしてもよいのですか?」

 「いえ、防御は考えずに攻撃の練習をしましょう。」

 「水の操作の練習だったはずですわ。難しい盾の練習をしなければいけないのではありませんこと?」


 そ、そうなのよ。難しいと思うことをクリアすることによって水魔法の操作方法も上達するはずなのよ。

 でも、一回でできたからと言って攻撃魔法が簡単だなんて思わないでいただきたいわ。


 「では、これができるようになったら盾の訓練に移りましょう。先ほどまでは水球でしたが水の槍に形状を変化させます。」


 私の頭上に一本の水の槍が浮かぶ。細く棒状の水槍、これが的に当たれば石をも穿つ水の如く、的を貫くのよ。

 シュバッと撃ち出された水槍、地面に超極細の深い穴を穿つ。

 これだけじゃ『簡単ね』なんて言われないように、私の頭上に10本の水槍を浮かべ次々に撃ち出していく。撃ち出して減る分は、間髪を入れずに補充させ撃ち出していく。


 「ヴィヴィ先生っ、お庭が・・・ 穴だらけですっ。」


 え? ええ、そうね。いくら細い穴でも大量の水槍を撃ち続ければ大きな穴もできるってものよ。


 「と、まあ、こんな風に水の操作が《《簡単》》にできるようでしたら、水の盾なんて難しい部類には入りませんよ。」


 簡単を特に強調してあげたわ。水の盾が難しいと思ってるのだから、攻撃だけの方が簡単ですよ、と受け止めてくれれば水槍の習得も早いんじゃないかしら。


 「ま、まさか・・・・・ 今のをわたくしにもやれとおっしゃるのですか?」

 「最初からたくさんの水槍を撃ち出せとは言いません。はじめは1本から、徐々に増やしてみましょう。」

 「盾の方が簡単じゃありませんことっ?」


 まさかの盾が簡単、なんて言葉が? 攻撃が簡単だと思い込ませたかったのに、見せた水槍のレベルが高過ぎちゃったかしら?


 「人それぞれに魔法の特性があります。レオンティーヌ様は防御をしながらの攻撃よりも、攻撃だけに集中すべきと考えました。攻撃魔法を上達させた上で、防御魔法を強化するか否かを考えてもよろしいでしょう。」

 「そこまで、わたくしの事を考えてくださっていたのですか。わたくしはヴィヴィ先生の期待に応えるためにも頑張りますわっ。」


 水を宙に浮かべる事は、魔法で引力の干渉を無視させてるという事だから、重力の影響を受けない水は表面張力で球体になろうとする。それを無理矢理細長い棒の形状にしようとするんだから、イメージを強く持たないとできないのよ。

 頑張るのはいいんだけど、魔法はイメージとセンスよ。


 レオンティーヌ様は頑張ったわ。その日のうちには一本の水槍を形成して撃ち出すことに成功した。

 複数の水槍を操れるようになるのも遠い未来ではないわね。

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