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40.だ 大失敗・・・

 男爵親子に打ち込み稽古をさせている間、フェリシーちゃんに水球の盾を教えている。

 フェリシーちゃんの水魔法に適応する力はめざましいものがあるわ。やっぱり人それぞれに適性があるって言われても、今回は納得できちゃいそうね。


 「上手よ、そのまま水球を維持して。そこから撃ち出せる小さな水球を分離させてみて。」


 フェリシーちゃんの前に展開されてる水球の盾から小さな水球が生まれ出る。


 「初めてだから威力はなくてもいいわ。あそこに立ってる木をめがけて撃ち出してみて。」


 えいっとばかりに撃ち出された水球は、見事にコントロールされて木に命中した。威力こそなかったものの、命中精度は素晴らしいわ。


 「ヴィヴィ先生、当たりましたっ。」

 「おめでとう、水魔法の防御と攻撃を覚えられたわね。攻撃の威力を増すには日々鍛錬よ。頑張ってね。」

 「はいっ、ありがとうございますっ。」


 さて、男爵親子は? 地面に座り込んで肩で息してる。休憩中ね。

 フロランタン様の元へ歩み寄り話しかける。


 「今日はもうお終いにしましょう。」

 「な、何を言っておる。ゼーゼー・・・・・  まだまだやれるぞっ。」

 「やれるかどうかではありません。時間は限られております。シイタケ栽培の説明をします。森へ行きましょう。」


 一応は口頭で説明はしたけど、しっかり理解してくれたのか不安だし、ちゃんと現地で説明した方が安心できるかな、って思う。

 フェリシーちゃんの貴族学園入学が、このシイタケ栽培が成功するかどうか、にかかっているのよ。


 「そうか、それはありがたい。よろしく頼むぞ。」

 「成功した暁には、フェリシーちゃんの貴族学園入学の資金として貯蓄して下さいねっ。」


 そうよ、これはしっかり釘を刺しておかなきゃ。儲かった利益を他の事に遣われちゃったら、フェリシーちゃんが学園に行けなくなっちゃうわ。


 「そうか、そのためのシイタケ栽培だったのか。うむ、その件は了解した。」

 「ヴィヴィ先生、私のためにありがとうございます。」




 村の農作業をしていた若者達を引き連れて森を歩く。(うつ)(そう)と生い茂る木々、木々の枝葉で日が遮られているせいか、あまり下草は生えていない。

 昨日のシイタケの採り残しが、ぽつぽつと見受けられる。


 「皆さん、シイタケの採り残しがありますが、採取しないで下さい。シイタケはこの傘の裏側、ヒダヒダの部分から胞子を飛ばします。その胞子が大きく育ってシイタケになります。シイタケを全て採り尽くさないようにして下さい。」

 「そうだったのか。昨日採り尽くさなくてよかった。」


 そうよ、何でもかんでも取り尽くすような事をしてたら、種が絶滅してしまうわ。ひいては環境破壊につながってしまうのよ。そうならないためにも資源を大事に使うことを教えなきゃね。


 「資源を大事にしましょう。だからこそシイタケ栽培を教えるんです。」


 教えるとは言っても、私だってシイタケ栽培なんかやった事ないし、本で見た事ある程度の知識しか無いんだけど、成功するのかしら。


 「あ、これこれ、ていうか・・・・・ 多分これがクヌギだと思います。これ切り倒して下さい。」


 けっこうな巨木だわ。まっすぐに上に伸びていて途中で二股に分れて上が2本になっている。あの二股の細いほうを長いまま横にかけて、短く切った丸太を立てかけるようにして・・・と、うん、いいんじゃない。

 一緒についてきた若者達が斧を振るって、横から打ち込んだり斜め上から打ち込んだりしながら三角に切り欠きができていく。。へ~、木ってそうやって伐り倒すんだ。樵の仕事なんて見た事なかったし、現地体験ができて勉強になるわね。

 え? 何々、半分もいかないうち、幹の3分の1とか4分の1程度で斧の打ち込みをやめちゃって反対側を鋸で挽き始めたわ。しかも、斧を打ち込んだ位置より高過ぎよ。一言もの申したくてうずうずしてるのをフロランタン様に見透かされていた。


 「この者達は私の先祖がマルテ村を切り拓いたときからの村民の子孫だ。木を伐る事に右に出る者は無い。この方角だ。ここに木は倒れる。」


 断言したわ、この男爵。ホントにそっちに倒れるって思ってんのかしら。

エッホエッホと鋸を挽く。若者達だけじゃない、フロランタン様まで若者と交代で鋸を挽く。

 皆が協力して鋸を挽いたおかげで、高さ15m程のクヌギが伐り倒された。いやいや、マジですか。フロランタン様が予言したとおりの方向に倒れましたよっ。


 「どうだ、木の立ち並んでいるその隙間を狙って伐り倒す技術、一朝一夕には身につかぬ技術だぞ。少しでもずれたら立木に引っかかって倒れなくなってしまうからな。」


 大いばりで自慢しまくりのフロランタン様。でも、倒す方角に対しての伐る技術はなんとなく理解できたわ。


 「伐る方法は分かりました。次は私が伐ってもいいですか。」

 「は? 女子供ができる仕事では無いぞ。そんな小さな体でどうやって斧を振るううというのだ。」

 「斧も鋸も使いませんよ。私には魔法があります。」


 次に伐るクヌギの前に立ち、伐り倒せる場所を探し廻りを見まわす。一番広く開いている隙間、この方角に伐り倒すのが無難じゃ無いかしら。

 伐り倒す方角を背にクヌギと向かい合う。魔法は風の刃、小さく絞って威力を強力にした風の刃を超高速で連射っ、連射っ、連射っ!!

 ガガガガッ、と音を響かせながら木くずをまき散らし、風の刃が木の幹の奧へ奧へと切り込んでいく。

 凄い凄い、自分でやってて驚いちゃうぐらい。この切れ味はチェーンソー並みだわ。

 あっ、幹の半分近くまで伐っちゃったけど、これって伐りすぎ? 私の方に向かって倒れてこないわよね・・・・・ 大丈夫そうね、まだまだびくともしないわ。

 次は斜め上から風の刃を超高速で連射っ、連射っ、連射っ!!

 三角に切れた後は幹の裏側に回って、三角に切った場所よりちょっと高めの位置を伐っていけばいいのよね。


 「ちょっと待てーっ!!」


 今までなんの反応もしてなかったフロランタン様が叫ぶ。なんでいきなり止められるのよ。そっちに目をやれば、呆けていた若者達も、フロランタン様の声で我に返ったような感じ?

 切り込みを入れた幹の根元に集まって、口々に騒ぎ立てる。


 「魔法、スゲーッ。」

 「斧も鋸もいらねえって、なんなんだ。」

 「俺達の仕事が無くなっちまうのか?」

 「ええーいっ、うろたえるなっ。魔法使いなどいなくても、我々はここまでこの村を発展させてきた。今さら魔法なんぞに頼ろうなどとはしないっ。」

 「し、しかし、フロランタン様、」

 「黙れ、魔法使いがマルテ村に住んでくれるわけではないのだ。立ち寄っただけの魔法使いに期待をするんじゃないっ。」


 また、私はやり過ぎちゃったの? フロランタン様の怒りを買ってしまった? 謝ったほうがいいかも。


 「申し訳ありません。余分な事をしてしまったようです。」

 「ん? いやいやそんな事はないぞ。魔法で伐れるんならやってもらったほうが便利だからな。」

 「魔法で伐る事に否定的じゃなかったんですかっ!!」

 「いや、簡単にできるのならそれを否定するつもりはない。ただ、無い物ねだりはするな、ということだ。居ない魔法使いを、居たらあれができる、これができる、などと依存した考えを持って欲しくない。

 で、ここだ、ここを伐るんだ。深さはここまでだ。これ以上伐ると倒す方向を制御できなくなるぞ。」

 「やっぱ、伐るんですかっ!!」


 まあ、私が伐り倒すつもりで始めたことだし、最後まで責任を持って伐り倒さなきゃね。

 フロランタン様が指示した位置へ風の刃を超高速連射、ガガガガッと伐れていく幹。そして、フロランタン様の大声。


 「止めろーっ!!」


 え? 伐り過ぎちゃったかしら。どんな状況なの。ちょっと離れた場所で真横から見ていたフロランタン様が肩をすくめる。

 ちょっとー、失敗? そのリアクションって・・・・・  失敗なのね。

 ミシミシという音と共にクヌギが傾き始めた。ちゃんと倒そうと思った方向に傾き始めてるじゃない。これは誰がどう見たって大成功でしょうっ。

 あ・・・・・    ガサガサガサーッという音と共に倒れたクヌギ、他の樹木の枝同士が絡み合って引っかかっちゃった・・・・・   だ・・・・・ 大失敗・・・・・


 「ご、ごめんなさい。失敗しました。」

 「伐った断面が少し斜めになってたな。まあ、大丈夫だ。こういうのは失敗しながら仕事を覚えるものだからな。」


 きこりを仕事にするつもりはありませんよっ。とは思っても口には出しませんっ。失敗したのは私ですし。

 でもこの状況をなんとかしないといけないわ。あの引っかかってる枝を風の刃で切れるかしら。それさえ切れれば過分倒れてくれるはずよ。


 「おい、誰か木に登って枝切ってこれるか。」

 「あ、じゃあ、俺が行ってきます。」


 若者達の中の一人が申し出るけど、私の失敗なのよ。私に最後までやらせて欲しいわ。


 「待って、私が責任を持って倒します。やらせて下さい。」

 「ヴィヴィ先生に木登りなど、そんな危険な事はさせられぬぞ。」

 「木登りなんかしませんよ。私には魔法があります。安全な所まで離れて見ていて下さい。」


 みんなが安全な所まで離れていく。もちろん私だって安全な所へ移動するわ。魔法を放って倒れた木の下敷きに、なんて間の抜けたことはしたくないわ。


 安全な場所を確保、っていうよりも『ここなら安全だ。』という場所に立たされ後ろにはフロランタン様が控えてる。万一危険が迫っても私を抱きかかえて避難してくれるって言ってるけど、多分必要はないわね。


 枝がお互いに絡み合って、一本の枝を切り飛ばしたからといって、簡単に倒れてくる訳じゃないみたい。


 「あの引っかかった枝を切っても簡単には倒れないぞ。その下に張りだしてるあの枝、それとその下の枝を切れるか。それが切れたら絡み合った枝を切ってくれ。」


 大丈夫、そのくらいの枝なら一発で切れる・・・・・ と思うんだけど、失敗したらまたごめんなさいしなきゃ。


 ちょっと強めの風の刃、狙いは下側の枝2本。発射された二つの風の刃は狙い違わず見事に命中。切り飛ばされた枝が後ろへ吹き飛ぶ。

 もう一丁、絡んだ枝に風の刃を放てば、ガサガサバキバキという音と共に、枝がこすれ小枝が折れながら、ズーンと地面を響かせながら大木が地に倒れる。


 「お見事っ。ヴィヴィ先生、このままきこりとしてマルテ村に定住してくれると助かるな。」

 「きこりなんて、嫌ですよっ!!」

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