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33.一本っ!!

 「ヴィヴィ、ヴィヴィ、もう出発よ。起きて防御結界を解除して。」


 あ・・・・・ そうだ・・・ バリア 解除しないと・・・


 「ヴィヴィ、起きなさいっ。」


 強い口調のニコの声、はっと目が覚めた。そ、そうよ、バリアよ。みんなに迷惑がかかっちゃう。


 もう馬車は馬も繋いであって出発するばかりの状態だわ。私だけが寝ぼけた状態で毛布にくるまってたのね。


 「ご、ごめんなさい。今解除するわ。」


 バリア解除をマナに念じれば・・・・・ も、もう消えてるはずよ。


 「もう、大丈夫よ、出発しましょう。」


 大丈夫とは言ってもちょっと心配だったから、バリアがあったはずの所まで走って行って確認して・・・ うん、確かに消えてる。大丈夫よ。動き始めた馬車をこっちこっちと手招きする。

 3台目のベルトランさんの馬車が来たところで、馬車に乗り込んでソフィの横に腰を下ろす。

 はい、と差し出された皿の上には、肉よっ。そうよ、肉を焼く香りがしてたのよ。朝ご飯はお肉だったのね。でも焼きたてアツアツのお肉を食べたかった~。

 誰が悪いというわけではないわ。全てはお寝坊な私が悪いのよっ!!

 でもお腹減ってるから食べるんだけど。



 お肉食べながら馬車にゴトゴトと揺られ・・・・・ 瞼が重くなって・・・・・



 はっと気が付いた時には荷物にもたれかかって・・・? あれ? 荷物じゃない、ソフィの胸ににもたれかかって寝てた。


 「ごめんなさいっ、また寝ちゃってたわ。」

 「あ、いいのよ。疲れてるみたいだし。」

 「私達はこの商隊の護衛なのよ。私一人で惰眠を、」


 言葉をさえぎって私の両肩を掴み、言い聞かせるように話しかけるソフィ。


 「ヴィヴィ、あなたはまだ小さな子供なの。あなたの成長には充分な睡眠が必要だと思うわ。朝出発前にみんなで話し合ったんだけど、ヴィヴィは休めるときには極力休んでもらおうって事になったわ。」

 「でも、」

 「ヴィヴィの狼との戦いを見て『ホークアイ』のみんなが言い出したのよ。ヴィヴィがなんでも背負おうとは思わずにもっと大人に任せてもいいと思うわ。」


 ソフィの言葉は温かくて、『ホークアイ』のいたわりがありがたい。ソフィの胸にぎゅっと抱きついて、


 「うん、ありがとう。」


 ソフィの腕に力がこもり抱きしめられた。


 「私はヴィヴィほどの魔法使いじゃないけど、もっと私を頼って欲しいな。」


 私はいつも妹を護りたいと思ってきたから、お姉ちゃんに頼りたい甘えたい、って気持ちがいまいち分かんないんだけど、大丈夫、これからはソフィにいっぱい甘えるわ。頼りにするわ、お姉ちゃん。



 ガラガラと進んでいる馬車が速度を落として進んでいく。おや?、と思ってベルトランさんの肩越しに前方を覗けば、家が点在している場所を馬車が進んでる。

 村よっ。マルテ村へ着いたんだわ。


 「ヴィヴィさん、この村には宿屋がありません。この村では領主様の邸の離れをお借りしています。」

 「ムーレヴリエ子爵領から近いのに、違う領主様がいるんですか。」

 「何代か前に武勲をたてたとかで男爵位を叙爵されたそうです。フロランタン・ムーレヴリエ男爵様です。同じ姓ですので間違えないようにして下さい。」


 ラザール様のご先祖様の分家という事ね。間違えないようにしなきゃ、って、別に私達が男爵様にお目通りすることもないし、そんな杞憂はいらないわよね。

 進んでいた馬車が一軒の邸の前で止まる。

 塀に囲われているわけではなく、門兵が立っているわけでもなかった。いたって普通な大きなお屋敷ね。


 「挨拶に行ってきますので、待ってて下さい。」


 馬車から降りようとしているベルトランさんに、駆けよってくるおじさん。馬車が物珍しくて、野良仕事をほっぽり出して走ってくる農民ね。浅黒く日焼けして首には手ぬぐいを巻き付けてる。


 「よく来た、よく来た、今回も何かいい物を持ってきたか。」


 ベルトランさんと顔なじみの農民なのね。それにしてもなれなれしいわね。


 「これはこれは、フロランタン様、お元気そうで何よりです。」

 「農民じゃないんですかっ!!」


 ばっと私を振り返り慌てて注意をするベルトランさん。


 「こちらがフロランタン・ムーレヴリエ男爵様です。失礼の無いように。」


 あ、あ、ついつい口から出てしまったわ。これは私のミスなんだから私が謝ってお許しをいただかなきゃいけないわよね。馬車から跳び降りる。


 「よいよい、その程度は失礼とは思わん。」


 あ、フロランタン様も庶民に寄り添ういい領主様なのかしら。だからといって謝罪がいらないわけじゃないわ。

 片膝をつき頭を垂れる。


 「男爵様とはつゆ知らずご無礼を致しました。申し訳ございません。お許し頂けますでしょうか。」

 「こりゃまた幼いながらもしっかりした子供だ。こんなことで無礼だとも失礼だとも思っておらん。顔を上げなさい。」

 「ありがとうございます。」


 なんのおとがめもなく、お許しを頂いたということでいいのよね。じゃ、私はもうこの場に必要はないって事で馬車の中に戻りましょ。


 「待て待て待て、名はなんというのだ。」

 「ベルトランさんの商隊の護衛に着いているハンターパーティーの一員という事じゃダメでしょうか。」

 「ハンター?

 こんな小さな子供がハンターで護衛って、大丈夫なのか?」


 男爵様はベルトランさんに問いかけてる。


 「フロランタン様、ヴィヴィさんを見くびってはいけません。大人顔負けのハンターですよ。」


 いぶかしげな眼差しを私に向けながら語りかけてくる。


 「そうか、ヴィヴィというのか。しかし、ハンターは10歳以上でなければダメだろう。」

 「ハンターパーティー『風鈴火山』リーダー、ヴィヴィにございます。10歳でございます。」


 「リーダー? まさかその娘もパーティーのメンバーだとは言わないだろうな。」


 指を指す先、ベルトランさんの馬車、え? っと後ろを振り返れば、あわてて顔を引っ込めるソフィ

 こ、これは、へりくだったほうがいいような気がする。もう一度膝をつき口上を述べる。


 「申し訳ございません。あの娘はお貴族様とはお話しする機会が少なく、失礼がありましたようですがあの娘も我がパーティーの一員にございます。」

 「ああ、すまんな。子供のハンターごっこであったか。それなら、うちの息子も仲間に入れてやってくれ。」

 「子供のお遊びなどと一緒に、」

 「父上っ、この子供は何者ですかっ。」


 突然邸の中から走り出てきた子供、ソフィよりちょっと小さいぐらいかしら。


 「商隊についてきたハンターごっこの子供達だ。ジェローム、遊び相手ができてよかったじゃないか。」

 「そうかっ、ハンターごっこか。こっちへ来い。」


 ジェロームと呼ばれた男の子が手を伸ばしてきた。当然ひょいとよけるわよね。私の手首を掴もうと伸ばされた手、あれ? この子は左利きなのかしら、左手は空を掴む。きょとんとした顔でまた手を伸ばすジェローム。

 ひょい、スカ、ひょい、スカ、ひょい、スカ、なんか面白い遊びを見つけたみたいになってるっぽいんですけどっ。


 「フロランタン様、私共は商隊の護衛中です。ここでお子様相手に遊んでいる暇はございません。」

 「誰がお子様だっ。」

 「待て、ジェローム、

 ヴィヴィ、ごっこではないのか。」

 「先程も申し上げましたが、ヴィヴィさんはれっきとしたハンターですよ。知識も豊富で、今回お持ちしました商品にヴィヴィさん発案の商品も含まれております。」

 「なにっ、そうか、どんな物を持ってきてくれたんだ。中へ入ってくれ。」

 「父上っ、コイツは僕を子供扱いしたんですよ。」


 ジェロームがまたもや掴みかかってきた。父親の『よせっ!!』の言葉は無視をされ、今度は首根っこを掴もうとでもしてるのか、首元へ開いた左手が伸びてくる。

 右手で袖を掴み上に跳ね上げる。左手はジェロームの襟を掴み左に体を回転させる。ジェロームは私に掴みかかった時点で重心が前のめりになっていたから、難なく背中に背負い放り投げる。

 一本っ!! 袖釣込腰よっ、

 仰向けで私を見上げてるジェローム、よせっ、と言ったまま口が閉じられてない男爵、目を見開いたベルトランさん。場が凍ってるわっ。誰か氷魔法でも放ったのっ。

 最初に声を発したフロランタン男爵。


 「ま、魔法・・・・・ ではないな。今のは、何をしたのだ。」

 「このようにわたくし、か弱き少女ゆえ、」

 「誰が少女だと?」


 え? 私、少女認定されてなかった? 確かにヘンな帽子とメガネで性別はわかりにくくなってると思うけど、男の子に間違えられるなんてひどいわっ。これは同じ言葉を繰り返してやるわ。


 「わたくし、か弱き少女ゆえ、護身術を少々たしなんでおります。」

 「ウソをつくなっ!!」


 ジェロームが飛び起きて飛びかかってきた。自分よりも小さな子に投げ飛ばされた事に腹を立てたのか、なんの考えもなしに(はん)()になって左手が伸びてくる。そう、半身になるって事は左手と共に左足が一緒に出てくる。

 今度はその左袖を掴んだら右下に引っ張り、ジェロームの重心が左に寄る。その左足が地面に着く寸前を私の右足が払う。地面を踏みしめるはずの足が払われ、あおむけになって背中を打ち付ける。

 一本っ!! 出足払いよっ。

 またもや仰向けで私を唖然と見上げてるジェローム、今度は慌てて飛び起きて私との間を置く。

 ちょっと、この子二回も地面に叩きつけられたのにタフ過ぎじゃない? 頭が地面に叩きつけられないようには、してあげたんだけどね。でも受け身っぽいのはできてるみたい。体術の心得があるのかしら。


 「ヴィヴィ、何をしているのですかっ!!」


 テオが一番後ろの馬車から飛び出てきた。これだけの騒ぎになれば聞こえもするわね。ニコは?、と振り返れば馬車から覗いていたニコと目が合う。一部始終を見てたのかしら。まあ、子供同士の諍いとして傍観してたみたいね。

 私の所に駆けつけたテオ、何が起きたのかを把握しようと見まわしてる。

 男爵が先に声を掛けた。


 「ああ、すまんな。君はヴィヴィの関係者か。」

 「ええ、そうですが、あなたは?」

 「テオさん、こちらはフロランタン・ムーレヴリエ男爵様ですっ。ヴィヴィさんが男爵様のご子息を投げ飛ばしてしまったのです。」


 慌てたベルトランさんの言葉に、ギンッと私を睨むテオ。


 「いったい、何をしたのです。」

 「そこの子が私に掴みかかってきたから、投げ飛ばしただけよ。」

 「ヴィヴィ、そのような騒ぎになることは控えましょう。

 男爵様、申し訳ありません。」

 「いや、今のは明らかに我が愚息が悪い。謝るのはこちらだ。

 ジェローム、こっちに来てヴィヴィに謝れっ。」

 「な、なんで僕がこんなやつにっ。」

 「おまえはヴィヴィに二回殺されていると思えっ。剣の稽古でも打ち据えられてもすぐに立ち上がれと教えたな。それはなぜだっ!!」

 「ケガをしても生き延びるためですっ。」

 「投げ飛ばされて呆けていたな。その時ヴィヴィは反撃に備えおまえから目を離さなかった。その場でトドメを刺す余裕もあったということだ。戦場であったなら二回死んでいる。ヴィヴィを見下した事に謝罪、そして、このような美しい技を体験させてもらったことに感謝しろ。」


 え~~、どうせいやいやながらの『ごめんなさい』だろうし、心のこもらない『ありがとう』も聞きたくないんですけど。

 うわ~、ホントに嫌そうな顔で私の前まで来たよ。よほど父親に厳しく育てられているのか、命令なら従うのね。だけどっ


 「ごっ」


 頭を下げようとしたジェロームの額に人差し指を突きつける。頭を下げることができないばかりか、ご、の次の言葉も告げられない。


 「謝罪はいりませんっ。足を引きずってるようです。私のせいでケガをしているようでしたら、私が謝罪します。申し訳ございません。

 ソフィ、治癒をお願い。」


 馬車の中から恐る恐る降りてきたソフィが私達にに近づく。


 「こ、こんなのはケガのうちには入らないよっ。」


 腰を地面に二度も打ち付けてるのよね。お尻のあたりをバチ~ンと叩いてやった。


 「いて――――っ!!」


 その場に膝をつき立ち上がれなくなったみたい。


 「ちょっと、ヴィヴィ、ひどい事しないでっ。ケガ人なのよ。」

 「だって、やせ我慢するんですもの。」


 ソフィがジェロームに駆けより治癒魔法を発動。


 「うわ~、あったかい。痛みがなくなってく。」

 「なんとっ、治癒魔法を使えるのか。子供ながらにハンターだというのも頷ける。」

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