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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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七十六話 素直

 NPCの子供を探すために、タゴサクたちは【死者の館】を訪れた。

 最奥に到達すればボスモンスターが出現したが。


「うわっ、こりゃ酷い」

「気持ち悪いですね」


 ボスの姿を見たタゴサクとイアは、おぞましさにうんざりした声を漏らした。


「私の目にはモザイクしか見えないけど、どんな外見なの?」


 ソーニャは装備している【モザイク眼鏡】の効果が発動し、モザイクしか見えていないようだ。

 見えない方が幸せだと思う。


「デュラハンっつうのか? 首のない鎧だが、鎧の模様が子供の顔になってる」

「全身顔だらけで、妙にリアルだよ。武器の剣だけが普通」

「趣味悪いわね」


 本物の子供の顔をはいで貼り付けているのではないと思う。

 あくまでも鎧の模様だ。顔を刻んであるだけだ。

 だとしても悪趣味だし気持ち悪い。


「さっさと倒そう。ソーニャ! イア!」

「了解! 【ライジングサン】!」

「【乱れ純黒(カオスティックピュア)】!」


 三人での連携は慣れたものだ。

 まずは二人に攻撃してもらい、タゴサクが奥義を使う時間を稼いでもらう。


「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】!」


 イアも大好き、ネコサクへの変身である。

 もふられる時もよく使うが、戦闘でも有効な奥義だ。

 変身完了までは少し時間が必要なので、一人で戦うと使いにくい。他のスキルなどで敵を足止めしてから使わなければ、変身中にやられるだけだ。

 三人パーティーならではの特徴を活かしたやり方になる。

 ネコサクに変身すれば、すぐさま次の奥義を。


「【星ヲ滅ボシ獅子ノ王(ゾディアックレオ)】!」


 ネコサク改めシシサクになる。

 紺碧の髪が、鈍色の獅子の(たてがみ)になれば変身完了だ。


「交代だ!」


 イアに代わり、シシサクが前に出る。

 下がったイアも、発動に時間のかかるスキルを使う。


「【三途黒鬼(ステュクスオーガ)】!」


 漆黒の鬼に変貌し、使用者のステータスをアップするスキルだが、熟練度はとっくに最大まで上げている。

 なにせ、タゴサクたちがコモンステラにいる頃から覚えているスキルだ。

 何度も使用しているし熟練度も溜まる。奥義の【復讐ノ憎悪ガ滾ル鬼(ネメシス)】は、このスキルの熟練度を最大にしたからこそ覚えられた。


 熟練度が最大になっても、スキルや魔法を入れるケースはある。

 強力なので入れたい、特定の戦闘でのみ入れる、などが理由だ。

 イアの場合は違い、「格好いいからです!」との返答があったから呆れる。

 厨二病患者の女子高生は健在だった。


 厨二病の少女が黒鬼となり、シシサクと一緒にボスをボコる。

 ボスも剣で攻撃してくるが、構わず至近距離に張り付いてボコボコに。


「絵面が悪過ぎるわね。清らかなのは私一人だわ」


 後ろから、ソーニャの勝手なセリフが聞こえた。


「お前も攻撃しろよ!」

「お兄ちゃんもイアも、ボスに近付き過ぎなのよ。フレンドリーファイアが怖いから無理。私の魔法で死んでもいいなら攻撃するけど」


 ボスを殴りつつソーニャに苦言を呈せば、真っ当な理由が返ってきた。

 サボっているのではない。手を出す隙がないのだ。

 三人もいると、全員が無駄なく攻撃するのは難しい。誰かが手を出せなくなることもしばしばだ。

 ならば、無理にそろって攻撃する必要はない。交代でやればいい話だ。


「俺は一旦下がる!」

「【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ(ゲイボルグ)】!」


 イアの奥義で、無限の槍がボスの鎧を穿つ。

 抑えてくれている間にシシサクは下がった。【星ヲ滅ボシ獅子ノ王】の効果が切れてタゴサクに戻る。

 奥義の効果が切れるから下がった。あのまま張り付いていてもよかったが、小休止してソーニャにバトンタッチする方がいい。


「【虹ノ二番ハ橙々キ雨(レイニーボウ)】!」


 タゴサクがいなくなった場所を縫うように、ソーニャの奥義が突き刺さった。

 ソーニャも後衛に慣れており、連携がうまくなっている。


「サクさん!」

「【流星帝(スターロード)】!」


 スキルの効果が切れるイアと交代し、今度はタゴサクが前に。

 ボスに連続突きをお見舞いする。

 ボスの攻撃も激しいが、こちらは三人もいるので対処できる。タゴサクとイアが交互に前衛をやり、ソーニャは安全な後方から魔法を放つ。

 アイテムでHPを回復する余裕もあるし、ボスを相手にしていながらピンチに陥ることもない。

 油断はできないが、負ける要素はなさそうに思う。


「サクさん!」

「ん? 【極悪剣(インピアスソード)】!」


 今回の交代は、やけに早かった。

 不測の事態でも生じたのか知らないが、疑問に思いつつも攻撃する。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 タゴサクの奥義がとどめとなって、ボスは倒れた。

 ボスの莫大な経験値を入手する。アイテムのドロップはないが、経験値はおいしかった。


「ちぇっ、お兄ちゃんに取られた」

「悪いな。でも、恨みっこなしだぞ」

「分かってるわよ。それが私たちのルールだものね。ただ、イアには別の考えがあるみたいだけど」

「な、なんのこと?」


 ソーニャに話を振られたイアは、挙動不審になっていた。

 隠し事がありますと態度で語っている。


「お兄ちゃんに交代するの、妙に早くなかった?」

「た、たまたまだよ、たまたま。偶然、偶発、ぐうの音も出ない」

「意味不明なこと言っても誤魔化されないわよ。お兄ちゃんにとどめを譲ろうとしたでしょ?」

「マジで? 俺のためだったのか?」


 交代が早いとは感じたが、タゴサクにとどめを譲るためとは思わなかった。

 これまでもモンスターやボスと戦ってきたが、特別な場合を除き恨みっこなしでやっていた。あえて譲る必要はない。


「健気ねえ。お兄ちゃんが強くなれるように、こっそり支援しようとか」

「違うもん! これはあれだよ! わたしはご主人様だから、ペットにはご褒美をあげないと!」

「お兄ちゃんがご褒美もらえるような真似したの?」

「これからしてもらうの! サクさんは、あとで猫ちゃんです!」

「いくらでも猫になるぞ。ありがとう、イア」


 さすがに、適当にでっちあげた嘘だと理解できる。

 ボスを譲ってくれたのはイアの心遣いだった。

 それ自体は嬉しいし、健気で可愛いが、いつも譲られては申し訳ない。


「基本的には恨みっこなしでやろう。これまで通りだ」

「今日はたまたま気が向いただけです。たまたまですよ!」

「いつからツンデレキャラになったのやら」


 さっさとくっつけばいいのに、と。

 ソーニャの呟きが聞こえた。


 ラブコメっぽいやり取りもいいが、ボスを倒したのだからNPCの子供を助けなければならない。

 絵の中に閉じ込められていた少年が解放されて、床に倒れていた。


「この子を守りながら戦う展開にならなくて、助かったな。守りながらだとこんなに簡単には勝てなかった」

「ソロでも戦える設定になっていたのかもしれません」

「私たちは三人だから守れるけど、ソロじゃ厳しいのね」


 考察もいいが、少年の様子を確かめる。寝息が聞こえるので、眠っているだけで死んではいない。

 少年の周囲には子供用のおもちゃも散らばっている。

 少女向けが多い。人形やビーズのアクセサリ、押し花の栞といった物だ。


「この男の子は、これを探しにきたのか? 町でいくらでも買えるだろって突っ込むのは野暮かな」

「何か考えがあったんじゃないの? とりあえず連れて帰らないとね。NPCを連れた状態で、ダンジョンから脱出できるの? アイテムで町まで転移とかさ」

「試してみりゃいい」


 落ちているおもちゃはアイテムとして収容できた。

 NPCはアイテム扱いにはできず、タゴサクがおぶって行く。

 ダンジョンからは脱出でき、転移用のアイテムも問題なく使えた。

 四人で【真南都(しんみなと)カンナ】に戻る。


 少年の家まで連れて行けば、両親からお礼を言われた。

 少年もすぐに目を覚ました。絵の中に閉じ込められていたが、その時の記憶はないし後遺症もない。

 おもちゃを渡せば【死者の館】に行った理由を聞かせてくれる。


「仲直りするために、プレゼントを贈りたかったの。お父さんやお母さんに買ってもらった物じゃなくて、ボクが手に入れたおもちゃを」


 わざわざ【死者の館】に行ったのは、こういう理由だった。

 子供が大好き(意味深)な男性が住んでいた館で、小さな女の子用のおもちゃが大量にあるから探しに行ったらしい。


「自分でおもちゃを入手しようとする心意気は立派だが……」

「女としては、【死者の館】なんて場所にあった物をもらってもねえ」


 タゴサクとソーニャは現実的な部分が気になっているが、イアは違う。


「素敵じゃないですか! これですよ! 男の子はこうでなくちゃ! サクさんは見習ってください!」


 このように大絶賛だ。タゴサクと少年を比較し、見習えとまで言っている。

 イアの褒め言葉に少年は喜び、喧嘩の理由も話してくれる。


 少年が大事にしていた本を、女の子が汚してダメにしてしまった。

 女の子は謝っていたのに許せず、そのまま引っ越したせいで会えなくなった。

 離れてから後悔する。仲直りしておけばよかったと。


「ごめんなさいって手紙を書くの。素直になれなくてごめんなさいって。仲直りの印にプレゼントも贈るんだよ」

「ますます素敵です! 将来は格好いい男性に成長しますよ!」


 タゴサクへの当てつけのようにべた褒めするが、素直になれなかった二人が仲直りできてハッピーエンドなのはいいと思う。

 SOSのクエストにしては綺麗な結末だ。


「将来は、ボクのお嫁さんになってくださいって言うの!」

「ませたガキだな」


 ハッピーエンドには違いないが、結婚まで話が飛ぶとはませている。

 見た目は十歳にも満たないお子様なのに。


「さらにさらに素敵です! 一途に愛するのはとっても大事ですよ! その気持ちを忘れないでください! 女性に見境なしになっちゃダメですよ!」

「ませたガキっつったが、素直になれる分だけどっかの誰かよりも大人だな。どっかの誰かよりも」


 イアが少年を褒めちぎるのが面白くなくて、タゴサクも皮肉を口にした。

 素直になれない「どっかの誰か(イア)」への嫌味だ。


「わたしは素直ですよ。猫ちゃんが大好きです」

「俺が猫にならなくなったら、イアにとっては価値のない男になるのか?」

「そ、そうですよ。猫ちゃんのサクさんだから好きなんです」

「俺はイアの全部が好きだぞ」

「はいはい、サクさんは口がうまいですね」

「ほんと、素直じゃないわねえ」


 二人の言い合いを聞いて、ソーニャがまとめた。

 イアが素直じゃないのはいいとして。

 タゴサク的にはあまりよくないが、ゲームを進める。当初の目的である【水の国トゥーリバー】の女の子から預かった荷物を少年に渡した。

 中身は本だ。そして、タゴサクたちには本の内容が重要だった。

 女神ニフナジュレタの物語だったのだ。


「ビンゴだ!」


 女神の居場所が書かれている。そこへ行けば女神のイベントを一つクリアだ。


「ここまで苦労して、やっと一つか。大変よね」

「見つかっただけよかったじゃないか。準備して、早速行ってみよう」


 荷物運びのクエストは、少年に本を渡したことでクリアになった。

 クエスト報酬はなくとも、今は女神の情報が一番の報酬だ。

 本によると、単に女神の居場所に行くだけではイベントクリアにならない。

 川の水が必要だった。【水の国トゥーリバー】にある川の水と【真南都カンナ】にある川の水が両方だ。


「【水の国トゥーリバー】は川の上にある町だからいいとして、【真南都カンナ】に川ってあったか?」

「NPCに聞いて回るしかないわね」

「情報集めは任せていい? わたしは【水の国トゥーリバー】に行って、水を汲んでくるよ」


 三人で手分けし、女神に会うためのアイテムを集める。

 タゴサクとソーニャは川の場所を聞き、イアは水の入手だ。

 川は、フィールドに出て少し歩けばあると分かった。イアも水を入手して戻ってきたので、フィールドに出る。

 何度も往復して大変だが仕方ない。


 荒れ果てた大地を往けば、ほとんど干上がっている川があった。わずかだが水が残っているので入手する。

 次いで別の場所に行くと、一本の木が見つかった。

 枝には葉も花もついておらず、枯れた木だ。


 この木の下で愛を語り合った恋人は、女神様の祝福を受けて幸せになれるという逸話があるらしい。本に載っていた。

 女神様が恋人たちを見守っていてくれる。

 いかにもトキヒメが作りそうな設定だ。

 ただし、見ての通り枯れているため、女神様の祝福は受けられない。

 木を復活させる必要がある。


「水を使えばいいんだよな?」

「本に書いてあった通りならね」


 二つの町で入手した水の力により、木が復活する展開だ。

 三人で木の根元に水を撒く。

 すると、木が輝き出し、枯れ枝に金色の花が咲き乱れた。

 まばゆい光を浴びて、タゴサクは反射的に目を閉じる。

 目を開けば、金色の花を咲かせる木の枝に、女神様がちょこんと腰掛けていた。

 女神ニフナジュレタだ。


「ワタシを助けてくださり、感謝します。これで皆を愛することができます」


 お礼を言ってくれてから、女神様はアイテムをくれた。

 水を撒いたのが三人だからか、三人とも入手できたのはラッキーだ。

 指輪の装備品で、イアが入手した【ニフナジュレタの祈り】と同じくアクセサリになる。

 名前は【ニフナジュレタの癒し】だ。

 装備していれば、一度だけHPを全快できる。使用後は壊れてしまうので、使い捨ての装備になる。


「女神様の装備っていくつもあるのね。武器とか防具とかもあるのかしら」

「どうだろうな。全部アクセサリって可能性もある。他のMMORPGなら、ゲーム内で一本だけの最強の剣とかになるんだろうが」


 SOSにはオンリーワンの装備は存在しないため、クエストをクリアすれば全員が入手できる。

 女神のクエストをこなし、剣を入手しているプレイヤーもどこかにいるかもしれない。

 タゴサクも剣が欲しいが、狙って入手するのは困難だ。


「新しい剣が欲しい」

「今の装備は買ったばかりでしょ?」

「所詮は店売りだし、誰でも買えるからな。MMORPGをやってるなら、やっぱレア装備が欲しいだろ。俺だけの特別装備じゃなくてもいいが、モンスターのレアドロップとかさ」

「まあ、私も新しい服は欲しいけどね。和装とかないかな」

「わたしは槍が欲しいです。いまだに【冥骸槍(めいがいそう)グラムガラム】なんですよ」


 イアの装備は、ジャパンステラにやってきた時に購入してから変わっていない。

 レベル100そこそこの時から使い続けているし、更新する時期だ。


「俺はコローレステラで剣を買ったが、イアも買えばよかったじゃないか。今の槍よりは強くなるだろ」

「格好いいのがなかったんです。【冥骸槍グラムガラム】みたいに格好いい名前の武器が欲しいんです」


 名前の格好よさにこだわるのが、厨二病患者のイアらしい。


「じゃあ、ダンジョンの宝箱やボスのドロップで、装備を狙ってみるか? うまくいくかは分からんが」

「いいですね」

「女神の情報集めはどうするの?」

「一日や二日なら、寄り道しても大丈夫だろ。夏休みだし時間はあるんだ」


 明日は新しい装備を探してみることになった。

 今日の残り時間は何をするかというと。


「猫ちゃん」

「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】」


 約束通りネコサクになって、もふもふの刑に処された。


「ニャーって鳴いてください」

「そこまで堕ちる気はない」

「鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、サクさんを。ほらほらほら、これがいいんですよね? 鳴くんです!」

「やめ……それは強……あへぇ」

「『あへぇ』じゃないです。『ニャー』です。鳴いちゃえ!」

「緊急連絡。ミディーリ助けて。お兄ちゃんとイアがマジでヤバい、と」


 ネコサクは喘ぎ、イアはドSキャラに変貌、ソーニャはミディーリにヘルプを求める。

 平和な夏休みだった。

 繰り返すが、平和なのだ。

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