七十六話 素直
NPCの子供を探すために、タゴサクたちは【死者の館】を訪れた。
最奥に到達すればボスモンスターが出現したが。
「うわっ、こりゃ酷い」
「気持ち悪いですね」
ボスの姿を見たタゴサクとイアは、おぞましさにうんざりした声を漏らした。
「私の目にはモザイクしか見えないけど、どんな外見なの?」
ソーニャは装備している【モザイク眼鏡】の効果が発動し、モザイクしか見えていないようだ。
見えない方が幸せだと思う。
「デュラハンっつうのか? 首のない鎧だが、鎧の模様が子供の顔になってる」
「全身顔だらけで、妙にリアルだよ。武器の剣だけが普通」
「趣味悪いわね」
本物の子供の顔をはいで貼り付けているのではないと思う。
あくまでも鎧の模様だ。顔を刻んであるだけだ。
だとしても悪趣味だし気持ち悪い。
「さっさと倒そう。ソーニャ! イア!」
「了解! 【ライジングサン】!」
「【乱れ純黒】!」
三人での連携は慣れたものだ。
まずは二人に攻撃してもらい、タゴサクが奥義を使う時間を稼いでもらう。
「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】!」
イアも大好き、ネコサクへの変身である。
もふられる時もよく使うが、戦闘でも有効な奥義だ。
変身完了までは少し時間が必要なので、一人で戦うと使いにくい。他のスキルなどで敵を足止めしてから使わなければ、変身中にやられるだけだ。
三人パーティーならではの特徴を活かしたやり方になる。
ネコサクに変身すれば、すぐさま次の奥義を。
「【星ヲ滅ボシ獅子ノ王】!」
ネコサク改めシシサクになる。
紺碧の髪が、鈍色の獅子の鬣になれば変身完了だ。
「交代だ!」
イアに代わり、シシサクが前に出る。
下がったイアも、発動に時間のかかるスキルを使う。
「【三途黒鬼】!」
漆黒の鬼に変貌し、使用者のステータスをアップするスキルだが、熟練度はとっくに最大まで上げている。
なにせ、タゴサクたちがコモンステラにいる頃から覚えているスキルだ。
何度も使用しているし熟練度も溜まる。奥義の【復讐ノ憎悪ガ滾ル鬼】は、このスキルの熟練度を最大にしたからこそ覚えられた。
熟練度が最大になっても、スキルや魔法を入れるケースはある。
強力なので入れたい、特定の戦闘でのみ入れる、などが理由だ。
イアの場合は違い、「格好いいからです!」との返答があったから呆れる。
厨二病患者の女子高生は健在だった。
厨二病の少女が黒鬼となり、シシサクと一緒にボスをボコる。
ボスも剣で攻撃してくるが、構わず至近距離に張り付いてボコボコに。
「絵面が悪過ぎるわね。清らかなのは私一人だわ」
後ろから、ソーニャの勝手なセリフが聞こえた。
「お前も攻撃しろよ!」
「お兄ちゃんもイアも、ボスに近付き過ぎなのよ。フレンドリーファイアが怖いから無理。私の魔法で死んでもいいなら攻撃するけど」
ボスを殴りつつソーニャに苦言を呈せば、真っ当な理由が返ってきた。
サボっているのではない。手を出す隙がないのだ。
三人もいると、全員が無駄なく攻撃するのは難しい。誰かが手を出せなくなることもしばしばだ。
ならば、無理にそろって攻撃する必要はない。交代でやればいい話だ。
「俺は一旦下がる!」
「【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ】!」
イアの奥義で、無限の槍がボスの鎧を穿つ。
抑えてくれている間にシシサクは下がった。【星ヲ滅ボシ獅子ノ王】の効果が切れてタゴサクに戻る。
奥義の効果が切れるから下がった。あのまま張り付いていてもよかったが、小休止してソーニャにバトンタッチする方がいい。
「【虹ノ二番ハ橙々キ雨】!」
タゴサクがいなくなった場所を縫うように、ソーニャの奥義が突き刺さった。
ソーニャも後衛に慣れており、連携がうまくなっている。
「サクさん!」
「【流星帝】!」
スキルの効果が切れるイアと交代し、今度はタゴサクが前に。
ボスに連続突きをお見舞いする。
ボスの攻撃も激しいが、こちらは三人もいるので対処できる。タゴサクとイアが交互に前衛をやり、ソーニャは安全な後方から魔法を放つ。
アイテムでHPを回復する余裕もあるし、ボスを相手にしていながらピンチに陥ることもない。
油断はできないが、負ける要素はなさそうに思う。
「サクさん!」
「ん? 【極悪剣】!」
今回の交代は、やけに早かった。
不測の事態でも生じたのか知らないが、疑問に思いつつも攻撃する。
「【全テヲ滅スル光】!」
タゴサクの奥義がとどめとなって、ボスは倒れた。
ボスの莫大な経験値を入手する。アイテムのドロップはないが、経験値はおいしかった。
「ちぇっ、お兄ちゃんに取られた」
「悪いな。でも、恨みっこなしだぞ」
「分かってるわよ。それが私たちのルールだものね。ただ、イアには別の考えがあるみたいだけど」
「な、なんのこと?」
ソーニャに話を振られたイアは、挙動不審になっていた。
隠し事がありますと態度で語っている。
「お兄ちゃんに交代するの、妙に早くなかった?」
「た、たまたまだよ、たまたま。偶然、偶発、ぐうの音も出ない」
「意味不明なこと言っても誤魔化されないわよ。お兄ちゃんにとどめを譲ろうとしたでしょ?」
「マジで? 俺のためだったのか?」
交代が早いとは感じたが、タゴサクにとどめを譲るためとは思わなかった。
これまでもモンスターやボスと戦ってきたが、特別な場合を除き恨みっこなしでやっていた。あえて譲る必要はない。
「健気ねえ。お兄ちゃんが強くなれるように、こっそり支援しようとか」
「違うもん! これはあれだよ! わたしはご主人様だから、ペットにはご褒美をあげないと!」
「お兄ちゃんがご褒美もらえるような真似したの?」
「これからしてもらうの! サクさんは、あとで猫ちゃんです!」
「いくらでも猫になるぞ。ありがとう、イア」
さすがに、適当にでっちあげた嘘だと理解できる。
ボスを譲ってくれたのはイアの心遣いだった。
それ自体は嬉しいし、健気で可愛いが、いつも譲られては申し訳ない。
「基本的には恨みっこなしでやろう。これまで通りだ」
「今日はたまたま気が向いただけです。たまたまですよ!」
「いつからツンデレキャラになったのやら」
さっさとくっつけばいいのに、と。
ソーニャの呟きが聞こえた。
ラブコメっぽいやり取りもいいが、ボスを倒したのだからNPCの子供を助けなければならない。
絵の中に閉じ込められていた少年が解放されて、床に倒れていた。
「この子を守りながら戦う展開にならなくて、助かったな。守りながらだとこんなに簡単には勝てなかった」
「ソロでも戦える設定になっていたのかもしれません」
「私たちは三人だから守れるけど、ソロじゃ厳しいのね」
考察もいいが、少年の様子を確かめる。寝息が聞こえるので、眠っているだけで死んではいない。
少年の周囲には子供用のおもちゃも散らばっている。
少女向けが多い。人形やビーズのアクセサリ、押し花の栞といった物だ。
「この男の子は、これを探しにきたのか? 町でいくらでも買えるだろって突っ込むのは野暮かな」
「何か考えがあったんじゃないの? とりあえず連れて帰らないとね。NPCを連れた状態で、ダンジョンから脱出できるの? アイテムで町まで転移とかさ」
「試してみりゃいい」
落ちているおもちゃはアイテムとして収容できた。
NPCはアイテム扱いにはできず、タゴサクがおぶって行く。
ダンジョンからは脱出でき、転移用のアイテムも問題なく使えた。
四人で【真南都カンナ】に戻る。
少年の家まで連れて行けば、両親からお礼を言われた。
少年もすぐに目を覚ました。絵の中に閉じ込められていたが、その時の記憶はないし後遺症もない。
おもちゃを渡せば【死者の館】に行った理由を聞かせてくれる。
「仲直りするために、プレゼントを贈りたかったの。お父さんやお母さんに買ってもらった物じゃなくて、ボクが手に入れたおもちゃを」
わざわざ【死者の館】に行ったのは、こういう理由だった。
子供が大好き(意味深)な男性が住んでいた館で、小さな女の子用のおもちゃが大量にあるから探しに行ったらしい。
「自分でおもちゃを入手しようとする心意気は立派だが……」
「女としては、【死者の館】なんて場所にあった物をもらってもねえ」
タゴサクとソーニャは現実的な部分が気になっているが、イアは違う。
「素敵じゃないですか! これですよ! 男の子はこうでなくちゃ! サクさんは見習ってください!」
このように大絶賛だ。タゴサクと少年を比較し、見習えとまで言っている。
イアの褒め言葉に少年は喜び、喧嘩の理由も話してくれる。
少年が大事にしていた本を、女の子が汚してダメにしてしまった。
女の子は謝っていたのに許せず、そのまま引っ越したせいで会えなくなった。
離れてから後悔する。仲直りしておけばよかったと。
「ごめんなさいって手紙を書くの。素直になれなくてごめんなさいって。仲直りの印にプレゼントも贈るんだよ」
「ますます素敵です! 将来は格好いい男性に成長しますよ!」
タゴサクへの当てつけのようにべた褒めするが、素直になれなかった二人が仲直りできてハッピーエンドなのはいいと思う。
SOSのクエストにしては綺麗な結末だ。
「将来は、ボクのお嫁さんになってくださいって言うの!」
「ませたガキだな」
ハッピーエンドには違いないが、結婚まで話が飛ぶとはませている。
見た目は十歳にも満たないお子様なのに。
「さらにさらに素敵です! 一途に愛するのはとっても大事ですよ! その気持ちを忘れないでください! 女性に見境なしになっちゃダメですよ!」
「ませたガキっつったが、素直になれる分だけどっかの誰かよりも大人だな。どっかの誰かよりも」
イアが少年を褒めちぎるのが面白くなくて、タゴサクも皮肉を口にした。
素直になれない「どっかの誰か」への嫌味だ。
「わたしは素直ですよ。猫ちゃんが大好きです」
「俺が猫にならなくなったら、イアにとっては価値のない男になるのか?」
「そ、そうですよ。猫ちゃんのサクさんだから好きなんです」
「俺はイアの全部が好きだぞ」
「はいはい、サクさんは口がうまいですね」
「ほんと、素直じゃないわねえ」
二人の言い合いを聞いて、ソーニャがまとめた。
イアが素直じゃないのはいいとして。
タゴサク的にはあまりよくないが、ゲームを進める。当初の目的である【水の国トゥーリバー】の女の子から預かった荷物を少年に渡した。
中身は本だ。そして、タゴサクたちには本の内容が重要だった。
女神ニフナジュレタの物語だったのだ。
「ビンゴだ!」
女神の居場所が書かれている。そこへ行けば女神のイベントを一つクリアだ。
「ここまで苦労して、やっと一つか。大変よね」
「見つかっただけよかったじゃないか。準備して、早速行ってみよう」
荷物運びのクエストは、少年に本を渡したことでクリアになった。
クエスト報酬はなくとも、今は女神の情報が一番の報酬だ。
本によると、単に女神の居場所に行くだけではイベントクリアにならない。
川の水が必要だった。【水の国トゥーリバー】にある川の水と【真南都カンナ】にある川の水が両方だ。
「【水の国トゥーリバー】は川の上にある町だからいいとして、【真南都カンナ】に川ってあったか?」
「NPCに聞いて回るしかないわね」
「情報集めは任せていい? わたしは【水の国トゥーリバー】に行って、水を汲んでくるよ」
三人で手分けし、女神に会うためのアイテムを集める。
タゴサクとソーニャは川の場所を聞き、イアは水の入手だ。
川は、フィールドに出て少し歩けばあると分かった。イアも水を入手して戻ってきたので、フィールドに出る。
何度も往復して大変だが仕方ない。
荒れ果てた大地を往けば、ほとんど干上がっている川があった。わずかだが水が残っているので入手する。
次いで別の場所に行くと、一本の木が見つかった。
枝には葉も花もついておらず、枯れた木だ。
この木の下で愛を語り合った恋人は、女神様の祝福を受けて幸せになれるという逸話があるらしい。本に載っていた。
女神様が恋人たちを見守っていてくれる。
いかにもトキヒメが作りそうな設定だ。
ただし、見ての通り枯れているため、女神様の祝福は受けられない。
木を復活させる必要がある。
「水を使えばいいんだよな?」
「本に書いてあった通りならね」
二つの町で入手した水の力により、木が復活する展開だ。
三人で木の根元に水を撒く。
すると、木が輝き出し、枯れ枝に金色の花が咲き乱れた。
まばゆい光を浴びて、タゴサクは反射的に目を閉じる。
目を開けば、金色の花を咲かせる木の枝に、女神様がちょこんと腰掛けていた。
女神ニフナジュレタだ。
「ワタシを助けてくださり、感謝します。これで皆を愛することができます」
お礼を言ってくれてから、女神様はアイテムをくれた。
水を撒いたのが三人だからか、三人とも入手できたのはラッキーだ。
指輪の装備品で、イアが入手した【ニフナジュレタの祈り】と同じくアクセサリになる。
名前は【ニフナジュレタの癒し】だ。
装備していれば、一度だけHPを全快できる。使用後は壊れてしまうので、使い捨ての装備になる。
「女神様の装備っていくつもあるのね。武器とか防具とかもあるのかしら」
「どうだろうな。全部アクセサリって可能性もある。他のMMORPGなら、ゲーム内で一本だけの最強の剣とかになるんだろうが」
SOSにはオンリーワンの装備は存在しないため、クエストをクリアすれば全員が入手できる。
女神のクエストをこなし、剣を入手しているプレイヤーもどこかにいるかもしれない。
タゴサクも剣が欲しいが、狙って入手するのは困難だ。
「新しい剣が欲しい」
「今の装備は買ったばかりでしょ?」
「所詮は店売りだし、誰でも買えるからな。MMORPGをやってるなら、やっぱレア装備が欲しいだろ。俺だけの特別装備じゃなくてもいいが、モンスターのレアドロップとかさ」
「まあ、私も新しい服は欲しいけどね。和装とかないかな」
「わたしは槍が欲しいです。いまだに【冥骸槍グラムガラム】なんですよ」
イアの装備は、ジャパンステラにやってきた時に購入してから変わっていない。
レベル100そこそこの時から使い続けているし、更新する時期だ。
「俺はコローレステラで剣を買ったが、イアも買えばよかったじゃないか。今の槍よりは強くなるだろ」
「格好いいのがなかったんです。【冥骸槍グラムガラム】みたいに格好いい名前の武器が欲しいんです」
名前の格好よさにこだわるのが、厨二病患者のイアらしい。
「じゃあ、ダンジョンの宝箱やボスのドロップで、装備を狙ってみるか? うまくいくかは分からんが」
「いいですね」
「女神の情報集めはどうするの?」
「一日や二日なら、寄り道しても大丈夫だろ。夏休みだし時間はあるんだ」
明日は新しい装備を探してみることになった。
今日の残り時間は何をするかというと。
「猫ちゃん」
「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】」
約束通りネコサクになって、もふもふの刑に処された。
「ニャーって鳴いてください」
「そこまで堕ちる気はない」
「鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、サクさんを。ほらほらほら、これがいいんですよね? 鳴くんです!」
「やめ……それは強……あへぇ」
「『あへぇ』じゃないです。『ニャー』です。鳴いちゃえ!」
「緊急連絡。ミディーリ助けて。お兄ちゃんとイアがマジでヤバい、と」
ネコサクは喘ぎ、イアはドSキャラに変貌、ソーニャはミディーリにヘルプを求める。
平和な夏休みだった。
繰り返すが、平和なのだ。




